今回から新規の小説になります。
憎悪という憎悪が俺に向けられていた。
いったいなんだって言うんだ。俺が何をした?
ちょっとミスっただけなのに、それを拡大解釈されてここまで責められるなんて理不尽極まりない。これが現代の魔女狩りというやつだろう。
総勢9名。教室ほどある広い更衣室。
練習が終わったばかりの競泳水着の女子たちに囲まれていて、さすがの俺でもどうやら脱出するのは少々骨が折れそうだと。俺はロッカーを背にしていて、半円状に3人の女子が広がって行く手を塞いでいるのだ。
左手側の永沢杏美(ながさわ あみ)の細い腕が俺の競泳水着に伸びてきた。
「やめろっ」
その手をパシッと払い除ける。
「は? 往生際悪くないすか?」
「アん? んだコラ!」
「競泳水着は戦闘服なんですよね?」
右手側の荒垣音瑠(あらがき ねる)も横から手を伸ばして掴もうとしてくる。それも猛然と払い除けて俺は鉄壁の防御を展開する。
「触んな!」
「神聖なものだって自分で言ってたじゃないですか? それをこんなにしちゃって。邪(よこしま)なこと考えてんのアンタでしょ」
「うるせえ!」
図星ではある。カッとなった。頭に血が上って俺は暴力を振るいそうになる。駄目だ。我慢しろ…。昔の時代なら鉄拳制裁をしたっていいはずだった。だが今の時代は言葉を尽くさなければならない。論理で相手をねじ伏せ、きっちり非を認めさせることが肝要なのだ。
「説明してやるから聞け! クソアマども!」
「男ってどうしてこう往生際の悪い…。なんで自分の誤りを認められないんだろ」
水泳部のエースであり部長でもある古河麻弓(ふるかわ まゆみ)だ。彼女は俺にというより独り言のような嘆きを宙に向かってつぶやいていた。スラリと背の高い色黒のクールな女子である。
「変態ですいませんでしたって一言云うだけなのに」
「なんだと… この!」
「脱がされるの嫌だったらちゃんと説明してくださいってんだよ!」
杏美は毛先が金髪になっている元ヤンの後輩だ。筋肉質だが細マッチョの肉体。こんがりと焼いた小麦色の肌が健康的である。
「聞いてんのか!?」
先輩に対して語気がどんどん強くなる。
「アソコ大きくさせておいて言い逃れできると思ってるんですか?」