このようなチャンスは滅多にない。
いつもは家族が集まる、この空間に今は一人だ。
僕はローソファーにもたれて、こたつの上のFENGAを見つめていた。
何せ、母親はダンスだかお料理だかの何とか教室に行っていて夜の8時までは帰ってこない。妹もお友達の家で今日はお泊まり会だ。父親は連日のように遅くまで働いているから当然家にはいない。
僕は僕で毎日部活だから妹より早く帰ってくることなんてないのだが、今日は練習が始まるやいなや練習の過酷さを想像してゲロを吐いてしまった。
その後も気分が悪いふりをして逃げ帰ってきたのである。
そして友達経由で手に入れたFENGAといかがわしいパッケージのDVD。
これらを開放できる日がついにやってきたのだ。
いけないことだとは理解しつつも僕はベルトに手をかける。
カチャカチャ
既にカーテンは閉め切った。当然、家の玄関は施錠してある。照明はつけずに疑似映画館を演出した。抜かりないぞ。いつもは家族団らんで過ごすリビングで僕は、ズボンを脱いだ。
なんという背徳感!
ズボンをソファーの後ろに投げつけてやった。フフフフ。あんなところにズボンが脱ぎ捨ててあるぜ。ついでにブリーフもだ。真っ白なブリーフに手をかけて一瞬のうちに脱ぎ去った。くるくると指で回してポーンとソファーの後ろに飛んでいく。
なんてはしたないんだ! 家族が見たらなんて思うだろう!
僕はいけないことをしている!
さすがに全裸になるのは寒いから上着は着たままにするか。
ドキドキしている。
万が一家族が帰ってきたら言い逃れ出来ない。ズボンもブリーフもすぐには取りにいけない。スリルが半端ないな。
リモコンでDVDの再生ボタンを押す。大画面のTVにいかがわしい映像が映し出される。続いてヘッドホンを装着した。
そしてついにFENGAを手にする。
初めて見るいかがわしいDVD。初めて使うFENGA。暖房の効いた空間。いつもは家族で使うこたつ。最高の環境である。
友達は部活で汗を流しているというのに。父親が一生懸命働いているというのに。おちんちんもお尻も丸出しで。僕は何だ!
同じ男として僕は情けないと思ったが、しかし目の前に映し出されたおっぱいに思考が吹き飛んだ。
僕の目は釘付けとなる。
コンテンツ選択の画面だ。お姉さんがおっぱいを隠すことなく見せていて、男優のおちんちんを踏みながらにっこりしている。男優の表情は苦痛が感じられるがどことなく幸せそうだ。スタートさせる。
何だこの世界は。
男がおちんちんを踏まれて嬉しいなんてことあるのか!? DVDのパッケージをよく見ると確かに映像と同じカットの写真が掲載されていた。見慣れない文字がある。「M男」? どういう意味だろうか。
おちんちんが大きくなってきた。何も考えることはない。欲望に従おう。こたつの中で硬くなったおちんちんを握りしめる。自分でも驚くほどにどくどくと荒ぶっていた。
映像にはストーリーがあった。こういう映像にもシナリオなんてあるんだなと意外に思っていると、女の子が男優を「お兄ちゃぁん」と呼んだ。
驚いた。
男優は始め、自分の部屋に一人で居る。こそこそとズボンとパンツを脱いで何かを始めたようだった。そこへ僕の妹に顔立ちがよく似た女の子が戸を開けて入ってきたのだ。
「はぅっ」
僕は思わずリビングの出入り口を見やった。
何もない。当然だ。万が一にでも誰か帰ってくるなんてことがあったら僕の人生ダークルート突入だぞ。
それにしても丸顔なところとか、ツインテールな髪型も目が大きいところもアホそうな声も似ているな。女の子は何故か黄色い帽子と赤いランドセルを背負って部屋の中に入る。
どう考えても成人だと思うが何故にランドセル?
