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掃除当番で(2)

 佳苗はけんじたちに囲まれていた。掃除をまともにやらない男子たちに今日こそは言ってやるつもりがこんな形になってしまうなんて。
「まだ何か俺たちにいうことあるかぁ?」
「あんた、こんなことして… 恥ずかしいと思わないの!?」
 佳苗は振り向いてけんじを睨みつける。しかしまったく意に介さない様子のけんじ。
「うっせー。ばーか。もう俺たち帰るからあとは掃除やっとけよ」
 この男子たちは女子のことを完全に馬鹿にしている。女子のことを下に見ていて腹ただしい。佳苗は悔しさでいっぱいになった。
 けんじたちは佳苗を無視して教室へカバンを取りに戻ろうと歩き出した。すぐに深智が駆け寄ってくる。「大丈夫…?」と心配そうに肩を貸してくれた。
「ごめんね。あたし足がすくんじゃって…」
「大丈夫。深智はあんな奴らの相手することないって」
 普通の女子ではやはりけんじたちに立ち向かうのは難しいだろう。佳苗はもっと自分に力があればと思った。
「見てた」
 けんじたちが去っていった方を見ると何やら様子がおかしい。先程まで下品に笑い合っていた男子3人が静かになっている。
「スカートめくりなんていつの時代の話?」
「あん? なんだよ?なんか用かよ?」
 けんじたちの前に立ち塞がっているのは同じクラスの亜美だ。佳苗は一瞬目を疑った。クラスではいつもぶすっと黙っていてどんな行事にも我関せずといった感じの娘なのだ。そんな娘がけんじと対峙している。
「私そういうの嫌い。あいつらに謝れ」
「ハァ?」
 どうやら亜美は佳苗を擁護しているようだった。亜美は眠そうな目をしていて常に不機嫌で近寄り難い雰囲気の女子だ。長い黒髪が特徴的で他の子に比べて背はすらりと高い。ピチピチのジーパンが身体のラインを強調していて、ゆったりとしたトレーナーが隠している胸は結構大きいみたい。佳苗や深智より大人びた雰囲気を持っていた。
「謝るなら今のうち」
「ホァ? 何言ってんだお前? 頭おかしいんじゃねーの? へんっ」
 けんじたちはやはり女子相手だとあのように小馬鹿にした態度をとるようだ。そのとき、亜美の後ろに2人の人影が現れる。あれは同じクラスの良奈(らな)と麻耶だ。そこは女子トイレの入り口付近だった。彼女たちは確かトイレ掃除担当だったと佳苗は記憶をたどっていた。
 彼女たちはクラスでも浮いた存在で仲良くし辛い雰囲気を持ったグループ。他校の生徒と喧嘩したとか教師を辞めさせたなど悪い噂も聞こえてくる。そんな佳苗と接点のない彼女たちがどうしてけんじたちと向き合っているのだろうか。佳苗には一体何が起こっているのか解らなかった。
「な…なんなんだお前ら?」
「ちょっとこっち」
 亜美がおもむろにけんじのシャツを引っ張った。
「ちょ…。何やってんだ!こらぁ!!」
 けんじは怒って亜美の腕を振り払い、突き飛ばそうと亜美に両手を突き出した。亜美はすっと身を引いて躱してから正拳を放つ。それはガッと見事にけんじの鼻にヒットしていた。無駄のない動き。力強い音。いつもはだるそうで緩慢な動きの亜美からは信じられない動きだった。
「ぶっ?」
「!?」
「え…」
 クーちゃんとテリオから笑みが消えた。すうっと良奈と麻耶がクーちゃんとテリオの後ろに回り込んだ。けんじは鼻を手で押さえて何が起きたのかを把握しようとしている。鼻から血が出ているようで廊下に鮮血が滴った。
「なにしやが…」
 亜美は続けて鋭いローキックを放った。けんじのふくらはぎに当たり、バチンッと音が響く。
「いっっってっ……」
 間髪をいれずに掌底を顎に入れる。ガッときれいに決まり、亜美は距離を取った。そして怯んだけんじのがら空きになっていた股間に向かって、すらりと長い足がシュッと伸びた。一瞬のことだった。亜美の上履きの先がけんじのおちんちんを捉える。
 パァーン!!
「ういっー」
 けんじの身体が浮き上がる。自分で飛び上がったのだろうか。佳苗は息を呑んだ。男子の弱点とされるおちんちんを蹴るというのは佳苗の想像を超えていた。
「うーん…」
 亜美は眉間にシワを寄せて、蹲ったけんじの頭を軽く蹴った。白い上履きでグリグリと頭を押さえつける。
 一連の動きは美しかった。意表を突かれたけんじは何もできずに亜美の攻撃を受ける。そして最後の大きな音でその場にいた皆が呼吸を再開し始めた。
「…う! ぅぅぅ…」
 けんじはおちんちんを手で押さえて蹲ったまま動けない。内股になっていてとてもかっこ悪い。佳苗は亜美に見とれていた。暴力という選択肢は自分の中にはなかった。だから少し胸がすっとしていた。だが自分が求めていた力はそういうのじゃないとも思う。
「いぃぃててててて…」
 亜美はけんじの髪とシャツを引っ掴んで無理やり立たせて引き摺っていく。けんじはみるみるうちに女子トイレに引きずり込まれてしまった。佳苗と深智は呆然と立ち尽くす。
「笠原と寺田も入ってね」
 可愛らしいクマのシャツを着た良奈がさわやかな笑顔でクーちゃんとテリオに言った。残った男子2人はけんじを見捨てていくわけにもいかないようでおずおずと言われるまま女子トイレに足を踏み入れた。

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