「君のこと、大切にするよ」
僕は今まで友だちとして接してきた愛衣ちゃんに心の内を伝えた。
愛衣ちゃんは戸惑っているみたいだ。
「前から好きだったんだ」
「ありがと」
彼女は顔を赤らめてポツリと答える。
僕は内心ガッツポーズを決める。
「本当? 嬉しい。俺超嬉しい」
「うん。これからもよろしく」
「こっ、こちらこそ」
誰も居ない美術部教室の片隅で僕らは向かい合っていた。
「一緒に帰ろうか?」
彼女は頷く。
一年生の頃から僕は愛衣ちゃんに気があった。
周りにはいつも友達が居て二人きりになるのは数えるほどしかない。
合計時間に直したら1時間もないのではないか?
「愛衣ちゃんは俺のことどう思ってた?」
「えぇ? そんな、恥ずかしい…」
「え? 恥ずかしがるようなことじゃないよ」
部活が終わった後、居残りで僕らは遅くまで部活を続けた。
ていうか僕が愛衣ちゃんに合わせて終わるのを待っていたんだ。
「あの、次の休み何してる? その何処か遊びにさ…」
僕は荷物を仕舞いながらデートのプランを速攻で組み立てる。
「うん」
「遊園地か動物園か」
「うん。その前に…」
「港にできた水族館も良いな…」
「見せてくれる?」
「え?」
愛衣ちゃんは手を後ろに組んでモジモジとしていた。
なんだろう?
「だから見せてよぉ」
「え? なにを?」
「ぇ… やだ。言わそうとしないでよ」
「見せるって? いやでもホントに解んないんだ」
「もぉ、いじわる」
「誠意とか好きだっていう証とかそういうこと?」
「えー? 違うよ。ふざけてる? 恋人同士になったら初めにすることだよ?」
「恋人同士になったら? 初めにすること?」
オウム返しにつぶやいてみるが思い当たらない。
僕は必死でない頭をフル回転させる。
「もしかしてキ、…キス?」
「もう、やだ、ホントに解んないの? だって常識だよ?」
「そ、そうなんだ…」
「ほら… これ…」
愛衣ちゃんは右手で何かを握る格好をしてそれを上下に動かした。
「え?」
「これだよ」
上下するスピードが僅かに増す。
「もうやだ。とぼけないで」
愛衣ちゃんは動作を止めて恥ずかしいのか顔を背けてしまった。
僕はまさかと思った。
他にどう考えられる?
下ネタばっかりの奴と思われたくない。
きっとアレによく似た何か別のまともな行為だ。
「マ、マラソン… 肩たたき… じゃんけん… とかかな…?」
彼女ははにかむのをやめて向き直った。
「知らないの? 小学生でも知ってると思うけど」
「う…」
無知を責められるのが恥ずかしかった。
いや、でもさすがに口には出せない。
女の子がそんなこと口にする筈がないし…。
しかし馬鹿にされたままにしてはいけない。
僕にだって少しくらいプライドはある。
「男の子はね、好きな女の子の前で自分の力を誇示しなくちゃいけないんだよ?」
「え?」
「他のオスに比べて自分の方が優秀だってメスに見せつけるの」
それは、つまり、どういう? 僕は口を開けたまま固まってしまった。
「もう、ここまで言っても解らないの? オナニーだよ。オナニー」
「え!? えぇえ!?」
驚愕の告白だった。
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