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DTR 第一夜(6)

 DTRとはすなわち単純な“椅子取りゲーム”である。


 宏太(こうた)は理解した。

 DTR法のルールブックを部屋の端末にダウンロードしてすべてを把握した。だからゲームを支配するのはこの俺だ。伊達に年齢を重ねてきたわけじゃない。

「まったく余計な世話だぜ」

 宏太は笑いがこみ上げてきた。


 しょせん政府のつくったヌルいデスゲームである。それも救済措置のある見せかけのデスゲーム。

 当たり前だ。国民をたった一人でも死に追いやる法律をつくるなどありえない。陰茎をちょん切るなどと若い童貞を脅して、その実 多額のローンを背負えば最悪の事態だけは避けられる。そういう仕組なのだ。

「…だから、俺たちはただ単純に椅子取りゲームを楽しめばいい」

「そうなんすか?」

 愚民には理解できないだろう。富美男(とみお)と名乗ったこの太った男も政府に踊らされる愚民の一人だ。

「でもぉ、おれなんか正攻法で女を落とせるとは思えねえっす。だからレイプするしかねーんすけど、楽しむ要素なんてなかったっすよ。金玉蹴られたし……」

 富美男はその見た目からして女子から毛嫌いされるのだろう。椅子取りゲームの椅子に逃げられるタイプだ。

「どうすりゃいいんすか?」

 不潔感があり、目つきがキツイ。

「こんなことなら風俗行っときゃよかった。ぶつぶつ………」

 26年間童貞なのは風俗に行くほどの勇気がなく、ついでに金銭的余裕もないからだろう。だが陰茎を切られる危機が迫ればレイプでもなんでもする。ごく自然な人間の行動パターンと言える。


「どうせ真正面から襲いかかったんだろ? だから手を組もうって言ってんだ」

 椅子が逃げるのなら椅子をベッドにでも固定すればいい。

「なるほどう」


 富美男はゲームが始まってすぐに走り出し、手近にいた女子に何も考えず襲いかかった。だが逃げられたらしい。中庭で蹲っているところに宏太は通りかかった。彼から「返り討ちに遭った」と聞いて宏太は与し易そうだと思った。単純な思考で動く人間は実にコントロールが簡単だ。

「野犬を追い込んで檻に入れるみたいにどこかに女を閉じ込めりゃいいんだ。逃げられねーし、邪魔も入らねーぜ」

「でも宏太さんは? 手を組むって言ってもおれだけ童貞卒業したら宏太さんに旨味がないし」

「ここには拷問道具や薬の類も用意されている。眠らせて縛って2人攫ってこればいいだけだろ」

「薬なんてあるんだ…?」

 ルールブックにはメディカルケアの情報も載っている。眠れないときのための睡眠薬がどこにあるか、処方の手続き方法も載っている。孤島に閉じ込められたという体(てい)だが、政府が主催するデスゲームだ。過酷な環境を演出しているだけ。言うなればリアル脱出ゲームと言われるようなものと同じ構造のもの。車の免許を取得するための合宿みたいなものとも言える。

 DTRはあくまで童貞を救済するためのものである。そのうえで拷問道具や薬をどう扱うかは自由。証拠を残さずに済ませれば罪に問われることもない。

 デスゲームが開始されたらまずすることはルールの把握だ。情報を制する者がゲームを制す。


「やりましょうっ」

「ついてこい」

 仲間、……いや駒を入手した。これで安全にゲームを上がることができるだろう。

 問題点があるとすれば“己の信条を曲げること”くらいか。29年間童貞を貫いたが、ついに捨てる時が来たのだ。それは仕方がない。身体の一部を切除されるよりはマシだ。借金も背負いたくないし。

 宏太たちは中庭から移動して施設内を見て回った。地形や構造を把握して何が利用できて利用できないのかを調べるためだ。


 廊下で中学生か高校生くらいの男子が二人、話し込んでいるのを見かけた。隠れて話を聞いていると彼らも宏太たちと同様に手を組む相談をしているようだった。

 だがアプローチはやはり単純で女子の寝込みを襲うという低いレベルの話しかしていない。うだつの上がらなさそうなやつらだ。童貞というものは金を積むか襲いかかるかの二択しかないのか?

 駒としての利用価値も低そうだ。

 宏太はニヤリと笑う。

 この“情報”は売れる。夜になる前に夜這いを企てている連中がいることを女子連中に伝えるのだ。その見返りで童貞を卒業させてくれるなんてことはないだろうが、売れる恩は売るに限る。



 その夜、宏太は考え方を変えざるを得なくなった。


 女子寮に忍び込んだ二人の少年の後を追って、宏太たちも中に入った。女子寮に設置された拷問部屋で起こった出来事は常軌を逸している。


 グッチャァ……

「うぎょお!!??」

 少年は泡を吹いて失神した。金玉を握り潰されて痙攣を起こしている。あそこまでする必要があったのか? 強姦魔から身を守るためとはいえ、あきらかに過剰防衛ではないか。

 少年はすぐに救護班に連れて行かれてゲームから離脱した。


 時間だ。

 夜這いタイムは政府の監視下にある。プレイヤーの行動はすべてトレースされ映像や健康状態が記録に残るのだ。夜這いタイム外に女子寮への侵入はルール違反となる。宏太たちも見届ける間もなく女子寮を後にした。


 なぜ金玉を潰す必要があった?

