とても穏やかだ。
深海蒼空(ふかみ そら)はベンチに座ってプールの喧騒を眺めている。蒼空はオフホワイトのスカートに深い青の袖なしブラウスという服装だった。
日陰になっていて、彼女の白い肌を焼くような陽射しは届かない。喧騒も遠い。
“見学”と言っても何も学ぶことがないのだなと、改めて蒼空は思う。
副学級委員のマリリンが怒った様子で駆け寄ってきた。
「深海さんの言う通りっ。やっぱりあいつが怪しいよ。あんなにムキになるなんて」
「そうかい?」
蒼空はフフと微笑んだ。
「夏男と冬彦にやらせたんだけど、あんなに抵抗するなんて。これで薬師丸ミツルが犯人に決まりよっ」
マリリンは両手で顔の水滴を払い、ミツルのほうを睨んでいる。ポタポタとスクール水着から垂れる水滴がコンクリートを濡らしていった。
「おちんちんぐらい見られたって男子は平気なはずなのにねっ」
「それは知らないけど」
蒼空は友人のずいぶんな言い草に思わず笑ってしまった。
このクラスで「水着下ろし」の悪戯に遭っていないのはミツルとリュウシン、それから守谷のグループだけだ。合わせて5人。彼らの中に陰毛の持ち主がいると思われた。
他の生徒は脱がしてみないと解らないが、昨年までの状況と同じなら、まだ毛は生えていない。従って、アンコのペンケースに陰毛を入れるという悪質な悪戯の犯人は5人の内の誰かが有力だ。陰毛の生産者と仕掛けた者がイコールである可能性が高いと思う。
マリリンやアンコたちに相談を受けて、蒼空はそうアドバイスした。
よくもそんな程度のアドバイスでミツルを犯人と断定できるものだなと思う。まだ断定するような証拠は何もない。
「こうなったら全員脱がしてやるわ」
「がんばりたまえ」
蒼空はウンウンと頷いた。
10日ほど前だっただろうか。マリリンやアンコたちは陰毛の犯人を躍起になって捜し始めた。蒼空のアドバイスに従い、夏男と冬彦の悪戯コンビを使って「水着下ろし」をしようという話になった。おちんちんに毛が生えているかどうかをチェックしていくのだ。
これが今、目の前で行われていることだった。
「ひゃー」
さっそく出っ歯でオカッパのチビ太が餌食になっていた。ミツルを諦め、チビ太にターゲットを変えた夏男と冬彦。彼らに羽交い締めにされ、チビ太は女子の目の前で無理やり水着を下ろされていた。
「やめてぇ!」
ぽろんとおちんちんが露出する。
「ぎゃははっ」
「キャー」
周りの男子が腹を抱えて笑い、女子たちは悲鳴を上げながらも苦笑いしている。
プールサイドで繰り広げられたそれは、どこか外国の出来事のようだ。テレビでも見ている気分。蒼空はチビ太の包茎おちんちんを見ながら思う。
「ツルツルだわね」
マリリンがフンスと鼻息を荒くした。小さくて生っ白い無毛のおちんちんを、小馬鹿にしているのだ。彼が無毛であることが解った。これでチビ太は白だ。
「夏冬コンビに、男子全員脱がすよう命令しておいたわ」
「可哀想に」
蒼空は心にもないことを言ってみる。