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【特別篇】幽体離脱で

1.1

◇ 心太朗

 この男、オナニーをすると【幽体離脱】してしまうという特殊体質の持ち主だった。

「クソ智慧ちゃあん… むにゃ」

 泉谷 心太朗(いずみや こたろう)はおちんちんを丸出しにして寝ていた。

 くかぁ… と下半身を露わにして気持ちよさそうにベッドに横になっている。丸めたティッシュが亀頭の先っちょに絡みついていた。驚かれるだろうが現在、彼は幽体離脱中である。

 【幽体離脱】とは射精後の5分間 ―賢者タイム― だけ、自由にどこにでも行けるという素敵な能力だ。この体質のおかげで心太朗は女子の着替えを覗きにいくことが日課になっている。

 C学2年生に上ったばかりで試験勉強はそっちのけである。机の上の開きっぱなしのノートや脱ぎっぱなしの服、ボサボサの髪、部屋に散乱した漫画本やお菓子の袋が彼の性格や生き様を物語っていた。

「兄ちゃん? 寝てるの? お風呂空いたよ」

 ドンドンッとドアの外から強めにノックがされるが聞こえはしない。幽体離脱中は自分の肉体がどうなっているかなど解らないのだ。妹の声も届くことはなかった。鍵付きのドアなので不躾に開けられることもないだろうが、本体の無防備さはいささか不安の種ではある。

 しかしそのリスクを撥ね退けてでも見たいものが男にはあるのだ。

 今日はラッキーだと心太朗は思う。

 智慧は真っ最中だったのだ。

 己の分身、【幽体】は今、とある女子の部屋にあった。

 行きたいと願うことで望んだ場所へ一瞬にしてワープすることができる。魂に実距離など関係ないのだ。『実際に行ったことのある場所』に限定されるがどこにだって行ける。身近なところで覗き行為をするだけなので場所を限定されるくらいは不便だと感じることはなかった。

 幽体は水中にいるみたいで泳ぐように空気を手で掻き分けると前に進むことができた。沈むこともないので宇宙遊泳と言ったほうが近い。

 幽体のおちんちん丸出し心太朗はマヌケな平泳ぎでゆっくり女子に近づく。

 もちろん彼女に幽体は見えていない。

 その女子はベッドに座ってスマホの画面を見つめ、パジャマのズボンに片手を突っ込んでいる。

「ん… ん」

 由比ヶ浜 智慧(ゆいがはま ちえ)の家にはよく覗きに来ていた。彼女は同じクラスのお気に入りの女子で、ちょっとお高くとまってはいるが、勢いのある新興企業の令嬢である。羽振りがよくてブランド物の制服を特注するくらい高飛車(セレブ)だ。外見は他の女子と変わらないセーラー服だが素材や機能性が優れているらしい。校則に抵触しない程度だが。香水も自社で生産した質の良いものを使っている。トレードマークの髪留めにしても有名デザイナーが特別に拵えた一点物だ。

 しかも、いつ見ても小奇麗な女子の友だちが最低でも3・4人は周りを取り囲んでいるし、通学は専用の運転手付きだ。この女、苦労をまったく知らねえ。そう言わざるを得ない。

 当然、心太朗のようなダサい男子たちのことは見向きもしない。態度も高慢ちきだし言動も自分以外の人間を見下した感があり、言葉の端々に棘が目立っていた。自由奔放で甘やかされて育った典型である。付き合いたいと思うにはちょっとハードルが高そうな女子だった。

 だが『権威』や『高貴さ』は時に人を魅了するものだ。

 心太朗は智慧に心酔していた。

 彼女は幼い顔立ちだが、つくりものと見紛うほど整っていて可愛らしい。彼女は154センチと小柄で胸はないが、サラサラの長い金髪やつぶらで大きな瞳は存在感の大きさをよく示していた。

