女子のお泊り会ってなかなか童貞の琴線に触れてくる響きです。
お尻の穴に違和感がある。
いきなり大胆な行動を取るやつだ。バレたらどうするつもりなんだと恵(めぐむ)は冷や汗をダラダラと流してしまう。
ねじ込まれたプラスチックの異物は冷たくて、恐ろしい何かを感じる。此乃美(このみ)の悪意が注入されてしまったのだ。
「ねえねえ、どうぶつの型がいっぱいあるから、これ全部つくろうよ」
「はぁ… はぁ…」
短く息をする。恵は母親と妹にバレないよう取り繕うのに必死だ。此乃美の提案など聞こえていなかった。
立ち尽くしている間に女子たちによるクッキーづくりが始まってしまう。恵と穂は兄妹揃ってあまり手伝わない。恵のほうは事情があるからだが、穂のはただの面倒くさがりだ。指示されない限りは動かないだろう。
「じゃあメグミちゃんはこのボウルしっかり持って。このハンドミキサーで掻き回してー」
「…うん」
とても嫌な予感がする。
しかし此乃美が言い出したことを拒否することなんてできない。大人しくクッキー生地をつくることにした。恵はハンドミキサーのスイッチを入れる。
ウィーン…
「うっ!」
ハンドミキサーを回し始めるとお尻に強烈な違和感が走る。思わずハンドミキサーを止めていた。
【本編に続く…】
今、確かに音がしたと思った。
新道景織子(しんどうきょうこ)は辺りを見回して警戒する。木々が風に揺らいでサワサワと音を立てているだけだ。薄暗い空、遠くに種類の解らない鳥が飛んでいる。森の奥は真っ暗で獣が潜んでいる感じはするのだが、人がいるようには思えなかった。
静かだ。
「どうしたの? 景織子ちぁん」
市東夏帆(しとう かほ)は無防備にニコニコしていた。素直で純粋な瞳だ。肩までのストレートな髪に温和な口元。疑うことを知らないみたい。景織子は『静かに』とジェスチャーで合図して、引き続き辺りを見回す。
夕暮れ時の大自然の中には少女が二人だけ。
スク水を着用していてほとんど裸に近い。持ち物は他に手拭いとバスタオル、石鹸、簡易の照明器具程度のものしかない。つまり何者かに襲われたとしても抵抗する手段がないわけだ。肉体一つで立ち向かうしかない。
一抹の不安。
それが杞憂に終わればいいのだが、生来の疑り深さがやはり邪魔をする。金属バットでも持ってくればよかったと景織子は後悔ばかりだ。
「変な景織子ちゃんっ。先に入っちゃうよ」
夏帆は景織子の心配を他所にくるりと後ろを向いて、スク水を脱ぎ始めた。肩紐を外してしゅるしゅると躊躇(ためら)いなく水着を引き下ろしていく。
「めっさ汗かいちゃったよー。早く温まりたい!」
異性が居ないからか子どものように強引な脱ぎっぷりだ。気持ちが前に出過ぎている。無警戒にどこも隠さなかった。
後ろから見ているとふくよかな丸いボディラインが美しい。女性らしい肉付きの良い身体だ。成人式を迎えてなくとも身体は既に立派なものだ。ぷりんと可愛らしいお尻は自分にはないものだと景織子は羨ましく思う。
とてとて… と眼の前に広がる温泉に夏帆は裸になって歩いていく。髪も結わずに両手を広げてバランサーのようにしながら全裸で岩場を歩いていた。同性ながらエロティックなものを感じる。大自然と一体化して美しい。温泉を見て喜ぶ純粋無垢な様子が微笑ましい。
景織子は自分の肩紐に手をかけた。悩んでいても仕方がない。他には誰も居ないのだ。
サバイバル合宿の一日目からハードに稽古をしていたので疲れが溜まっているのだろう。少し神経質になっているのかも知れない。
「い、行きます」
景織子(きょうこ)は最前面に立ってその勇姿を他のメンバーに示す。
「ではー、皆さん。もっと前にどうぞー。シャッターチャンスですよー」
実玖(みく)が戯けてカメラチームを呼んだ。
「ヤメロや!くそが!」
盗撮男は往生際悪く暴れているが両手足をパイプ椅子に固定されてダルマと同じだ。実玖と美玲(みれい)が両側から抑えるだけでも簡単に取り押さえることができた。
景織子はカッターナイフで丁寧に盗撮男のパンツを切り裂く。
「暴れると大事なところが切れちゃいますよ?」
「く…」
女子には解り得ない脅し文句だ。だが男はブルブル震えてビビっている。たったこれだけのことなのに効果てきめんだ。
「目線こっちお願いしまーす。こっち向いてくださーい」
夏帆(かほ)がリーダーの実玖のノリに合わせて写メをパシャパシャ撮っていた。男が恥ずかしがる様子を小馬鹿にしている感じがよく出ている。
「影からコソコソジロジロ、アイドルのプライベートを盗み見るような卑怯者てこういう顔してるんだね~」
奈緒(なお)も根は真面目なのにみんなのノリに合わせてくれる。恥ずかしそうに顔を赤らめながらも屈辱に打ち震える盗撮男の表情をしっかり動画に収めていた。
「フゥ… フゥ…」
景織子は初めてのことに緊張して息が整わない。冷や汗が額を伝う。
【本編に続く…】