「服を脱ぎなさい」
「何でだ」
俺は彼女の言葉に抵抗した。言いようのない怒りがこみ上げる。何で女に命令されなければならないのか。相対する麻衣は怒っている。彼女は俺以上に怒り狂っている。
バシッ!
「痛っ」
テニスのサーブでもするみたいに麻衣は布団たたきを俺に振るう。痛みに俺は後退りする。こんなものを人に向かってはたいてはいけませんと親に教わらなかったのか!
「何、モタモタしてんだよ、この、ゴミ!豚! 脱げって言ってるでしょ!」
麻衣は言いながら四方八方から攻撃してくる。俺は部屋の中で逃げ惑いながら許しを請う。
「痛い、痛いって。謝るって、悪かったって」
「謝って済む問題じゃない!」
「解った、慰謝料払うから…」
「当たり前だし!」
最後に一際きつい一撃がフルスイングされる。
「アブッォ!」
横っ面を思いっきり叩かれた。
「早く服を脱ぎなさい」
麻衣はこのアパートに今年度から隣に越してきた若い女だ。引越しの挨拶に来るぐらい礼儀正しくて田舎娘っぽかったのに、大学に入ってから遊びまくっている。
ちょっと美人だからって調子乗りやがって。こんな小娘にいいように扱われてたまるか!いい歳したこの俺が、上京したばっかりの世間知らずのガキに何で翻弄されなきゃならんのだ。
「反抗するなら証拠のビデオ警察持ってくから」
「いや…だからそれは駄目だって。頼むからよ。やめろって」
麻衣は布団たたきをビュンッと振り上げる。俺は叩かれると思って頭を抱えた。…まだ振り下ろされない。
畜生、いつまでこんな屈辱に耐えればいいんだ!
「早く」
弱みを握られた俺は渋々ポロシャツを脱ぎ、そしてズボンを脱ぐ。年頃の女の前で服を脱ぐのはそんなに恥ずかしくないのだが、男慣れしてない麻衣の前で脱ぐとなると何だか悔しい。年下のガキに命令されて脱がなければならないことに起因しているのだろう。麻衣は勝ち誇った表情をしている。クソッ、女の前で裸になることが制裁になるとでも思っているのではないか?
「これでいいか?」
「はぁ全部に決まってるでしょ!?」
「いや、でも…、それはやり過ぎだろ…?」
「“全裸”で“土下座”してもらわないと気が済まないんですけど?」
「なっ…!?」
嫌なら警察沙汰だと言わんばかりの顔だ。学生のあどけなさを残した肌の張り…。ほんのり赤い頬を膨らましている。普段は鈍臭そうなとろんとした目も今はキッと怒りの炎をもやしている。
俺は仕方なくランニングシャツを脱ぐ。まったく鍛えていない、無駄に贅肉の付いた見窄らしい身体が露わになる。麻衣の鼻がヒクと反応する。鼻で笑われた気がした。
何でこんな10以上も歳の離れた女の前でストリップなんかしなくちゃいかんのだ?
「それは?」
麻衣は腕組みしながら指で俺のブリーフを示す。腕の中に挟まれたおっぱいに目が行ってしまう。俺はブリーフに手を掛けたまま躊躇する。畜生…けっこう恥ずかしいものだ…。
「もう、あの…これで…やめ…」
「あっそ。じゃ警察呼びます」
麻衣はケータイをパツパツジーンズのポケットから取り出して操作し始める。
「わ、解った。脱ぐ、脱ぐから」
もう俺の敗けだ。俺は最後の一枚を脱ぎ捨てた。ブリーフを足首から引き抜く。敗北の瞬間だ。だらしのないちんちんが空気に晒された。