秘密の部活動で(4)
「あの…」 クラス委員長の鬼頭 海太が横目で僕を見た。「ん?なに?」「ゴミ箱を…ちょっと…」「は?」 海太はメガネをくいと指で押し上げて怪訝な表情をする。彼は解っている筈だ。僕が何を言いたいのかということを。でも解っていてからかうつもりなのだろう。 海太はこの学校に入学して初めて会った奴だ。昔の僕を知らない筈。でも彼がいじめを主導しているのかも知れない。僕のカンがそう言っている。 海太は入学早々にクラスをまとめ上げていった。リーダーシップをとれる人物のようだ。クラス委員長にも自ら手を上げて志願し、先生の受けが良い。明るく勉強も出来て運動そこそこ得意という、僕にはない要素ばかりで構成された奴だ。でも先生の居ないところでは若干の態度の違いがある。彼は常に人をバカにしたような目で見ている。みんなは気付かないのだろうか?「酒井君、早く着替えないと女子が戻ってくるよ」「あ、うん。…そのゴミ箱を見たくて…」 海太は笑顔だったが目の奥が笑ってないことは解る。人を陥れようとする目だ。「何を言っているか解らないけど、着替えてないのは君だけだよ」「その…」「女子の居る前で着替えるつもりなのか?」「い、いえ」 僕もハッキリものを言わなければならないが、どうにも言葉にならなかった。そうこうしている間に廊下の方が騒がしくなってきた。女子の集団が戻ってきたみたいだ。 体育の授業は隣のクラスと合同で行われ、着替えも隣のクラスの男子はこちらの教室へ、うちのクラスの女子は隣の教室へ移動する。次の授業開始の5分前までに着替えを済ませておくというのがルールになっていた。逆に言えば5分前になると女子は自動的に教室に入っていいということだ。 僕は次の授業をジャージのままで受けることにした。そうするしかない。「どうした? 酒井君」 海太の口の端が少し上がった。「あの…やっぱりなんでもない…」 僕が踵を返すと同時に教室のドアが開き、女子たちが戻ってきた。入れ替わりに隣のクラスの男子たちが教室を出て行く。彼らは心なしかニヤニヤと笑っているようだった。女子の一人がジャージ姿のままの僕を見つけた。「あれー、まだ着替えてる人いたー。ごめん」「あー良いんだ。みんな入っていいぞ。時間を守らない人の方が悪いんだから」「え、そうなの?」 海太の言葉に女子たちが僕の顔を見る。注目されて僕はどう反応していいか困った。気の利いた返事一つできない。無言で何も喋らない気持ち悪い奴と思われたに違いない。駄弁っていた海太たちはゴミ箱の近くを離れて自席の方へ戻っていく。女子たちもゾロゾロと教室に入ってきてジャージ姿なのは僕だけになった。 僕はフリーになったゴミ箱に近づき覗いてみた。思った通り、僕の体操服入れが捨ててあった。背後を通り過ぎて行く女子の目線が気になりながらも、僕は体操服入れを拾い上げた。視線が痛い。ゴミ箱に手を突っ込む僕を見て彼女たちは何を思うだろうか。暗い3年間の学校生活が約束された瞬間だったかも知れない。そそくさと僕は自分の席に戻り体操服入れを机のフックに引っ掛けた。「酒井君、早く着替えなよ。次の授業が始まる」2列離れたところから海太が声を掛ける。僕は、え…何?という顔を返す。ジャージのままやり過ごすつもりだったのに…。そうかこれが海太の作戦だったのか。身体だけは大人になった僕らの年代で、性的ないじめはまずないだろうと思っていたのに…。「早くしろよ。ジャージなのお前だけだぞ」「先生に叱られっぞ」 海太の言葉をなぞらえるように周りの男子たちが僕に言葉の刃を刺す。周りの女子たちは黙っていた。前の席と後ろの席は女子だ。両隣は男子。ここで着替えるわけにはいかない。僕は体操服入れを持って黙って席を立った。トイレに駆け込むしかない。次の授業まで残り1分を切っていた。「どこいくんだよ? 次の授業始まるぞ」「ここでササッと着替えちゃえよ」 僕は焦った。授業に遅れてでもトイレに行った方がいい。「おい、酒井君。次の授業サボる気か?」 海太が僕の行動を制するように言葉を発する。「早く着替えろよ」「先生来ちゃうぞ」 もう、クラス中が僕のことを注目していた。普段は明るい女子も大人しい女子もみんな黙って僕を注目していた。ダメだ。こんな状況で着替えられるワケがない。どうする? 海太を無視してトイレへ…。それとも恥ずかしがってるのは僕だけでサッと着替えてしまえば…。いや、でもみんな注目してるんだから…。「手伝ってやるよ」「早く早く。もう鐘がなるって」 両サイドの男子二人が手を伸ばしてきた。次の瞬間、そのときは訪れた。前の席の女子も振り返って僕のことを見ていた。いつも黒髪がきれいだなと思っていた女子だ。当然後ろの席の女子も、嫌でも目に入るだろう。斜め前や斜め後ろの席は女子ばかり。例外なくみんな注目している。 ズルッ 僕の…