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秘密の部活動で(5)

「はぅわっ!」
 僕は思わず素っ頓狂な声が漏れて体操服入れを放り出してしまう。
「ぃゃっ」
 体操服入れが放物線を描いて前の席の女子の背中に当たった。
「あーしまったしまった」
「うわっ悪りぃ…ごめんっ」
 両隣の男子がニヤつきながら謝ってきた。どうせ海太に指示された織り込み済みの行動だったくせに…。しかし僕はパニクってそんな考えは後になって考察したことで、このときの僕はおちんちんとお尻が丸出しになっているということの対応策に追われていた。前方の席の女子たちが僕のおちんちんに注目している。彼女たちはちゃんと制服を着ていて、僕の恥ずかしい格好を見つめているのだ。冷たい目。驚いて目を背ける女子。憐れむ目。単純に興味深々で首を伸ばして見ようとする女子。眉根を寄せてドン引きしている女子。それらがスローモーションで僕の目に焼き付いた。このままではおちんちんが見放題なので僕はくるりと彼女たちに背を向けた。こうすればおちんちんは見られないで済む筈だ。しかしそんな筈はなく、後ろの席のショートカットのかわいい女子が口を半開きにして、僕の顔を見た後に目線を移動させておちんちんを注視した。距離が他の女子よりも近い分、間近でおちんちんを見られてしまったことになる。僕が振り向く前はお尻が丸出しであったことにもやっと気づいて僕は赤面する。間近で下半身を観察されてしまったのだ。
「あゎっ!」
 彼女は口元に手をやって、やや驚いたという表情。おちんちんなんて別に見慣れてるけど、いつも前の席に座っている冴えない男子のおちんちんは思っていたよりずっと小さいな、という感想を持ったかどうかは定かではないが、そう言っている気がした。
 何とかしなければ。そうか、手で隠せばいいんだ。内股になって両手のひらでカップを作るようにしておちんちんを覆う。しかしすぐに失策に気付く。ダメだ。お尻は丸見えのままじゃないか。背後に居る女子たちには丸見えだ。かくなる上は、左手をお尻の割れ目を隠すように後ろへ回すことで完全防御の体勢を取った。
「ぷぷっ」
「クスッ」
 その内に失笑がそこらで起き始めた。そうだ、なにやってる? 膝まで下がったジャージとパンツを上げて元に戻せばいいだけの話じゃないか。僕は再びおちんちんとお尻を丸出しにしながら前屈みになった。ジャージとパンツを掴んで引き上げようとするが、なかなか上げられなかった。汗で張り付いてくるくるとパンツが巻かれてしまっている。目の前でショートカットの女子が、まるでつまらない映画でも鑑賞するように、冷めた目で僕を見ていた。いや僕の股間を見ていた。よく見たらコイツ包茎なんだ、ふ~んというという表情のような気がして劣等感にさいなまれる。
「アーーッ」
 恥ずかしかった。目の前で僕と同い年の女の子が、僕の恥ずかしいところを余すところなく見ているんだ。その娘はちゃんと服を着ているというのに! 何故だろう? おちんちんが少し熱くなるのを感じた。そうだ、席を離れよう。後ろのスペースに行けばみんなの注目を回避できる。そんなワケないのに僕はそれが正しいことだと思って一歩踏み出す。だけどジャージが邪魔して僕はバランスを崩してしまった。転びそうになってまたバランスを取ろうとして、最悪の結果を招く。僕は倒れこんでしまったのだ。後ろの席のショートカット女子の胸元に。抱きつくようにして飛び込んでいった。当然、彼女は「イヤァーッ」と甲高い悲鳴で最上級の嫌悪を表現するのだった。僕は女子の匂いをすんすんと嗅ぎながら体勢を立て直す。が、彼女は僕を一刻も早く突き放したいのか両手を僕に向かって突き出す。
「うゎゎっ」
 僕は隣の机に背中をぶつけて大きな音を立てながら床に転んだ。たくさんの悲鳴が聞こえてきた。女子たちと、おまけに男子たちにも、クラスメイト全員におちんちんを見られて、床に転がった僕は完全にパニックに陥っていた。周りの悲鳴や笑い声が収まって急に静になる。そして再び悲鳴に似た声が漏れ聞こえてきた。