「ボンクラ揃いね。うちの男子たちって!」

 それが彼女の口癖だ。八重歯を尖らせ、せせら笑って両手を腰にやるポーズは口癖とセットになっているらしい。恋愛対象にならない男子たちにはハッキリと侮蔑の言葉を投げつけるあたり、相当に性格の悪さと気の強さが伺えた。舌っ足らずで無節操な大声は躾のなってないワガママな子どもそのものだ。

 心太朗も幼友達ではあるのだが、クソミソにバカにされてきた男子の中の一人だ。どれだけ頑張っても彼女の恋人候補にすらなれない。一緒に遊んでいた幼い頃と違って、現在はモブキャラ扱いである。

 その反動もあって彼女の痴態は蜜の味がする。お姫様の秘事を覗いているみたいで背徳的だ。

「んっ、ふう…」

 艶めかしい声で恥じらいながら「マチノくぅん…」と呟いている。頬を赤らめて股間に挟んだ手をイジイジと動かしていた。

 スマホの写真を見て鼻息を荒くしている。ぽけっと口を半開きにして、クラスでは見られない気の抜けたマヌケな顔だ。

 ことんとベッドに横になって股をもじもじとさせている。もう少し待てば湯気でも立ち上ってきそうだ。

「ぁ… ぁんっ」

 ぴくんっと身体が跳ねて智慧は小刻みに震えた。

 これはある種の征服感である。

『うぉお! クソ智慧ちゃん! おれが犯してあげるぜ!』

 心太朗は智慧に覆い被さる。しかし幽体では人体に触れないし声も届かない。触れることができても、感触というものがそもそもないのだ。ただ見るだけ。視姦するだけの毎日。

 智慧がクネクネと快楽に酔っている。

「ん… ぁっ…」

 日々の言動にムッとすることも多い少女だけに、ほっぺたやお尻を引っ叩いてお仕置きしてやりたいと思う。しかし今の心太朗には何もできなかった。

 だが一丁前に勃起だけはできる。

 おちんちんは自室で射精したばかりなのに恥ずかしいくらいギンギンなのだ。幽体なのにしっかりと元気に反り返っている。カッチーンと一角獣のツノのようにそそり勃って立派に真上を向いていた。

 自分で自分の幽体には触れることができる。

 しっか!!! と肉棒を握り込んだ。

『お前でオナってやる! クソ智慧ちゃん! 畜生!! 好きだー! ぺろぺろぺろ!』

 何を言っても聞こえやしない。どんな恰好をしても見えないのだから恥ずかしくもない。

 だから思う存分、心太朗は智慧の顔を舐め回した。舌をレロレロと蠢動させて唾液でベトベトにしてやる。こんなことをしても現実世界には影響はないのだ。智慧にはダメージがない。

「あ?」

 すーっと幽体が薄れていた。自分の身体が透けて向こう側の景色、智慧の身体が見える。時間だ。5分とは短いものだ。賢者タイムが終わってしまった。

「ぁっん ぃやだっ マチノくんっ 変なとこ触らないでっ あぁんっ あっ… 気持ちいぃょぅ」

 夢中になって股間をもぞもぞとさせて、智慧はふんふんっと鼻息を荒げた。激しい呼吸。小さな胸が上下して顔が真っ赤だ。半開きの口の端によだれが溜まっていた。ベッドに乱れる髪。パジャマの裾が捲り上がって可愛らしいおへそが見えている。

「う… あ… んんっ」

 智慧の声が遠くなっていく。

 くそっ。これからがいいところなのに。心太朗は欲求不満が高まった。これじゃあ生殺しだ。寸止めより質が悪い。

 心太朗の幽体はフッ… と消えてしまった。

 心太朗が去った後も智慧は興奮して一人で盛り上がっていた。

「んっ… すぅ…」

 やがて智慧はスマホを枕の脇に落とした。むにゃ… ビクビクッと痙攣しながら幸せそうに寝落ちしてしまう。

◇ 朱鳥

「ここか」

 智慧の家に面した道路上にエメラルドグリーンに光る刀を持った女子高生が立っていた。隈が目立つ鋭い目つきに赤い縁のメガネ。後ろで簡単にまとめた長い黒髪。紺地に白のラインが入った清楚な制服。聖流館十文字女学院のものだ。

