CM

DTR(1)

「プログラム期間中に、最後まで童貞だった男子は『男性』としてダメダメということで、おちんちんをちょん切らせてもらいます♪」


 ホールに集合した8名の男子はギョッとした。モニターの中でアニメ絵の可愛らしい女性がハサミの刃をチョキンッと合わせる仕草をする。男子たちは想像してしまう。まるで無駄に伸びた枝を剪定(せんてい)するみたいに、自分のおちんちんが女の子に切られてしまうイメージだ。

 腰が引けて青ざめて、反射的に両手で股間を押さえガードする者もいる。


 怖ろしいところに連れてこられたものだ。優(まさる)はガタガタと足が震えてしまった。


 『DTR』法――

 悪夢の法と呼ばれるDTRによって、童貞の卒業介助が国家の一大プロジェクトとなったのは今から一年前のこと。もともとは少子化を防ぐ施策の一つであり、男性たちに自信を取り戻させるのが目的だった。

「とんでもねえ話だな。男女平等とか言って『女性議員』なんてバカどもを増やすからこんなアホな法案が通っちまうんだ!」

 誰かが喚いていた。他の男子たちも似たようなものだ。口をついて出るのは文句ばかり。誰だってそう思う。優だって思っていた。

『なんて僕が…』

 DTR法は誰でも選ばれる可能性がある。だからといってまさか自分が当選するとは思ってもみなかった。

 裁判員制度と同様の“普通の国民”の意識からは乖離した変な法案が通ってしまうことはよくあることだ。だが法の中身は無茶苦茶だ。ドベだからといって男性器切断? 男性としての死刑に等しい仕打ちに狂気を感じる。この国がここまでイかれているとは思わなかった。どうせ「女性の人権を大事にしろ」と叫ぶ極左ババアが考えた法案なのだろう。優は憤りを禁じ得ない。


「え~~? ぷぷぷっ」男子たちの反応を予め予測していたモニターの中の女の子は微笑む。「童貞なんて大事に取っておくもんじゃないよねー? 自力卒業ができない情けないあんたたちのために国がここまでお膳立てしてあげるのよ~? 楽して童貞捨てられるんだから、そこはむしろ“ありがとうございます”なんじゃないの~?」

 アニメ絵の女の子は男子たちが動揺しているのを楽しんでいるような素振りを見せる。サディスティックにハサミをチョキチョキと向けてくる。その絵面は優たち男子の恐怖心を煽った。


 この中の7名にとってはアニメ絵の女の子の言う通り、国の補助が受けられて美味しい想いをするだけだ。プログラムを終えたら大人の男という称号も得られる。だがこの中の一人だけは男性であることを否定され、性転換を強いられることになるのだ。8人の男子たちは互いの表情を見合った。敵はおちんちんをちょん切ろうとしている女の子ではない。隣の童貞なのだ。

「よくよく考えてみなよ~? 村の掟とかでよくある通過儀礼でしょ~。それに弱っちい情けない男子は女の子を愉しませることもできないんだから、そんな短小おちんちんは弱肉強食の掟に則って淘汰されるだけよ~ きゃはははっ」

 童貞をバカにしたように腹を抱えて笑う女の子…。

 確かにこの国には古くからの風習として、大人の女性が少年のおちんちんをシコシコして性の目覚めを手助けするという『村』ならではの制度があった。これの国家規模版と考えれば法律自体悪いものではないのかも知れない。おちんちんをちょん切るなんてオマケさえなければの話だが……。


「相手になる女の子たちはヤリマンの娘から、もちろんヴァージンの娘も揃えたわ♪ 童貞ってあれなんでしょ? ぷぷっ。初めての娘じゃないとヤダ… とか変な幻想持ってるんでしょ? ぅゎキモ~い。でも仕方ないから揃えてあげたの。感謝しなさいよ?」

 モニターの中の女の子はカメラから離れてくるりと回った。

「では、こほんっ。“今からちょっと蹴落とし合いをしてもらおうと思います。” なんだバカヤロー。コマネチ! 施設内に居る女子は7名だけよ! 早いもの勝ちだからね。さあDTRスタートぉ!」

 モニターはぷつんと切れて画面が暗くなる。男子たちは互いに見合って牽制し合っていたが、やがて堰を切ったように走り出した。

 好むと好まざるとにかかわらず“プログラム”は始まってしまったのだ。

 館内に居る女子を正当に口説いて卒業するもよし、襲って無理やり卒業するもよし、金銭を約束して卒業するのもいいだろう。とにかく他の男子たちよりいち早く童貞を捨てなければ大事なおちんちんが大変なことになる…。

 優はきれいごとを言っていられないと思い、ただ走った。



「あ、あの……」

 優が始めに声をかけたのは背の高い女子だった。優を含めた男子たちは犬の首輪のようなものを首に装着されていて、無理に外そうとすれば爆殺されるらしい。逃げることもできない。優たちの選択肢は童貞を捨てる以外にないのだ。女と見れば見境なく勇気を出して声をかけることが重要である。


「は? なに?」

 露骨に嫌そうな顔をする女子。

 教室の入り口にいた女子は振り返って優を睨みつける。優のつま先から頭のてっぺんまで値踏みして、わずかにフンッと鼻で笑った。

 「ぁ、ぁゎゎ…」と気後れする優。声をかけたはいいが、悲しいが童貞がゆえに何も話せないのだ。


 DTRプログラムは孤島の中で行われる。

 過疎化してしまったこの町が童貞たちの行動範囲だ。プログラム期間は一週間。彼らは期間内に孤島の中にいる女子に声をかけ、カップルの成立を目指さないといけない。

「ねえ、さっそく童貞きたよ」

 背の高い女子は教室の中に声をかけた。「えー マジ?」「やだ、もう?」と言って2人の女子がぞろぞろ出てきた。3人の女子が廊下に出て優を囲む形となる。1人だと思っていたのに、3人となると、もう積極性が出なくなる。