 もう寝転がったままでいいから早くジャージとパンツを引き上げなければ。両手でジャージを掴んで上げようとしたのだが、やはりうまく上がってこない。膝のところでパンツがくるくると巻き込まれた状態で、おまけに汗で張り付いたままだ。冷静さを失った僕はそこまで考えが及ばず、ただ何で上がらないんだと思っていた。そして上がらないならもう脱いでしまえと思った。それでノーパンでもいいから制服に着替えればいいじゃないかと。何とか足首までジャージとパンツを下ろした。片方の足からそれらを引き抜いたところで暗い影が落ちる。
「何やってるの、あなた?」
 担任の明石先生の声。30代半ばのキツめの怖い先生だ。次の授業はとっくに始まっていて先生はやってきていたのだ。
「立ちなさい」
「あ、はい…」
 ラッコのように寝転がっていた僕に冷たい怒りのこもった視線を落とす。僕は立ち上がって、下半身丸出しのまんま気をつけをして先生の目を見る。
「なんて格好してるの? どういうこと? 説明しなさい」
「あああのここれえお、あああの%rh;へぷ@」
 しどろもどろだった。
「…もういい、前にでな」
 明石先生は人差し指でクイッと僕に指図し、踵を返して教壇に戻る。僕は言われるまま、死刑台に向かうように、気をつけの姿勢のまま、おちんちんを丸出しのまま、とぼとぼ歩いた。クラス中が異様な空気に包まれていた。やがて悲鳴に似た声が一段と大きくなる。
「ひっ」
「うわっマジか」
「う…やだぁ…」
「…なんで?」
 おちんちんとお尻はさっきから丸出しなのに、みんな今更何をドン引きしたフリしてんだと僕は内心思う。それにしても下半身が熱い。
「誰か説明できる? なんでこんなことになってるのか」
 教壇に戻った先生が生徒に対して呼びかける。海太が手を挙げ立ち上がった。そして今までの経緯を簡潔に説明した。
「というわけで、僕は何度も注意したのですが、酒井くんはここで着替えると言い張りまして…」
 ん?途中、あまり聞いてなかったが海太の奴おかしなことを言ってないか?
「…それで卑猥な言葉を叫びながら彼女に抱きついたというわけです…」
 海太が一度目線を後ろに向ける。彼女というのは僕の後ろの席のショートカット女子だ。僕は酷く絶望的な気分になった。でも何故か股間が熱いままだ。熱り立っているような…。ん…勃っている…?
 僕は視線だけをゆっくり落とした。僕のおちんちんは小さく縮こまっているものと思っていたが、しかし、見事に勃起していたのだった。おへそに着こうかというほどピーンと反り返っていた。ただ亀頭があまり露出していないけど。クラスメイトの前でおちんちんをギンギンに勃起させた姿を晒して、僕はやっと状況を認識するのだった。
 今更恥ずかしくなって、気をつけの姿勢を崩し両手でおちんちんを隠して顔を下に向ける。
「………なの?」
「え?」
 明石先生が僕に話しかけていた。しまった、聞いていなかった。
「本当なのか聞いている」
「へ、はい?」
「そう」
「あ、いや、今のハイは…ちが…」
「みんな、申し訳ないけど、この時間は自習にする。酒井くん、職員室まで一緒に来て」
「え」
「早くしなさい」
「あっはいっ」
 僕は勃起したおちんちんを隠したまま明石先生の後についていった。ひたすら冷静に対応する先生が怖かった。教室を出るとき、一度横目で教室の中を見る。笑いを堪えている者。赤い顔をして目を背けている女子。汚物でも見るかのような目で僕を見る女子。海太は口元に笑みを蓄えていた。きっと彼に僕は陥れられたのだ。
 教室の一番前の席に座っている二人の女子が意味ありげに僕のことを見ていた。あれは麻理璃と愛衣乃だ。彼女たちは僕が半ば強制的に入れられた部活、「科学美術総合研究会」に所属しているメンバー。2人は怒ったような笑ったような表情をしていた。嫌な予感しかしなかった。

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