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秘密の部活動で(10)

 深藍はつかつかと教室に入っていった。隣のクラスだが躊躇はない。
 紗季はドアのところから中を覗う。どうやら騒ぎがあったというのは本当のようだ。先ほど麻理璃が紗季と深藍のクラスに駆け込んで来たのだ。話によると郁彦がまた酷いいじめに遭っているという話だった。確かに見ると郁彦らしき人が全裸で床に転がっていた。顔の部分はシャツを捲りあげられて見えないがその他の部分は全部露出しているという、なんとも恥ずかしい格好だ。
「いじめってよくないよね」
 深藍は海太の方を見て話し出す。人の目をあまり見ない深藍にしては珍しい。
「何だ?」
 深藍と海太が対峙する。
「私思うんだけどもね。生徒会長になる人物ってさ、いじめを許しちゃいけないと思うんだよね」
「君は何なんだ、いきなり入ってきて!?」
「どうして人は人をいじめるんだろうと思ってぇ。生徒会長をなるようなご立派な人物はいじめがあったら見過ごさないと思うんだ」
 深藍はチラリとおちんちん丸出しの郁彦を見やった。
「言っておくが、僕は止めたんだぞ。みんな冷静になれよと言っていたところだ。なぁみんな?」
 得意げな顔だ。紗季は以前、海太が郁彦にいやらしいいじめをしている現場を目の当たりにしている。どの口が言うのだろう。海太はみんなの前ではいい人そうな顔を装っていた。
「こんなにエスカレートするまで放っておいたのに、ほんとに止めたんすか?」
「まったく…証拠もないのに変な言いがかりはよしてくれ。僕はずっと止めていたんだぞ」
 深藍はみんなの顔が窺う。「ふふふ」と深藍はほくそ笑む。誰も「そうだ」と海太に同調しない。それだけでこの状況の構造を物語っていた。海太の言葉にも嘘があるのだ。
「生徒会長って、人望なくてもイケるもんなの?」
「クッ」
 勝ち誇ったという深藍の顔に海太の顔が紅潮した。
「上から命令するだけで、人が動いてくれて、自分は手を汚さない。金持ってる権力者ってだいたいそーだよねぇ?」
「チッ。僕がそうだって言うのか? 俺がいじめなんてするわけないだろう!」
「お金チラつかせて手下いっぱい従えて…」
「ぅめ、名誉毀損だ! やってるって証拠あるなら出してみろ!」
「別に証拠はないけどぉ、ねぇ?」
 深藍はクラス中を見回す。実態を知っているクラスメイトたちは目を背けたり口をつぐんでいた。紗季はこのこわばった空気の中、入り口から一歩踏み出し中へ入る。
「なんだよコノッ。俺は間違ってない! いじめてたのはコイツらだ!!」
 海太は男子の数名を指差していく。なんだか軽く取り乱していて痛々しい。
「んー。さっきから私は別に人ってのはー…っとか、生徒会長たるものはー…ってことの一般論を言っているだけでさ」
 深藍は走りだす。誰かの机の上にダンッと飛び乗った。そして海太を指さす。
「別にあんたがやったなんて、さっきからぜんぜん言ってないけどね!」
「お…」
 海太は言葉に詰まった。深藍は机から飛び降りて着地し、つかつかと海太に近づく。
「…クッ…」
「それとも、そんなにムキになるってことは… 本当に酒井郁彦に対してなんかやましいことあんの? もしかしてほんとに命令出してた?」
「バッ、バカな。何言ってるんだよ。クラス委員長である僕がそんなことするわけないじゃないか!」
 深藍は確かに海太に対してというよりみんなに語りかけるような素振りだった。目だけは海太を見て話して、海太を誘導していたのだ。だけど、それではまだ弱い。確証がないと海太の支配は終わらないだろう。紗季は深藍の隣に並んだ。
「ヒソヒソ…あれって全部鬼頭君がやらせてたこと…?」
「まさか…」

