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初恋のあの娘の前で(2)

 部室は暗幕が張られていて薄暗い。俺は部屋の中央に転がされた。部屋の外周には机が積まれていて、演劇部の部員たちが何人か居た。1年が多く、2年も顔を知っている同級生が何人か混じっている。演劇部は女子ばかりだ。事情を知らないのか、俺がここにつれてこられていったい何事かという表情をしていた。
 主に俺を取り囲むのは、俺の腕を締めあげてここまでつれてきた1年の真悠子。そのぽっちゃりとした体型から強烈な腕力を生み出す南。理知的なメガネを掛ける千代。明るく子供っぽい3年の深衣奈。スポーティで少女たちのリーダー格である同級生の早希。
 そして部屋の奥で椅子に足組んで座っていた、彼女たちのムードメーカーである美里。繊細な顔立ちで長い睫毛が魅力的…。彼女を眩しくてまともに見られない。
「つれてきたよ美里」
 早希は後ろを振り返って美里を見る。美里は立ち上がって前に進み出た。そして床に這いつくばる俺を見て「コイツ本当につれてきたんだ?」と言った。
「そうだよ、見られたまんまだと悔しいでしょ? 制裁しないとさ」
「別にもういいのに、みんな迷惑じゃない?」
「あたしはおもしろいからいいと思うけどね~、今日は練習休んでこいつで遊ぼう!」
 深衣奈が部室に居る女子たち全員に呼びかける。先輩である3年生にそう言われたら従うしかないかなといった雰囲気だった。
 パンツ見たぐらいで何なんだ、この騒ぎは!
 俺はまずいと思って逃げ出す機会を伺う。逃げるなら腕力の弱そうな千代を突き倒してそこを突破口に出来る筈だ。俺は隙を見て千代に飛びかかった。
「あっ」
 油断していたのか千代は簡単に尻もちをついて倒れてくれた。すぐさま俺は出口に向かって走る。だが俺の動きを予測していたのか真悠子が同時に飛び出し回し、蹴りを放った。それは綺麗に決まって俺のみぞおちを襲う。そして倒れ込んだ俺を彼女たちが囲み、蹴りの嵐を見舞ってきた。
「うぐっ」
 降り止まない蹴りの雨。南と思われる太い足から繰り出される蹴りは特に重く、俺の顔面をサッカーボールのように蹴る。
 俺はぐったりと動けなくなってしまった。千代が前に進み出て俺の胸ぐらを掴んで引き寄せ、思い切り張り手をする。バチンッと音が響いて部室が静まる。
「さっきから私のこと突き飛ばしてばかり!あんまり舐めないでくれる?」
 もう一度、千代の右手がフルスイングされる。バチンッ。華奢な子だと思っていたのにとても信じられないほどの力だ。女の子のビンタってこんなに痛いのか。頬がジンジンと痛む。
「うう…」
「また逃げ出そうとしたねコイツ。どうする美里?」
 早希が余裕たっぷりに笑って訊ねる。
「とりあえず美里が味わったのと同じ屈辱をお前にも味あわせてやるよ。みんなー、コイツの上着とズボン脱がしちゃえ!」
 早希の号令で人形のように表情の冷めた真悠子と恵比寿様のような満面の笑みを浮かべたの南が襲い掛かってくる。逃げなければ。俺は動かない身体を無理やり動かして、まず目の前の千代を押し退ける。その際に千代のおっぱいに触れてしまった。柔らかい!
「いやぁっ!」
「コノヤロウ! 千代に何する!」
 南が俺に高速タックルをかましてきた。逃げ出そうと立ち上がったところを狙われ、俺は「ぐえっ」呻き声をあげて、押しつぶされる。身動きが取れなくなった。それでも必死に重石から這い出して行く。そうしないと女子たちに何されるか解ったもんじゃない。俺は足掻いて隙を作り、南を思い切り足蹴にして退けようとする。ここからは手足を使って全力で暴れてやった。
「てめー逃げようとすんじゃねえ」
 南が一度離れてヒップドロップを放つ。
「うぐほっ」
 咳き込む俺に対して真悠子が俺の右腕を取った。一瞬にして彼女の生脚が俺の腕に絡みつく。これは…腕ひしぎ十字固めというやつだ。技に入るとき、俺は真悠子のパンツを見た。それは薄いピンクの地で可愛らしいクマのキャラクターが見えた。子供っぽいなとそれに見蕩れている間もなく技が綺麗に決まる。
「うぎゃあ」
 早希が俺を見下ろしていた。そしておもむろに制服のボタンを外しにかかる。千代がそれを手伝った。かろうじて動く左腕を動かして彼女たちに抵抗した。すかさず千代が俺の腕を取りガッチリ握る。やがて早希は俺の胸をはだけさせる。乳首が露わになる。シャツをズボンから抜き出して、続いてベルトをカチャカチャ外しにかかった。
「美里がコイツのズボン脱がす?」
「男のパンツなんて見ても面白くないなぁ」
 近寄りもせず美里が冷たく言った。俺は力の限り抵抗しようと足をバタつかせるが思うように動かない。なんと、いつの間にか南に足首を掴まれていた。深衣奈が駆け寄ってきて「よぉし!あたしがズボン脱がしちゃう!」と言って俺のズボンをあっさり脱がす。俺は必死に暴れ、抵抗するが手と足を抑えこまれてはいかに男であっても身動きが取れない。正に手も足も出ないとはこのことだ。
「うぉ何するんだ!」
 ズボンが足首のところまで下げられた。
「はんっブリーフかよ。ダッセェ」
 南が笑う。白いブリーフが女子たちの目に晒されてしまった。ちんちんの形がくっきりと見えてしまっている。それを見てほくそ笑む早希や大笑いする深衣奈。部室内に居る女の子たち全員が興味津々に俺の痴態を眺めている。
 美里のパンツを見たのは風のいたずらでまったくの偶然なのだ。それなのに俺は女子に押さえつけられて服を脱がされ、ついに下着姿にさせられてしまった。理不尽だ。男としてこんなに簡単に女子に手篭めにされるのはどうにも屈辱だった。
 目的を達した美里たち、それから事情を知らない他の女子も勝ち誇った笑みを浮かべていた。一瞬パンツを見たぐらいでこの仕返しは酷すぎる。
「どう? 少しは反省した?」
 美里が俺を見下しながら冷たく言い放った。
「…もういいだろっ、離せよ。満足しただろ!ちくしょー!」
 俺は負け犬の遠吠えを口にすることで、ああ…女子に負けたんだなと実感した。悔しくて堪らない。だが口でしか抵抗できない。キリキリと右腕が痛んで泣きそうになってきた。今は早く解放して欲しいと願うばかりだった。


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