 両手に嵌めた手袋には『悪 霊 成 敗』と隷書体で書かれた御札が貼ってあった。

「クズちんぽめ。叩っ斬ってやる」

 目が妖しげに赤く光った。

 少女は長年の仇を見つけたかのように智慧の部屋を見つめていた。

◇ 心太朗

「きぃゃーっ!?」

 ゾッとして股間を抑え、内股気味に跳ね起きる。

 心太朗はブルッと震えた。

 寒気?

 でも暑い…? 寝汗をかいている。汗が冷えたのか?

 今、何か、聴こえたような気がする。

 自らのおちんちんがちゃんと付いているかを確認した。

「あ、ある……」

 なんだ、今の斬られるような感覚は…。

 幽体ではない。本体に戻ってきたようだった。壁の時計を見る。きっちり5分だ。いつも通り。…ん ……いや、もうすぐ6分か…? アナログの針は意識が肉体から離れたときより5分を過ぎているような気がした。

 もしかして5分の限界を超えたのか? 能力が成長している…? だとすれば毎日続けてきた甲斐があったというものだ。

 もし記録が伸びているのなら、この賢者タイムを維持できればもっと長く智慧の痴態を観察できるのではないか? フィニッシュまでイケる可能性が高まる。心太朗はフニャフニャの股間を見ながら、先程の悪寒も忘れ、ニヤッと笑うのだった。

1.2

◇ 心太朗

「やだ! こっち見てる!? いやらしーッ キんモーい! ボンクラね! ボンクラ男子たち早く出ていきなさいよっ。ほんっと無能なんだから! 下僕の癖に! 早くっ! ノロマね! あたしたち着替えらんないでしょ! うぅわっ!? まだなんかこっち見てるし! 見ないでよ! エッロ!! エロ猿だよねー、ねーみんな? そう思うでしょ? あんたたちそんなことばっかしか頭にないんでしょ。どーせ! 顔がキモいし。ちびだし、ピザポテトだし。陰険だし。顔がキモいし。猿以下の単細胞だし! 運動神経ゼロだし! エロいし! ニキビばっかで顔はキモいし! ウチの男子ってホント嫌ッ! 揃いも揃ってボンクラ揃いね!!」

 智慧は入口付近でたむろしている心太朗たちに一気に捲し立てた。つばが飛んで汚い。

 だが言い返すことができない草食男子たちはすごすごと尻尾を巻いて教室を出て行くしかできない。心太朗の背後でフンッと鼻を鳴らして勝ち誇った顔をする智慧。憎たらしいがあまりに子どもっぽくて怒る気にもならないくらいアホな表情だ。

「クソ智慧め」

 極小の声で聞こえないように真也がつぶやく。

 クラスの男子の数は5人で、その内の一人、桶屋真也(おけやしんや)だ。心太朗のクラスメイトで良き理解者でもある。確かに智慧の言う通り陰険な顔をしている彼だ。陰口を叩くときの彼はかなり口が悪い。

「くすくす」

 智慧の取り巻きの女子たちもクスクスと言われっぱなしの男子たちを見て笑っていた。情けないが仕方がない。智慧はこんな田舎町にも富をもたらす新興企業の令嬢なのだ。逆らったりすれば親・親類に至るまで冷遇されることになると恐れられている。心太朗にしても父親が研究職をしていて世話になっている。ここは為政者の機嫌をとってうまくやっていくしかないだろう。