「フフ」

「クスクス」

 女子たちはあからさまにおどおどする男子を見て、自分たちと対等とは見做さなかったようだ。彼女たちにしてみれば施設内にいる男はみんな童貞だということが初めから判明している。優のようなコミュ障童貞は与し易い相手なのだ。

 早くも主導権のない優。


「どうしたの? なにか用?」

「あたしたちに用事なんてなんかあるわけ?」

「あなた顔赤くなってるわ。どうしたの?」

 始めは面倒そうだった背の高い女子も暇潰しのおもちゃが見つかったかのように口元に笑みを浮かべていた。

「言ってみな? 私らにお願いしたいことがあるんでしょ?」

 優の目的を知っていての敢えての言動。

「…はい」

「モジモジしてても始まらないよ?」

「あんた顔は可愛いんだから、もしかしたらチャンスあるかもね」

 3人の女子に囲まれて優は顔を上げられない。節目がちに小さな声で目的を説明した。

「あの… その… そ、そそそ、そそ、挿入… をさせてもらえないでしょうかぁ?」


「あははっ めっちゃストレートに言った!」

「待って。まだ何をどこに挿入するとは言ってないわ。あなた男でしょ? ハッキリ言ってみなさいよ?」

「ふぇ…」

 優はドキリとする。言わなければならないのか。当たり前だが言葉にしないと女子は相手にさえしてくれないのだ。


「ど、童貞を捨てないと、僕、やばいんです。せ、せセせセックスを… しないと」

 女子の前でそんなセリフを言うのも初めてだ。だが恥ずかしがっている場合ではない。DTRプログラムのルールは基本的に椅子取りゲーム。8人の男子に対して女子は7人。明日の正午に一回目の鐘が鳴る。それまでにMポイントというものを獲得した状態でないとおちんちん『剪定(せんてい)』の対象になるのだ。


「顔が真っ赤っ赤だねー クスクス」

「フフ、まあいいわ」

 背の高い女子は“経験者”のようだ。腕を組んで顎を上向きにした顔。主導権を譲らない。


「じゃあ、ちょっとズボンとパンツ下ろしてくれる?」


「…えっ?」

 優は思わず顔を上げた。

「えじゃないでしょ? 挿入できるのかどうか、実物を見てみないとね? ねえ?」

 女子たちは顔を見合わせながら「そうそう」と頷きあった。

 優は戸惑う。本来ならありえない要求だ。童貞だが、対等な人間同士ならここまで主導権を持っていかれて黙っているのはおかしい。

 だが、DTRという特殊な状況下だ。プライドを失っても童貞を捨てさえすれば最悪の事態を免れる。優は恥を忍んでズボンに手をかけた。戸惑い、恥ずかしがってこの間、5分もかかった。早くしないと女子たちは退屈でこの場を去るだろう。躊躇している暇はない。しゅるしゅるとズボンを下ろして真っ白ダサダサのブリーフを見せた。

「やだ、なんかもうモッコリしてる」

「何してるの? 早くパンツも下ろしなよ?」

 急かされて、優は目をつぶりながらブリーフを下ろした。ぽろんっと未発達なおちんちんが晒される。それは女子との会話だけで半勃起してしまっていた。だが生え揃ったばかりの陰毛に覆われてよく見えない。


「なにこれ? おちんちんどこにあるのかな?」

「小っちゃーい…… こんなんじゃ挿入なんてできないよ? 僕ぅ?」

「く…」

 優は小馬鹿にされて屈辱を感じた。しかし裏腹におちんちんは見られて鎌首をもたげる。むくむくぅとナメクジのように微動し、徐々に勃起していった。

「シャツは両手で持ち上げてね」

 リーダー格の女子に命じられて、優は自分のシャツをペロッとめくりへそまで露出させた。犬が腹を見せるような従属のポーズだ。顔は下を向いているのに、おちんちんは一気に上向きになった。ヒクヒクと動いて存在をアピールする。


「勃起したー。でも皮かぶっちゃっておしっこの穴が見えないね」

「なんか臭くない? 洗ってる~?」

「ふーん。短小で包茎ね。これじゃ駄目よ。とても私はあなたの相手なんてしてあげられないわ」

 優はショックを受けた。思わず顔を上げて「そんなぁ」という表情を見せる。

「だってそうでしょ? モヤシみたいで気持ちよくなさそうだもの」

「これじゃ這入ってるかどうかもわかんないんじゃなーい?」

「あははっ 言えてるッ」

 品評されて優は歯ぎしりをした。


「行きましょ行きましょ」

「あー時間無駄にしたっ」

「もう少し大人だったらおもちゃになりそうなのにねー」

 女子たちはおちんちんを丸出しにした優を放ってどこかに行ってしまった。優は涙をのんでズボンとパンツを上げた。


 DTR初日

 現在―― 童貞8名、女子7名、死亡者0


コメント

  1.   より:

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    これは面白そうですね
    続きを期待

  2. 匿名 より:

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    続きが楽しみです

  3. いち より:

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    はじめてこちらに伺いました。
    グイグイとお話に引き込まれ、とてもわくわくドキドキしてしまいました。
    つづきを楽しみにさせていただきます。

  4. Chuboo より:

    SECRET: 0
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    デスゲームテンプレものですが、続きがんばります。
    DTRルールの詰めを考える日々です。
    プログラム期間は1週間なので一日一本おちんちんが切り落とされる計算に……。血が出る描写は苦手ですが、がんばりますよ。

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