「お兄ちゃん、なにしてるのー?」
「いっしょにあそぼー」
「なんでおちんちんまるだしなのー?」
「やだー。なんかおおきくなってるぅ。どうしよー」
「こうやってこすれば、らくになるの?」
女の子がほとんど裸の男優の身体を愛撫している。女の子は手早く自分で服を脱いで、ぺろぺろと男優の乳首を舐めながら、膝下に引っかかっていた男優のズボンとパンツを完全に脱がしてしまって、それを遠くに放ってしまった。
靴下だけを残して全裸になった男優は女の子のおっぱいをもみもみと優しく揉んだ。
女の子は「いやぁ」と言いながらも男優に跨がる。
なんてことだモザイクがかかって見にくいが、やがて女の子は男優のおちんちんをくわえこんでしまった。
よし、ここだ! 僕はFENGAを装着する。画面の向こうの妹、いや女の子と合体したかのような一体感。
ずぶっ
ぬるっ
「あぉっっん」
僕は思わず声が漏れてしまった。
いきそうだった。
なんてことだ。持ちそうにない。
最高のセッティングと妹がそのまま成長した姿のような女の子にひとたまりもなかった。
バァァン!!
ぱちっ
もう、あと、ひとこすりで…。
あれ? リビングが明るい。
僕は考えるよりも早く、リモコンを手にしていた。無駄のない動きでTVの電源を切る。
「お兄ちゃんっなにやってんのー」
「んがっ!」
みこ!
背負っていた赤いカバンを放ってジャンバーを速攻で脱ぎ捨てて、僕の妹、みこが入ってきた。ギリギリだった。リビングの出入り口からではTVの画面は見えない筈だ。ブラックアウトした画面の前、こたつが鎮座するエリアにみこがドタドタドタっと滑り込んできた。
「お部屋まっ暗にしてなにしてたー?」
みこは寒そうに身体を丸めて、こたつに入ってくる。
「お、お、おま、きょ…今日友達の、家っ…」
「あっちー? いくよー? お泊まりグッズとりにきたー」
「そ、そかー!」
なんてことだ! 万が一が起こってしまった。
「さっきまであっちーと遊んでた。でもグッズ取りにいかなきゃって思い出してー」
「なるほどなー! そうか、じゃあ、早く行かなきゃだなー!」
「いかなきゃなー」
みこはアホみたいに笑顔を振りまいた。柔らかで軽いツインテールの黒髪が揺れている。ほっぺたが赤い。
「なんでお部屋まっ暗だったの?」
「おー、あれな! おー…映画見てたんだ! そう映画だ!」
「そうなんだ!」
妹がアホで助かった。
僕はどうしようもなく、心臓が跳ね上がって胸の中で暴れていた。僕は下半身素っ裸なのだ。FENGAと合体したまま、勃起したままだという事実に頭の中でドラムが超絶な演奏を繰り返していた。
まずい。このままではバレるのも時間の問題…。
「お前早くあっちーの家、行けよー」
「えーまだいいもん。映画はー? 見よー!」
「長いぞ! めっちゃ長いぞ! あっちー待ってるだろ!」
「ごはん前に間に合えばいいもん!」
みこはTVのリモコンに手を伸ばした。僕もシュッと素早くリモコンを握る。
「こらっ離せっ」
「やー!」
みことリモコンを奪い合う。いつものチャンネル争いとはわけが違う。生死のかかった命がけの戦いである。
そのとき、こたつの中で暴れるみこの足が僕の足に当たる。
「えいぎゃ(映画)ー!」
「ダメだ。お前には難し過ぎる内容だぞ! 政治とか金の話だぞ!」
「せいじくん?」
みこの人差し指がリモコンの電源に近づく。僕は素早く左手でみこの右手首を掴む。
「好きー。おもしろそー!!」
ぐぐぐ…とせめぎあった。
「見るの!」
「ホラーだ!!」
「え」
みこの力が抜けていく。
「そうだ! ホラー映画なんだよ!」
みこは完全に力を抜き、手を引いた。そして僕はリモコンを奪い取って両手を上げてお化けのまねをしてやった。
「怖いやつだぞ〜。あの…例の…いつか見た怖いやつー」
具体的になんのお化けかはわからないが。
「やだ!」
ぱしっ
みこが僕の手を弾いた。リモコンがすっぽ抜けてこたつの向こう側に転がる。
「あっ」
「怖いのやだっ」
「ちょ、みこ…。リモコン取ってくれ…」
「やだ!」
「やだじゃねえっ」
くそ…。手元にないと不安だが、ひとまずこれで電源を入れられる心配はなくなったと言える。
だが、いまだピンチは続いている。何せ僕は妹の前でおちんちん丸出しなのだから。