「まあいつも通りだろ。いちいち怒ってたらキリがないよ?」

「心太朗はさ、前から思ってたけど、クソ智慧に対してだけ心が広いな…」

「ハハ、誤解だって。勝手で気まぐれな猫に腹を立てる人間がいないようにクソ智慧に腹を立てるだけ無駄って知ってるだけさ」

「あぁ確かお前ら幼稚園からクラス一緒だもんな。付き合い長いとそうなるのか」

「ん。ま、あいつの弱みだって少しは握ってるからな」

 相手の弱みを握っていれば口汚い智慧の罵声も仔犬の無駄吠えに聞えるというものだ。

「畜生……」

 だが頭にきていることには違いがない。

 心太朗たちは体育の着替えのために運動場へと向かっていた。人数の少ない男子は校庭の隅でササッと着替えなくてはならない。心太朗は一計を案じる。罵られた腹いせに女子たちの下着の色でもチェックしてやらないと気が済まない。仔犬であろうと仔猫であろうと小便を引っ掛けられたまま黙ってて堪るかという思いだ。

 実はかなり気にしている心太朗だ。

「あ、おれ… 便所いってくるわ。先に行ってて」

「おお」

 男子5人の集団から心太朗は離れた。

 背後では友人たちが「全国の女子C学生が家出しまくってるらしいぞ」とスマホでネットニュースを見ながら笑いあっている。女と名の付くものにはニュースであろうと、なんにでも反応・欲情してしまうやつらだ。『家出』というワードから、家出少女たちが一宿一飯の礼でおっさんに身体を売ったりしているのだと勝手に妄想を繰り広げるくらいは逞しい。これだから童貞は困る。

 トイレに入った心太朗は「3分で準備しなっ」と自分に言い聞かせ、個室に入る前から学生ズボンのベルトを外してオナニーの体勢をつくる。ガチャンと鍵をかけ、同時におちんちんを引っ張り出すと家出少女を組み伏せてフンフンと乳繰り合うのを想像した。カラカラカラとトイレットペーパーを手に取る。早漏であることもプラスに働き、とっとと射精へと導かれるのだった。

「ゥッッッ!」

【幽体離脱】発動。

 下半身丸出しの心太朗は自分の教室をイメージした。瞬時に下半身丸出しのままワープして自分の席に着地する。

 思った通りだ。

 男子たちは1分あれば着替えを済ませられる。しかし女子たちは違う。5分以上はお喋りに興じてからやっと着替え始めるのだ。ベストタイミングである。

 智慧がスカートに手をかけるところだ。

「お釈迦様よー!」

 心太朗は手を合わせて天に感謝した。その姿勢のままプールに飛び込むようにして平泳ぎをする。智慧の背後についた。細い指で優雅にホックを外し、パサッとスカートが落ちる。

 薄紫色の可愛いデザインで何やらふにゃふにゃした緩いキャラクターが水玉模様のようにプリントされているパンツだ。五角形のお子様用深穿きパンツだが、女の子らしい曲線がわずかながらに見られた。幼いお尻だ。なるほど、バックから見るとこんなところにホクロがあるのかコイツ。昔からの顔馴染みでもまだまだ知らないことは多いのだ。

「そいでねー、ふんでねー、あたしさー。お父さんにねだってー、マチノくんのコンサートチケット取ってもらったんだ~。ふへへっ」

 智慧はアホなのでスカートを降ろしてわざわざパンツを見せつける。わざとゆっくりブルマを穿くのだ。自分のプロポーションがイケてると思い込んでいるのだろう。「庶民はきっと上流階級のブランドものパンツとこのイケてる美ボディ見たいはず」と取り巻きの女子たちに見せてあげているというわけだ。

「頂きまーす」

 心太朗はお尻に抱きついて割れ目に顔を埋めた。ふんすふんすと臭いを嗅ぐ。臭いを感じ取れるわけもなかったが、脳内でいいように変換してさっそく勃起してしまう。盛りのついた駄犬のように。

