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秘密の部活動で(8)

 ふと、紗季は思う。いったいなんなの。このクラブ? なんの活動なの? 研究会と称して、そう言えば何を研究してるの? 科学も美術もないではないか。そう思って深藍に聞いてみる。
「…」
 深藍は笑顔から、ショックを受けたという顔に変わって、そのまま固まってしまった。床にはおちんちんを手で抑えて寝転がる郁彦。愛衣乃と麻理璃も「え?」という顔を紗季に向けていた。まるで今まで一緒にいて何で解らないの?とでも言いたげだ。
「だってこれじゃ軽いいじめ…ぽくない?」
「えー? でもここに裸の男子がいるでしょ。私たち女子は服着てるでしょ? それでよくない?」
「…?どういうこと?」
 相変わらず会話が噛み合っていない。
「みんなそれで愉しんでるんだからオールオッケーじゃ?」
「…そう」
 この部室で頭がおかしいのは紗季の方だったということだ。
「ハッ。くにちん隠れてっ」
 突然、深藍が何かを察知した。「早くっ」と郁彦を急かす。郁彦はおちんちんを手で抑えながら、愛衣乃と麻理璃に抱えられて起き上がる。隠れるとは何から隠れるのだろうか? そもそも隠れると言ってもこの部屋には机と椅子しかない。どうするつもりだろう?何が起こるのだろうと紗季は不安になる。
 そのとき、コンコンと部室のドアをノックする音。深藍が窓の方を指さして麻理璃の顔を見る。麻理璃は頷いて窓を開け放った。そしてふわっとスカートをひるがえしながら部室の外へ出た。そして愛衣乃が郁彦を軽く持ち上げてお姫様抱っこした。
「どなたですかー?」
 深藍がドアに張り付くようにして訪問者に話しかける。
 愛衣乃が窓へ向かった。何をするのかと紗季が思っていたら郁彦をそのまま窓から外へ放り出すようにした。外では麻理璃が受け取っているみたいだ。愛衣乃は郁彦のカバンを引っ掴んで窓の外に放り捨てた。
「A組の級長の鬼頭海太という者だ」
「…はーい。今開けますね」
 A組といえば紗季のクラスの隣だ。つまり郁彦のクラス。深藍は麻理璃が戻るのを確認してドアを開ける。窓もちゃんと閉めて完全に郁彦の姿が消えた。
 慣れている…。紗季はそう思った。
「どうしたんですか?」
「どうも。A組の鬼頭だけど…。実はね、この部室を勝手に使っている人が居ると聞いて来てみたんだ」
「はぁ?」
「ふぅん。どうやらタレ込みは本当のようだね」
 海太はドアの手書きプレートを見やった。「科学美術総合研究会」と汚い字で書いてあるのを目撃したに違いない。
「単刀直入に言うが、君たちもいい歳して、こんな意味不明の子供じみたごっこ遊びはやめてくれないか」
「…いきなり来て何言ってんです?」
「ネタは上がってるんだよ。好き勝手に部室を占拠して、申請も通ってない変な部活を始めたと生徒会に通報があったんだ」
「許可はもらってますよ…。何でA組のあなたがそんなこと言いに来るんです?」
「僕はお前らみたいな劣等生と違って生徒会の仕事もこなしているんだ。その許可とやらは誰にもらったんだ?」
「誰だっていいじゃないですか」
「よくないよ。後ろの2人も黙ってないで何とか言ったらどうなんだ?」
「あの、部活の邪魔なんでどっか行ってくれません?」
「まったく。揃いも揃って…」
 海太は語尾を濁したが紗季には「クズが…」と言っているように聞こえた。
「もーいいですか?」
 深藍は用事はもう終わったと言わんばかりの言い草だった。
「チッ、生徒会で問題にしてやるからな。そしたら内申書にも響くし、君たちの人生真っ暗だ」
「初対面でこんなに言われる筋合いないですけど?」
「あぁそう、話にならんね」
 海太は部室を見回して紗季の顔もちらりとみやった。冷たい目だ。心から他人のことを馬鹿にしているに違いない。海太は踵を返して立ち去ろうとした。
「あぁそうだ。あと一つ、ここにウチのクラスの酒井郁彦が出入りしているんだよね?」
「はぁ?見ての通り、いませんが?」
「フンッ君らが仲良くしてるところを見たって奴が居るんだ。隠し通せるもんじゃないぜ?」
「別に隠してませんけど」
 深藍はにこりと笑う。平然と嘘をつけるようだ。
「ま、そのうち潰してやるよ。こんな低レベルな集まり」
「…」
 海太は去っていった。とても気分が悪い。紗季はガクリと椅子に座った。深藍は背中を向けたまま表情が伺えない。
「まぁああいうヤツだよ。気にしちゃ駄目だから深藍」