「マジで?」
「鬼頭君、ホントかよ?」
 事情を知らない生徒たちはぼそぼそと喋りだす。
「あんたたちが本当に生徒会長に推していい人物かどうか確かめてみたらっ?」
「ハッッ… 証拠がないなら教室から出てってくれないか。まったく!」
「証拠ってこれでもいい?」
 紗季はケータイを取り出していた。それを掲げてムービーを再生する。海太が郁彦にオナニーをさせているシーンが映った。郁彦には申し訳ないが決定的な証拠ではある。
「おっ…おっ…」
「ほぉ、こんなの撮ってるとは…。やるね紗季」
 海太が手を伸ばして紗季のケータイを奪おうとした。誰かに取り押さえられる。いつのまにか愛衣乃と麻理璃が海太の両サイドに回り込んでいた。
「クッ何だ!?お前ら、離せっ」
「うわ…これは鬼頭君…引くわ…」
「やだ…最低ね」
「なんだよコレ」
「気持ち悪」
 紗季のケータイの周りに人が集まる。一目見た生徒たちは同じような感想を漏らした。ムービーは海太が立ち去るところまで映っていて、後ろ姿が主だったが顔もばっちり出ていた。
「いやっ違うだろっ!合成だろが!お前らの部活でもあいついじめてんだろ!こんなもん作って訴えるぞコラ!」
「私、そんな技術ないし、やりかた知らない」
 でも郁彦が部活でどんな目にあってるかをみんなに知られたらマズいのは自分たちだと紗季は思った。
「私たちの部活はいじめなんてしてないよ。科学的な実験だからっ」
 それは初めて聞いた紗季だが、まぁ何とか言い逃れ出来そう…か。
 海太は「嘘だ!」とか「やってない」とか叫んでいたが、周りの男子たちが愛衣乃と麻理璃に代わって取り押さえ始めた。「よくも俺たちを騙して…」「なんだよ、お前結局やってたのか」「マズいこと人に全部押し付けるなんて…」「お仕置きが必要でしょ」と次々に声が上がる。
「くにちんと同じ目に遭わせてやったら?」
 深藍が世論を誘導する。「そうだ」「そうよ」と生徒たちの声があがった。男子たちは郁彦にしたのと同じことを海太にやり始めた。
「ヤっちまえ」
「クソッヤメろ!」
「大人しく女子のみなさんに見てもらえよお前」
「散々アゴでこき使いやがって」
 海太は床に倒されてネクタイをはずされシャツを脱がされて、ズボンもあっさりと脱がされた。真っ白いブリーフが顕になる。それはみんながイメージしていたような格好いい男子のパンツではなく、デパートで売っているような安物のブリーフだった。きっとお母さんに買ってもらってきたものだろう。
 紗季はちらりと郁彦が気になって見てみる。彼は数名の優しいクラスメイトの女子に介抱されていた。未だに全裸ではあったが、頭部と腕に巻かれた複数本のネクタイを女子たちが丁寧に外していた。深藍が傍らに立っている。何ごとか優しそうな表情で話しかけていた。
「紗季、あなたが最期の一枚殺っちゃってよ」
 麻理璃が紗季の肩を叩く。
「え?」
 紗季は愛衣乃に背中を押されて人垣の輪の中心に入っていく。そこにはメガネをずらされて髪型もめちゃくちゃな海太の姿があった。身につけているのは純白のブリーフと白い靴下だけで上履きは取られていた。郁彦よりも細い身体だ。多少のスポーツはしているようで胸板は郁彦よりも厚い。日焼けしているのは腕や顔だけでその他は白かった。それだけ見れば郁彦のような虚弱体質ではなく、一般的な男性の身体付きだと解る。一般的な男子の力を持ってしても複数の押さえ込みは逃れられないらしく、今彼にできるのはわめくことだけだった。
「離せっ!お前らこんなことしていいと思ってるのか!お父さんがに言いつけてやるからな!」
 何を言っても周りの男子たちから「あ~そう」「もう誰もお前の言うこと聞かねえって」などとからかわれていた。もう居丈高だった鬼頭海太の姿はどこにもなかった。海太がどんなに勇ましいことを言っても間抜けな格好では説得力もない。
「さ、最期の一枚殺っちゃってください姐さん」
「姐さんの為にとっておきましたっ」