 周りの女子たちは「いいなー」「さすがねー。由比ヶ浜さん」とヨイショして持ち上げていた。

 マチノというのは女どもに大人気な男性アイドルグループの中心ポジションにいる男だ。同じ学校の一学年上に在籍している生徒でもある。智慧はマチノサポーターズを結成していてリーダーを務めるほどにマチノに入れ込んでいるのだ。

「けしからんっ」

 すりすりとお尻を味わう。感触など何もないが脳内変換で補い、必死に想像した。おちんちんが盛りのついた駄オス犬みたいに赤くなっていた。尻尾を振るみたいにブラブラブラと揺れている。今ならどんなにはしたない恰好でガッついても誰も見ていないのだから欲望のままに餌を貪っても恥ずかしくなどない。

「やーん楽しみー」

「私も行きたーい。マチノくんって影がある感じでカッコいいんだよね」

「でも最近ファンの娘たちが悪い人に連れ去られるとかヤバイ事件多くない?」

「なにそれ?」

 智慧はブルマを穿いて腰まで引き上げる。くいっと顔が退けられた。いや退けられた気がしただけか。

 こちらから物や人体には触れられるが感触はない。意識していればすり抜けることも可能なのだが。

 あちらは触られても触られていると感じることはない。

「ファンクラブの娘を狙い撃ちしてるみたい。行方不明になってるって話よく聞くよ」

「へー、そんなことあるんだ?」

 智慧は他人事の話は上の空でほとんど聞いていないことが多い。

「大勢で行けば大丈夫っしょ。みんなで一緒にいこーよ」

「わーいくー」

「いいのー? 由比ヶ浜さん」

 ドゴッと横合いから誰かに膝蹴りをされた。ような気がしただけだが。智慧の周りに女子が群がってくる。

「うごをっ!?」

 痛くはないが強制的に身体が退けられる。摩擦のない宇宙空間に放り出されたように心太朗はクルクルと転がった。誰かに接触されれば感触はないが強制的に動かされるのだ。意識していればちゃんとすり抜けるのに。

「くそっ」

 心太朗は藻掻いてみんなのほうに向き直った。

 破廉恥にもブルマや下着姿を晒す女子たち。絶景だ。既に着替え終わった者、ブラジャー姿の者、ブルマを穿いている途中の者。智慧のやつはハミパンしてる。指を隙間にいれてぱちんっと直していた。

 心太朗の視界にはパラダイスが広がっていた。

「ふぉーー♡」

 同級生女子たちの、普段隠された恥ずかしい肢体を目に焼き付けろと心太朗の脳が大号令を発していた。

 正直、興奮するほどのエロい身体ではないのだが、生意気なやつらの秘密を握ることは精神的優位に立つことでもある。むしろそちらのほうが心太朗の主目的であった。おっぱいの大きさや下着の色、ほくろの位置や虫刺され箇所まで全員分チェックしていく。

 白い下着率8割。ウチのクラス、意外に真面目だ…。発育の具合は、ふむふむ。あいつはもっと牛乳を飲んだほうがいい。

「っなっ!?」

 グイッと誰かに首に腕を回される。

「ん… うお!?」

 レッカーでもされるように強制的に後ろに下がった。生きている人に蹴られたり退けられる感覚と違ってヤケに生々しい感触があった。腕もしっかりと見える。その腕は頼りないほどに細い。

「ぎえっ」

 心太朗は引き倒されて床に転がった。

「いてて… ん?」

 何という光景だろう。目を開けて見上げてみれば女児用のパンツが燦然と輝いているではないか。真っ白でふわふわなカボチャ感のある正五角形。

「はぁい。新人さん。こんなとこで覗き行為とは、あなた、よっぽど人生に未練がないのね」

 覗き込むのは一重まぶたに眠そうな顔の少女だ。ミニ丈の着物に逆十字ロゴの入った髪飾りを付けている。足元は草履で、腕には髪を縛るゴム。髪はザンバラで跳ねまくっていて、かなりの癖っ毛だ。だいたい小学3年生くらいの身長か。不思議なことに地面から身体が浮いている。見た目はちんちくりんで可愛いが、腰には芝刈り用の小さな鎌を携えていた。

