体育館の中は衝立てがずらりと立てられていて、何クラスか合同で身体測定を行っていたようだ。先ほど聡たちが遭遇した隣のクラスの男子たちは先に身体測定を終えて、今居るのは女子ばかりだった。順番待ちしている女子の列を聡は目撃する。期待はしていなかったが、彼女たちはやはり体操服を身につけていた。昨今では男女とも下着姿になるという風潮はなくなっていた。それなのに聡は藤木に裸になるように命令されたのだ。理不尽すぎて怒りが込み上げる。藤木は古い世代の人間だから身体測定は下着一枚だと決めつけているのだろうか。それに対して逆らえないというのも情けない話だった。
「もう、みんな終わりかけだね。あと一人か二人だけじゃん」
既に衝立てが先生たちの手で片付け始められていて、順番待ちかと思っていた女子の列は先に身体測定を終えて待機しているだけのようだ。
「なにあれ? パンツ一丁…」
「うわっやだ…」
「裸じゃん。体操服忘れたのかな?」
裸の聡が体育館に入ってきたのをさっそく隣のクラスの女子たちに見つかってしまったようだ。ざわついてきた。聡に気付いた娘が、隣の友達に「変態が居る」ことを教えて一気に広まっていった。悲鳴というよりはクスクスという失笑が起こっている。聡は顔を上げられなかった。
「ほら、佐倉先生のところへいくよ」
不意にぐいっと加奈に腕を引っ張られて、左手がブリーフから離れた。
「あっ…」
しかし加奈は意に介せずスタスタと歩いていく。かろうじて右手だけでブリーフを押さえているが左側は脱げ落ちそうになっていた。際どいヌードを晒しながら女子の列の前を通過する。急に柳が引っ張る力が強くなった。聡の右腕がブリーフから離れそうになる。
「え? あっ、ちょ…」
何とかブリーフが脱げないようにして女子たちの前を通り過ぎる。聡は柳の顔を見るが彼女は目を逸らしていた。
「やだー、パンツ汚い」
「パンツびろんびろんじゃん。ハミちん見ちゃった」
クスクスと聞こえてくる。聡はできるだけ内股になって歩いた。加奈に強く引っ張られて歩いていたが突然その歩みを止める。聡もそれに従って立ち止まる。
「先生、男子が一人遅刻してきて、彼がまだ身体測定受けてません」
佐倉先生の後ろ姿を見つけた加奈が声をかける。長い髪を後ろで結んだ白衣の女性だ。すぐ側にいるのにけっこう大きめの声で、待機する女子たちにも聞こえるような声だ。そのせいで女子たちも一斉に彼に注目する。またクスクス笑われる。聡の顔がさらに赤くなった。
「まぁ、しょうがない子がいるのね。ちょっとそこで待ってて」
佐倉は振り返って聡の姿を確認する。優しそうな目だ。理知的なメガネをかけている。彼女は保健の若い先生で生徒たちから人気が高い。
佐倉に隅の方を指定されて聡たちは素直にそちらへ向かった。この期に及んでも聡の腕は離してもらえずに、加奈と柳にぐいぐい引っ張られる。
そうしている間に最後の女子が視力検査を終えて、全クラスの身体測定が終わった。
「じゃあみんな、ここの一角だけ残しといていいから、片付けしている先生方を手伝ってくれる?」
佐倉が指示をする。待機していた女子たちはこのために残されていたようだ。彼女たちは片付けにてきぱきと動き始めた。
「それじゃあ、さっそく始めようか。あなたたちはアシスタントしてくれる?」
佐倉は聡たちに向き直った。加奈と柳は返事をして聡の腕から手を離した。そうしている間に衝立てが徐々に片付けられ、あっと言う間にいつもの広々とした体育館に戻っていく。聡の居る一角も衝立てが持っていかれてしまった。「あれっ…」と聡は戸惑う。周りは誰も気にしていない様子だ。
「じゃあ、まず体重から計ろうか」
「え、でも…」
「ぐずぐずしないで、早く」
佐倉が指示して、加奈が聡を促す。体重計の前まで歩かされる。その間も周りでは片付けが行われ、聡の居る一角だけが残される。
「上履きとパンツ脱いであがって」
「ぅえ?」
加奈がまた聡の腕をぐいっと引っ張った。今度は両腕だ。当然、聡は抵抗する。
「な、な、な…何、何を…」
「何嫌がってるの? 当たり前でしょ? 体重計るんだよ?」
「はぁ?」
何のための下着一枚だけの姿だと思っているんだ…。全裸になる必要なんてない。聡は両腕に力を入れてブリーフを必死で掴む。加奈はグイッグイッと腕を引っ張った。
「何恥ずかしがってんのぉ? 男でしょ?」
絶対にこの手を離さないと思っていたのに、加奈は意外なほどに力強い。握られた手首の血が止まるかと聡は思った。ついに攻防の末に加奈の力が上回り、聡はみっともなくバンザイさせられてしまう。
「あっ…」
するんっと無抵抗にブリーフが落ちて、おちんちんが顔を出す。
「え…ちょ…ぁゎ…」
2人の攻防を遠巻きに見ていた女子たちがわぁっと歓声を上げた。近くで見ていた柳もほくそ笑む。聡はしゃがみ込んで股間を隠そうとするが加奈に掴まれた両腕が振りほどけずにバンザイさせられたままだった。少し屈んで内股になり、辛うじて右足を曲げて股間をなんとか隠した。バランスを崩しそうになると左足を曲げて必死におちんちんを隠す。それでもお尻の方は丸見えになっているので背後に居た柳にはじっくりと見られてしまっている。
「わぁ、お尻白い…」
「脱いだらさっさと乗る」
加奈はそう言って聡の両手を解放した。柳は落ちたブリーフをさっと拾い上げる。
「これ、預かっといてあげるから」
聡は解放された両手でおちんちんを隠しながら、「それ返してよ」と柳に言ってみた。彼女は小首を傾げる。
「なにわけ解んないこと言ってんの? グズグズしてるとまた藤木に怒られるよ?」
加奈は背を向けた聡に向かって手を振り上げる。
「早くしてっ!」
パッチーンッ!!
「あイッ!」
聡のお尻が激しい音と共に震える。体育館中に音が響く。お尻を叩かれた聡は両手を思わず後ろに回してしまった。大人しい柳の目の前におちんちんがぷるんっと晒される。柳は頬を赤らめながら思わずぷっと吹き出した。
「早く乗る!」
加奈がまた聡のお尻を叩こうと手を振り上げていた。振り向いて聡はコクンコクンと素早く頷く。両手でおちんちんを隠して、聡は仕方なく渋々体重計に向かう。
「ほんと、ぐずでのろまなんだから。ね?」
「そうだね」
加奈と柳は頷きあった。
聡は悔しさを感じながらも仕方なく体重計に足を乗せる。デジタル式ですぐさま数字が弾き出された。聡は生まれたままの、なにも身に着けていない姿で体重を計られる。さぞ正確な数字が出てきたことだろう。柳が記録用紙を持って聡の側に立った。聡は柳に対して気持ち背中を向ける。
「うふふっ」
柳はうっとりした目で聡の裸体を見つめる。加奈が聡の真横にくっ付くようにして立つ。正面には微笑んだ白衣の佐倉先生。
だだっ広い体育館の中で女子たちに囲まれながら、彼はすべて曝け出していくことになるのだった。