「…ね、姐さん?」
 男子たちはおどけているのか本気なのかみんなが紗季のことを姐さんと呼び始めた。そして海太の両足を持ち上げてちんぐり返しさせる。お尻がくんと上向いて天井を眺めた。程よく肉の付いたお尻だ。ブリーフ越しでも隆々とした男性の筋肉の動きが解る。郁彦と違い、こんなにしっかりとしたガタイの男を身動きできないようにしてしまって、すっぽんぽんにしてやろうと言うのだ。今までにない加虐にゾクリと身体に電流が走る。紗季は自分の弱い力でも男を屈せられるのだと思ってしまった。
 紗季は屈みこむ。ブリーフを脱がそうと腰部分の裾を掴んだ。間近で見るとおちんちんの形がくっきりと浮かび上がっていた。滑らかな曲線を描きゲレンデのような銀世界が広がっていた。海太がまた暴れ始めた。女に脱がされると解って足掻いているのだ。どんなに全力で暴れても完全に押さえつけられて、お尻を少し振る程度にしか身体を動かせないようだ。いたずらしたくなって紗季は人差し指をゲレンデに沿って滑空させる。びくぅっと海太の身体が跳ねた。シュプールを描きふもとまで降りきった。
「うわっ何してんだ!クソッ!」
 彼はこそばゆいのか、可愛くお尻を振ってイヤイヤする。紗季は海太の言葉を無視して再び裾を掴む。
「やめてくれ!」
「何を?」
「お願いだ…やめてく…」
 紗季は躊躇なくブリーフを上にずらしていく。ちんぐり返し状態なので、まずお尻から顕になった。ぷりっとした白いきれいなお尻だ。ブリーフよりも白いのではないか。続いてお尻の穴が披露された。毛がなく汚らしい感じはなかった。そう言えば男性にしては全体的に毛が薄い。白いお尻を堪能したら、あとは勢いよく膝までずらしてやった。
 紗季は海太のパンツを思い切りズルッと脱がした。
「きゃ…」
「うそっ…なにこれ?」

 周りで歓声が上がる。同時に抑えた悲鳴も聞こえた。
 海太のおちんちんはぷるるんっと顔をだす。これは勃起しているんだろうなと思った。紗季の目の前でおちんちんの先っちょがおへそに着こうとしていた。まったく郁彦にしても海太にしても、何でこんな恥ずかしい状況で勃起するんだろう? 男は馬鹿なんだと紗季は納得することにした。
 海太のおちんちんは小さいながらもしっかりと反り返ってプライドを強調していた。普段の彼のふんぞり方にも似ている。どんな弱い牡鹿にもツノがあるように、どんなに貧弱なオスカブトムシにもツノがあるように、海太のおちんちんは小さいけれども、皮を被って亀頭が少ししか見えないけれども、辛うじて「僕は男の子だぞ」と、おちんちんを精一杯勃起させて威勢を張っているようにしか見えない。
 残念ながら紗季には幼児のおちんちんとしか認識できなかった。最大の原因はおちんちんの周りに毛がなく、つるつるだったからだ。
「まだ生えてなかったんかよ…」
「赤ちゃんみたーい」
 紗季たちの年代でまだ毛が生えてないというのは成長が遅いと一言で言えるものではなかった。郁彦だって少しは生えているのだから。
「これは剃ってますな」
 学者のように指であごをさすりながら深藍が背後から品定めしていた。
「そうなんだ?」
 紗季は言いながら膝までブリーフをずらしてやった。後はみんなが協力してブリーフをずらしていって足首から引き抜いた。主を失ったブリーフはひらっと放られて教室を舞った。女子たちが「きゃっ」「いゃあ」とはしゃぎながら避けていた。誰かがふざけて「ほり~」と摘み上げる。そうこうしているうちに開いていた窓からひらりと出て行ってしまった。
「すん…、すん…、うぇっ…」
 海太は見る影もなく情けない格好をさせられていた。両手両足でバンザイする形で拘束され、白い靴下を除けば、生まれたままの恥ずかしい格好を、今まで自分が支配下に置いていたクラスメイトたちにお披露目しているのだ。そんな悔しい筈の仕打ちなのに郁彦同様におちんちんは硬く反り返ったまま。そしてついに海太の目から涙がこぼれ落ちた。もう生意気な口を利いていた海太はどこにも居ない。顔を歪ませて鼻水を垂らしよだれが溢れ、声を上げて泣いてしまった。
「しっかりしなよっ。男でしょっ?」
 紗季は平手でお尻をぺっちぃんっと弾いた。和やかな笑いが起こる。充分過ぎるお仕置きだ。紗季は満足してその場を離れた。深藍が肩を寄せて小突いてくる。
「どうなることかと思ったけど、まあまあスカッとしたねっ」
〈終〉

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