「普通は生前に見ておきたかったところとかやり残したことをしようとするものですけれどね」

「な… んだ? お前」

 突如として現れた生身の人間ではない存在。こいつは霊なのか? 視認できるし触ることもできる存在…。

 明らかに心太朗を見据えている。

「じゃあ三途ノ川へ行きましょうか?」

「え?」

「え??」

「いや、『え?』を『え??』で返すなよ。なんだお前?」

 心太朗は上半身を起こして一応、股間に両手を置いた。年端も行かぬ女児の前で下半身露出はさすがに恥ずい。

「はぁ…… 拒否るとは思いませんでした」

 少女は『コイツ何言ってんだ』の目をして心太朗を睨め回す。

「私はですね、死神みたいな存在とだけ教えておいてあげましょう。こんなところでウロウロしてるあなたさまを導く役目ですよ」

「は?」

 死神だと? 死ぬ間際の人間にしか用がないアレのことだろと心太朗はアタリを付けた。実在しているとは驚きだ。そんなものがどうして生きている人間に話しかけてくるのか。

「長い旅になるけど、その恰好でいいのかしら? 装束、着せてもらえなかった? それともお風呂入ってる間にガス爆発で死んだの?」

「な…、何言ってる? 俺は死んでないし」

「二束三文も持たせてもらえなかったんだね。お家の人に愛されてないのかしら? 可哀想」

「憐れみの目で見ないでくれ? お前さ、なんか勘違いしてるよ」

「はぁ? 地縛霊かしら? 自分が死んだことにも気づいてないパターンかな。ま、どっちにしても連れていきますけど」

「ちょっとちょっと! おれはいつでも自分の身体に戻れるんだから、生きてる人なの! わかる? 死んでないの! 死神に用はねーよ」

「んん?」

 少女は桃色の瞳をせわしなく動かした。眠そうな目は変わらないが、思慮深い感じがする。

「ひょっとしてレアケースです? 幽体離脱してる?」

「ゆーたいりだつ?」

 心太朗は自分の身体に起きている奇跡をラッキーが起こったくらいにしか考えていない。そんな四文字熟語が名付けられる現象とは思っていなかった。

「それは困ったね。じゃ、あなた連れて行くところが別のとこになるんですけど」

「連れてかれるのは困るな」

「言っときますけど、あなた。幽体離脱は生きても死んでもいない特殊な状態ですよ? 私らの業界では犯罪みたいなものだから」

「は? 犯罪?」

 死神にとって死人や生きた人間は善人扱い。幽体離脱をしている人間は罪人となるようだ。生きても死んでもいない状態。正道から外れた外道ということなのだろう。

「なので逮捕します」

「ちょっちょっちょっ! この恰好で連れてかれたら軽犯罪でしょっぴかれたみたいになるじゃねーかっ。やめろ! 触るなっ」

 丸出しのおちんちんを両手で必死に隠す心太朗。少女から身体を背け逃げ腰になる。

「困るのはこっちです。そんな臭いそうなわいせつ物を陳列しておきながら言い逃れをしようとするなんて性根が腐ってます。ある意味犯罪なのでやっぱり逮捕です」

「言い逃れじゃない! 幽体でのちんこ陳列はいいんだろ!? 犯罪じゃないよな!?」

「C学生の癖に毛も生えてないし、おちんちん小さいからやっぱり逮捕ですね」

「ぬあに!? 無茶苦茶じゃねーか! おれは捕まらん!」

 心太朗は逃げ出すことにした。もうすぐ5分だ。逃げ回れば身体に戻れる。戻れば死神とて生きている人間に手は出せないだろう。

 ふわっと犬かきをしながら少女にお尻の穴を向けて教室の窓の外を目指した。智慧が変顔をして友達を笑わせている横を通過して窓ガラスにぶち当たる。すり抜けようと思ったのだ。

