夕暮れの逆襲(2)
拓たちは河川敷に降りて橋脚へ向かった。希美は薄いカバンだけ、史奈はカバンとスポーツバッグを持っている。自転車のかごに乗せてあったヤツだ。史奈はいつにも増して物静かに後ろから付いてくる。拓は自分の顔がまともに見られないのだろうと納得していた。 前を歩いて案内する希美は「ココッ」と薄汚いダンボール箱を指さす。この距離だと中の仔猫はまだ見えなかった。橋脚の影に隠れて薄暗い。拓は女子高生二人と一緒にダンボール箱に近づく。「ん?」「ほら」 史奈がスポーツバッグを両手で持って拓の真後ろに立つ。「…え? 何も…」 近付いていって希美と一緒にダンボール箱を覗き込む。しかし中は空っぽ…だった。 これは…、罠だと気付くのにはそう時間はかからなかった。 そのとき史奈がスポーツバッグを拓に目掛けて後ろから思い切り振り下ろす。 バンッ「いっ!?」 強烈な音が響く。拓は背後から気配を感じ取っていながらも咄嗟には動けなかった。バッグで殴られたのか!? 拓は意外にも重い衝撃に驚いていた。中に何が入っているのか解らないがバットで殴られたかと思うほどの衝撃だ。「どう?」 希美はしてやったり顔だ。「あ…」 史奈はスポーツバッグを足元に落とした。自分がしたことに驚いているようだ。「うう…」 拓は後ろでドサッといういかにも重そうなスポーツバッグを落とす音を聞いて戦慄した。中に何が… ダンベルでも入ってるんじゃないだろうな…? 頭がガンガンする。「ざまぁないねー。今からたっぷり仕返ししてあげるから」 希美の表情が険しく豹変する。「し…? なんだって?」 希美は言うやいなや左足を繰り出していた。拓は素早い蹴りに反応できなかった。希美の足が横っ面にヒットして張り倒される。「うっ!」 希美が拓の前で右拳をつくって構える。そのまま瓦でも割るデモンストレーションのように突きを落としてきた。それは拓の腹にメリッと食い込む。「うぐぉっ」「ふんっ」 強烈な痛みだった。何が起こっているんだ? 拓は希美や史奈が暴力を振るうのを初めて目の当たりにした。女の子が暴力を振るうなんて…。拓の理解の範疇を超えた事態だ。「く… くそ。何しやがる?」 拓はよろめきながらもバランスをとって立ち上がる。希美は先程までの笑顔が嘘のように目を釣り上げていた。「史ちゃんのこと、よくもやってくれたよね?」「…やっぱ… そういうことか」 拓は納得した。彼がやらかしたことに対する仕返しらしい。先週末のことだ。拓は史奈の家に遊びに行った。そして無理やり史奈の唇を奪ってそのまま最後までいってしまった。成り行きに身を任せた結果なのだ。多少強引な部分もあったと思う。史奈は行為の後、涙を流していたし。それでほんの少し罪悪感に襲われた。拓はまともに顔も見られないまま史奈の部屋を後にしたのだった。 その後史奈は学校を休んでいた。それを拓はずっと気にしていた。連絡を取ろうと思ったが何といって声をかければいいか解らなかった。気にはしていたがそれよりも自分の童貞を捨てられたことの方が拓の中では大きかった。「痛い目見てもらうからね」 希美は腰に手を当てて居丈高に振る舞う。希美は史奈の代わりに制裁を加えに来たというわけか。静かに拓に歩み寄って構えた。彼女は確か空手をやっているとかなんとか言っていたような気がする。「ちっ。やれるもんならやってみろ!」 しかし拓は余裕だった。不意打ちとは言え相手は女子二人だ。まさかやられることはないと思っていた。「やぁ!」 希美は蹴りを放つ。拓は身構えてそれをガード。すぐさま希美は連続で掛け声とともに足技を繰り出した。拓はまたそれを腕でガードする。一発一発は威力は大したことないがとにかくスピードが速かった。「やっ! やっ!」 前蹴りが放たれる。これも上手くガードしたが拓はバランスを崩して後ろに倒れた。「うっくそ!」 尻餅をついたが拓はまたすぐに起き上がって臨戦態勢を整える。追い打ちを掛けるように希美の攻撃は絶え間なく降り注がれる。次第に拓の着ていたユニフォームは泥に塗れていく。史奈はそんな二人の周りをオロオロと動きまわっていた。「くそっいい加減にしろ!」「ふんっ。何をいい加減にするのぉ?」 希美は汗を滲ませがらも余裕たっぷりに返す。「男の子ならちょっとは反撃してみなよっ」 拓はその言葉にカチンときた。負い目があると思っておとなしく耐えてやっていたのに。やってやろうじゃないか。「コノー!!」 拓は腰を落として突っ込んでいった。希美は真正面からそれを受け止める。彼女は小さく悲鳴をあげて押し込まれた。拓は希美を押し倒そうと前に出る。「きゃっ」 寄り倒す形で希美の背中を地面につけてやった。拓は希美の上に馬乗りになって制服のブレザーを引っ張った。ビリッと音が響く。何故そんなことをしようとしたのか理路整然とした説明などつか…