 真緒(まお)というあの女子だけが異常なのか?

 既に拘束されて動けない少年たちだ。あのまま放っておくだけで夜這いタイムが終わり朝が来る。それだけで彼らはゲーム退場になるのだ。

 何かある。……あえて潰す理由が。


 DTRは単純な“椅子取りゲーム”ではないのか……。


 一人脱落して、椅子は人数分ある。それならゲームは成立しない。金を積むか眠らせれば卒業自体は可能だろう。政府主催であってもさすがにヌルすぎる。プレイヤーが一人減るなら椅子も一つ減るのが道理だ。女子の内の誰か一人だけ、施設の外へ出ることになるのか?

 それなら椅子取りゲームは次のターンに入るだけ。椅子を一つ減らした状態で続行だ。

 もしかすると外に出るために金玉を潰したのかも知れない。女子たちにも椅子としてのルールがあるのだろうが、それはゲームが終わるまで施設の外に出ないでくださいといったような注意事項程度だと思っていた。男子を慰安する仕事として来たわけではないのか? 無理やり連れて来られた?


 情報を集める必要がある。ルールブックの情報だけではゲームのすべてを把握できないらしい。宏太は慎重に進む必要があると考えた。



「大地(だいち)くん、ほんとに初めてなんだ?」

「何度もそう言ってるだろ」


 プレイルーム。

 空き教室を改装して作られた簡易のラブホテルといったところか。男女が合意したときにすぐにでもプレイが行えるように用意されたものだ。

 口説いて一緒にプレイルームにやってきた万里という女子に、大地はブリーフパンツを下ろされる。始めのキスと胸を揉んだだけで大地のおちんちんはギンギンに勃ち上がっていた。

「うふふ。確かにびんびんね」

 指でちょんちょんと小突かれて可愛がられる。

「万里さんのキスが上手いからさ。蕩けるようだったぜ」

「14センチくらいかな。小ぶりな竿……」

「え? なに?」

「いいえ。なんでもないの」

 万里は立ち上がって大地をベッドに寝かせる。そしておもむろにスマホを操作しだして近くに設置した。

「撮影…? すんの?」

「そうよ。ルール説明にあったでしょ」

 DTRでは童貞を卒業した証として精液の採取と性交の撮影が必要なのだ。

「あぁ… だから電気付けたままなのか。納得」

 まだ真っ昼間でカーテンの向こうは明るい。部屋の電気も煌々と照っており、ムーディとは言い難い。万里はバスローブをはだけて、あっさりと下着姿になった。ムードを大せつにしたい童貞としては少々気が抜ける。


「そう言えばさっき、子どもがセックスさせてってアタシに言ってきたわ」

「子ども? あぁ… ホールには10代っぽいガキが何人かいたな」

「大地くんもギリギリ10代でしょ」

「オレはもうすぐ成人だかんな。ガキと一緒にしないで欲しいぜ」

 大地は受験勉強に忙しくて、様々なタイミングのせいで“た ま た ま”童貞を捨てる機会がなかっただけだと思っている。やろうと思えばいつでも女とやれるのだという自信はあった。


「それでね。パンツを脱いで見せてって言ったら… どうなったと思う?」

 万里は笑いを堪えてベッドに入った。

「誰も来ない個室で見せてあげるから付いてきてよって口説いてきたとか?」

「顔を真っ赤っ赤にしちゃって。うふふっ。ポロンって出してさ、皮がたくさん余っちゃってて、女の子と会話しただけなのに勃起してたのっ ウケるでしょうっ」

「……ま、童貞のガキなんだから仕方ないんじゃないか…」

「童貞ってあんなのしかいないって思ってたけど、大地くんみたいな人もいるのね」

「まぁな。おれはたまたまタイミングがなかっただけで付き合ってた女の子は5人もいるんだぜ」

「5人…?」

 万里はちょっと少ないなという微妙な顔を見せた。大地は慌てて「いや6人だったかな。はは」と言い直す。

「うん。ま、多いほうなんじゃない?」

 万里は大地の唇に自分の唇を合わせた。

 これで後は精液の採取をすればDTRプログラム卒業だ。楽勝である。柔らかく温かい女子の肉体が密着して大地は緊張した。

「ん… ん」

 ちゅ、ちゅぱ…

 鈴口からは既に大量のガマン汁が垂れていた。他の男子より女性慣れしているといっても大地は童貞だ。ベッドの上のマナーを何も知らない。万里の指が大地の乳首に触れた。コリコリと回してくる。

「ぁ…」

 抓られると変な声が出てしまった。

「くす。いきなり大地くんの弱点見つけちゃった」

「い、いやあ… ははは。別に大丈夫だけどな」

 大地は責められたままではいけないと思い、万里の背に手を回した。ブラのホックを外してしまおう。大地が全裸なのに対し、万里はブラとパンツを身に着けたまま。歳も万里のほうが一個上。ベッドの上のテクも彼女が一枚上手となれば、立つ瀬がない。ここは男としてプライドを持ってリードする側に回らなければいけないのだ。

 だが、なかなかブラホックは外れない。姉のブラで自主練習したはずなのに……。


 大地はなかなか先に進めなかった。


 DTR第一夜(6)

 現在―― 童貞7名、女子7名、死亡者1

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