 麻理璃が深藍に近付いて肩に手を置く。
「次の生徒会長狙ってるらしいな。あのアホボン」
「ねー。もしかしてくにちんいじめたっての…もしかしてアイツ?」
 深藍が振り返る。撥ねた髪。どこを見ているのか解らない目。寂しそうな表情、生徒会に目をつけられて堪えたのか、無理して笑おうとしていた。
「よく解ったね? 深藍。アイツいつも酒井に辛く当たるんだ。表面上、普通に接してるように見えるけど」
「もうクラスの大半があのアホボンの言いなりだ。誰も逆らわない」
 深藍はぶすぅっと口を尖らせる。
「どうするの? 深藍?」
「んー…生徒会長ってあんなのでもなれるかね?」
「まあ信頼に足るものがあれば…」
「ふーん」
 紗季はそんなことよりも全裸で外に放られた郁彦が心配になった。
「酒井どうしてるかな?」
 あんな何もかも丸出しの格好の男子が外をウロウロしていたら誰かに見つかってしまうのではないか。
「外には居ないな」
 愛衣乃が窓の外を見やって答えた。できるだけ部室から離れるようにあらかじめ言われていたようだ。
「私ちょっと探してくる」
「別にいいのに。すぐ戻ってくるでしょ」
 紗季は部室の外へ出て行った。
 歩いて部室の裏側へ回る。木陰を見て回って誰も居ないか確かめた。どこへ行ったのだろうと思っていたら声が聞こえてきた。声を顰めた様子だ。部室棟とブロック塀の隙間に海太の背中を見た。
「オナニーしろよ」
「…はい」
 海太の向こう側には全裸の郁彦が居た。跪いて自分でおちんちんを握っている。紗季は木を盾にしてその様子を眺めた。静かにケータイを取り出す。
「早くしろよ。ムービー撮って女子に回してやるから」
 海太はきっと郁彦が逃げる姿を見たのだろう。完璧に隠れたと思ったものの見つかってしまったのだ。
 郁彦は外に出てから早く服を着れば良かったのに、おちんちんを隠しもせず、きょとんとした顔をして戻って来いと言われるまで待つつもりだったのか? もう全裸がこの部活でのデフォルトの格好ですと言わんばかりの顔だ。それで簡単に海太にも見つかってしまうなんて…バカなのかなと紗季は思った。
「早く」
 海太の少し苛ついた口調に郁彦はおちんちんをしごき出した。顔を伏せて一生懸命上へ下へしごいている。男子が自分で慰めている姿を紗季は初めて見た。「あんなふうにやるんだ…」と感心してしまった。
 しこしこしこしこ…
 海太はケータイを郁彦の前に掲げて角度を調整したりしている。郁彦が顔を上げた。真っ赤になった表情。目をつぶって苦しそうな、それでいて快感を貪る異様な姿に紗季は胸が熱くなる。きっと人前で披露することが恥ずかしいに違いない。それでも取り憑かれたようにおちんちんに刺激を加えている。郁彦の小さなおちんちんははち切れんばかりに膨張していて元気だった。紗季は心配して損した気分になった。
「はぁはぁ…」
 郁彦の息遣いが荒くなっていく。喘ぎ声というのだろうか。嗚咽も漏れでていた。背筋を伸ばして反り返らせ、郁彦は一際悩ましい雄叫びを上げた。
「はぉんっ」
 ビクッ
 郁彦の身体が電気ショックでも受けたかのように跳ねて、次の瞬間にはおちんちんの先から白いものが勢いよく飛んでいた。
 ぴゅっぴゅっ
「はやっ…」
 紗季は男子が射精する瞬間を初めて目の当たりにした。美しいとさえ思える放物線。生命の躍動感を体現する勢い。散弾銃のように飛び散る残滓。人は砲丸投げや槍投げに代表されるように武器を遠くに飛ばすことに本能的な喜びを感じるのだろう。白濁液の飛距離も申し分ない。郁彦は生命体としての活動を全うしたとでも言わんばかりの穏やかな表情をしていた。神々しくもあり、間抜けと言えなくもない。
「クソがッ!」
 海太の右足が郁彦の顔面を捉えた。蹴り飛ばされて賢者タイムを邪魔された郁彦。地べたに転がってしまった。
「靴に掛かって汚れちまったじゃねぇか!」
 海太は郁彦のお腹を蹴ってから、郁彦のカバンから服を引っ張りだして靴の表面を拭った。そしてその場から離れていく。憎々しい後ろ姿だ。紗季は唇を噛み締めた。
 海太が去った後、紗季は郁彦のところへ駆け寄った。彼はボロ雑巾のようだ。おちんちんはまだ熱を保っている。紗季はティッシュを取り出して蹴られたところを心配するよりも先に射精後の後処理をしてあげた。郁彦は恥ずかしそうに精液の付いた手で顔を隠していた。

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