功は歳下の男子たちに競泳水着を脱がされてしまった。屈辱だった。怒りがこみ上げる。更衣室内に一際大きな笑いが起こる。
「ぎゃははっ」
「ちんこちっせー」
功は腕を掴まれているので手で隠すことはできない。ちんちんが見られないように功は膝を折って丸まった。一太が脱がせた水着を功の目の前にチラつかせた。バカにしやがってと功は頭にきたのだが顔が真っ赤になるだけでどうすることもできなかった。
「ホレホレ返して欲しいか~」
2コ下の後輩にこうも簡単に脱がされて屈辱を味わうことになるとは…。みんなの前で… 大恥だ。周りは水着姿で功だけ素っ裸という状況。身動きが取れない。このままじゃ…いつまでもこの格好のままだ!
功が自由の奪われた腕を力いっぱい振り回すと、目標を達成した大樹たちは油断していたのか腕を離してしまう。おかげで解放された。
「いい加減にしろよコノやろ!」
功は逆襲に出る。目の前に吊るされた水着を奪おうと腕を伸ばした。だが一太はすばやく後退して奪い取れなかった。功は立ち上がって両手で股間を隠す。周りは同情と嘲笑が混じった顔が並んでいた。奪い獲った水着を掲げた一太が「へんっ」と笑って、ここまで来いという顔をしている。
「返せ!」
もう一度片手を伸ばす。一太は腕を引いて上手く躱した。腰が引けた功はそれでも一太に向かっていった。それもまた逃げられ、一太に背を向けられて躱される。その様子が滑稽なのかまた笑いが起こる。恥ずかしくて情けないが早く奪い返さないといつまでもこの悪夢は終わらない。
「隆史ー」
功が自分より背の低い筈の一太から水着を奪いとろうと右腕を伸ばしたそのとき、一太はジャンプして水着を隆史に向かって投げた。放物線を描いて水着が飛んでいく。功はとっさに空中で掴もうとジャンプして両手を伸ばす。だがタイミングがまったく合わず、無様に空を掴んだ。
功が振り向くと隆史が水着を拾い上げるところだった。
「なにしてんのーお兄ちゃん! こっちこっち」
「顔、真っ赤っ赤だぞお前ー」
功はちんちんを隠すのも忘れて隆史に向かってタックルした。しかしひらりと簡単に避けられロッカーに激突してしまった。またも無様に転んで情けない格好を晒してしまう。
「バカじゃないの?」
「なにやってんだコイツ」
功は痛みを我慢して一刻も早く水着を取り返そうと立ち上がる。両手を水着に向かって伸ばした。
「ちくしょー」
「ほれっ大樹ー」
水着は後ろへ放られて大樹の手に渡る。功は隆史にぶつかって二人一緒に倒れ込む。
「んだよ!どけ!」
もはや先輩に対する言葉遣いなど微塵もない。功は頭に来てコイツも自分と同じ目に合わせてやる!と隆史の水着に手を掛けた。
「おっなんだ!なにすんだ!!」
隆史は当然自分の水着を防衛した。功に手を貸す者は居ない。隆史の力は強くて功の力では脱がすことができなかった。結果、素っ裸の自分を晒している時間が長くなるだけだ。
パシィィンッ!
「あぐぅ!」
どうすることもできずにいた功に突然蹴りが飛んできた。それも後ろから股間を狙った強烈なものだった。功は飛び上がって倒れる。一太がカンフーアクションのものまねをしながら後ろに立っていた。手を叩いて喜ぶ観衆。笑いが耐えない。
功はちんちんを手で庇い、身体を丸めた。しばらくみっともない格好で晒される。
「うくぅ…」
功の姿に先輩の威厳などどこにもなかった。功はいつまでもこうしてはいられないと脂汗をかきながらも顔を上げる。
「あっ水着落としちゃったー」
功の視界に入るように大樹がわざとらしく水着をひらひらと床に落とす。
「くっ、返せー!」
功は痛みを堪えて立ち上がり自分の水着に飛びかかる。一刻も早く水着を取り返さなければ! 大樹は足元の水着を拾い上げようと手を伸ばす。ビーチフラッグさながら功と大樹の手が交差する。それを掴んだのは同時だった。
「このっ離せ!」
「はんっ力弱いくせに粋がりやがって」
水着を掴み合い綱引きとなった。お互いに引っ張って水着がビキビキッと音を立てる。踏ん張りが効かずに功は床にずるずると倒れ込む格好となった。大樹はチャンスとばかりにかかとを功の顔に落とす。後輩である大樹のかかとが、先輩の功の顔面を直撃した。
功は思わず水着から手を離してしまった。大樹は水着を持って更衣室の出口へ向かう。功は焦った。外に出られたらまずい! 鼻血が出ていたがそんなこと気にも掛けずにすぐさま立ち上がり大樹の元へ走る。
案の定、大樹は更衣室を出ていった。功もその後に続く。
「はっはっ!ちんこ丸出しだったなーあいつ」
「馬鹿なやつだな。すっぽんぽんで出ていったぜ。あれでホントに歳上か?」
隆史も一太も「行こうぜ」と笑いながら後を追った。
「せめて自分の服、ロッカーにあるんだから着ていけばいいのにな!」
隆史の一言で更衣室は温かい笑いに包まれた。