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Killing ParkⅢ 回旋塔遊戯(1)

 これが罪の代償なのか? 健一は事ここに至っても罪の認識はなかった。いじめなんてみんなやってることじゃないか。何で俺だけがという気持ちばかりが大きくなる。
 学校の帰り道で健一は彼女たちに襲われた。後ろからいきなりハイキックを喰らわされたのだ。たまたま一人で居るところだった。相手は女子ばかりだが分が悪いと判断した健一は情けなくも逃げ出した。走って息を切らせてかなりの距離を逃げてきた。
 気がつけばそこは公園だった。
「もう逃げるの終わりー?」
 全力で走った筈なのにいつの間にか前方に回り込んだ女子が一人。愉しそうに笑みを浮かべ、腰に手を当て仁王立ちをしている彼女。同じクラスの倉見だ。陸上部で鍛えられた足には敵わないらしい。健一は舌打ちして踵を返す。
「いい加減諦めたら?」
 背後から音もなくヒタヒタと迫っていた。六実だ。彼女は健一がいじめた七太という後輩の姉である。弟がいじめられたということに六実は相当怒っていた。
 健一は左右を確認する。そちらも既に退路は断たれていた。長身の稲葉と肉厚の長田。いずれも六実以外はクラスメイトだ。彼女たちは威圧感たっぷりに健一を取り囲み迫ってきた。
 健一は女子に取り囲まれたこの状況に違和感を覚えた。以前にも一度こんなことがあったように思う。いや、女子に追い詰められるなんてことは初めての筈…。
 今はここから脱出することが先決だ。体勢を立て直して仲間と集めてやり返してやればいい。さしあたって脱出口となり得るのは一番弱そうな倉見…。健一は振り返って走りだした。
「おっ?」
 健一は体当りする勢いで倉見に向かっていく。そして距離を詰めたところで方向転換をした。ドリブルで相手を抜いていくイメージだった。
「ほっ」
 健一の動きを冷静に見ていた倉見は軽く足を差し出した。
「うがっ」
 倉見の足にものの見事に引っ掛かった健一が地面に転がった。
「あははっ」
 倉見は情けなく転んだ男子を見て笑った。地面に這いつくばる健一の腕を駆けつけてきた稲葉と長田が抑える。そして無理やり立たせて六実の正面に引き摺っていく。
「くっ! 離せっ!」
「弟をいじめたお礼… 倍にして返すから」
 六実は呟く。健一に言っているというより自分に言い聞かせているようでもある。彼女の目は据わっていて狂気すら感じる。健一は悪寒を感じた。稲葉と長田が掴んでいる腕を振り払おうと健一は暴れだす。一刻も早くここから逃げ出さなければ何か取り返しのつかない事態になるような気がする。
「離せっ」
「暴れんな!」
 ゆっくりと六実が構える。次の瞬間、六実の膝が健一の腹に突き刺さった。
「うぐぉっ」
 健一は瞬間的に呼吸ができなくなり、吐きそうになった。強烈な蹴りだ。意識も瞬間的に飛んでいたかも知れない。
「さ、今日は何で遊ぼうか?」
「ジャングルジムは?」
 倉見は目を輝かせて遊具を指さす。幼い子供のような無邪気さがあった。
「そうだね…。あのぐるぐる回るやつがいいな」
「え? あの回るやつ?」
 倉見は少し残念そうだったが、見ている内に六実の示した遊具に再び目を輝かせる。何か新しい遊びを思いついたようだ。
「おもしろそう!」
「よし、あれにしよう」
 健一は苦しみの中でそんな会話を聞いていた。遊ぶだと? 回るやつ? 何を言っているんだこいつらは…。健一は稲葉と長田に引き摺られていった。

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