「ちんちくりんのガキめッ。おととい来やがれっ。へへーん」

「私には小鈴という名前が、あります!」

 分銅が心太朗の顔の横を回り込んで、追随する鎖がそのまま顔に巻き付く。気づいたときには引き寄せられて教室の中央に戻されていた。

「もごっ!?」

「ちんちくりんでもガキでもありません」

 鎖鎌を構えた少女、小鈴。

 幽体の少女は鎌をおちんちんの根本に充てて「聞き分けのない霊は少々痛い目を見てもらうことになりますよ? めっ」と脅すのだ。

「!?」

 立ち上がって心太朗を牽引し始める小鈴。連行されてしまう。だが、もうすぐ5分だ。肉体に戻れば逮捕する理由はないはず。

 しかし5分経過しても身体は肉体に戻らなかった。やはり先日から懸念している幽体時間の延長が関係しているのだろうか。

「もんごー!」

 鎖が口に食い込んで上手く喋れない。下半身丸出しの情けない恰好で風船のように引っ張られていく。二人は教室を後にした。

「もごーん!」

「連行された後はどうなるかですって? すぐに裁判して判決がでますよ。幽体離脱の現行犯はだいたい地獄行きですから、そのようになると思います」

「もごもんごーん」

「『死刑はんたーい』って言われましても日本の法律とウチの裁判制度はまったく関係ありませんから、そういうのは総理官邸前で言ってください」

 このままではまずいと思ったそのとき、身体が発光しているのが解った。幽体が肉体に強制的に戻る兆候だ。

「?」

 小鈴が異変に振り向いた。

 5分30秒経過で心太朗は流れ星のようにその場を離脱する。光の尾が打ち上げ花火のごとく天井へと突き抜けたのだ。

「?? 消えた?」

 小鈴の鎖が宙に浮いたまま漂う。

 心太朗はトイレの個室でおちんちんを丸出しにしたまま目を覚ます。

「むはっ!」

 おちんちんの先っちょがペーパーまみれで、そこだけミイラ男のようだ。

「た、助かった…?」

 肉体の感触を確認する。問題はない。ホッとする心太朗だった。

 程なくして予鈴が聞こえてくる。体育が始まる時間だ。急いで残滓を処理してパンツを穿いて着替えを済ませた。

「なんだったんだ、あいつ…」

 幽体離脱した誰にも認識されない世界で、初めて同じ幽体に出会ってしまった。幽体の世界にも秩序を保とうという連中が居るのだと知る。心太朗のプライベートワールドではなかったのだ。

 同時に予測できる。またあいつは現れるに違いない。

 だが幽体離脱しなければ今の肉体を持つ心太朗に手は出せないはずだ。幽体離脱をしなければいいだけ…。

「ん…? じゃあオナニーライフが送れないじゃないか…」

 できるだけ我慢するしかないのか? それは不可能だ。バレずに行ければいいのだが。どちらにしろ我慢できずに幽体離脱するのだから何か考えておかないと危険だ。智慧のオナニー観察のためにも死神をなんとかしなければ…。

 トイレのドアを開けて急いでグランドに向かおうとした。

「ふぅん、確かに生きてますね」

「キャー!?」

 心太朗は個室のドアに背中を付けて驚いた。「お、おま、お前! ここは男子トイレだぞ!」犯される寸前の女子のように引き攣った表情になってしまった。

「だから神仏や幽霊に学校の校則とかは関係ありませんって」

 地味で眠そうな目の陰気な少女は獲物を睨め回すように心太朗を見つめる。

 振り切ったはずの小鈴が、にまっと笑うのだった。

 この続きは執筆中で同人本で出すことになると思います。※長篇エロでCFNM以外のシーンも盛り込みますので。
 お話をどう展開するかまだ勘案中です! ご意見ご要望があれば積極的に取り入れますので、こっそりでもいいのでメール頂ければと思います。よろしくお願い致します!

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