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秘密の部活動で(9)

 僕はまともに立てなかった。勃っているからだ。
 授業中はとても眠くて、パンツを突き破ろうと熱り立ってくるおちんちんが痛かった。でもそれが刺激になって何とか起きていられたけど。
 海太の「起立」という号令で僕は席からお尻を10cmほど浮かび上がらせるだけに留めて、おちんちんが勃っていることが周りにバレないように努めた。みんなが帰り支度を始める。ザワザワと退屈な授業が終わった安堵の息と、放課後に何をするか計画を立てる高揚感が広がっている。僕はしばらく数学の問題を思い浮かべ背中を丸めていた。
「酒井くん、ちょっと」
 僕の席の傍らに海太が立っていた。心臓が跳ねて鼓動が早くなる。僕が全裸で一人相撲をとって以来、このクラスで僕に話しかける人間は誰も居なくなった。まるで空気のような扱いだ。それはそれでありがたいとも思っていたが、仲の良かった大人しい男子友達とも口が利けなくなって、寂しくもあったんだ。
 見ると勝利を確信しきった表情の海太が僕を見下ろしていた。
「号令のとき、ちゃんと立たなかったそうじゃないか? まったく…。困るな。ルールはきちんと守るべきだろう?」
「そ…。あいえ…。うん」
「君だけだ。ちゃんとやらないのは。大体、ちゃんと礼をしないなんて、先生に対して感謝の気持はないのか?」
「あ、あ…あぁ。あのえと…」
「お前チンコ勃ってんじゃねぇ?」
 隣の男子が指摘してきた。僕は首を振って否定する。
「そうか。それで立てなかったのか?」
「ハハッなるほどな」
 周りのやつも段々と参加してきた。マズい流れだと思う。僕は勃ったままだけど、早々に立ち去ろうと教科書を仕舞い始める。早くしないと…。一冊二冊と鞄の中へ教科書を放っていく。
「まだ話の途中なんだけどね。酒井くん?」
「あ…の…部活…」
「真面目な話をしてるんだ。君は人の話も聞けないのか?」
 厭な雰囲気だ。みんなが海太の批難に同調している。机の中に手を伸ばすと教科書の硬い感触とは違う雑誌のような手触りがあった。あれ、何かの資料集か? こんなプリントの束あったっけ? とにかく何でもいいから早くカバンに仕舞おうと取り出すと、普段めったに見ないピンクと肌色のビジュアルが目に飛び込んできた。女の人が裸に近い格好で僕を挑発していた。童貞くん、こっちへ来なよと誘っている。まじまじと見てしまった。
「何だよソレお前?」
「エロ本か?」
「何持ち込んでんだよ」
「マジか、お前?」
 周りの男子が囃し立てる。僕はハッと我に返って「違う」ということを主張した。こんなもの持ってきてもないし、買った覚えもない。僕は海太を見た。コイツがきっと…。しかし思ったより言葉になってなかった。
「ちが… あぅっ。こんな…あの…れ?」
「ハァ… 真面目にやるつもりあるのか、君は?」
 呆れたという海太の顔。
「お前ソレ見てチンコ勃たせてたのか。最低だな」
「うはっ。授業中に何やってんだっ」
「やっぱり勃ってんだろぅ?どうなんだよ?」
 近くの男子が僕の腕をグイッと引っ張る。誰かがもう片方の腕を取ってきて股間を隠せないように仕向けた。近くに居た男子たちも僕の股間を覗きこんでくる。僕のおちんちんはズボンの上からでも解るほどもっこりとテントを張っていた。
「へへっ。おいっ女子~見てみろよー」
「おもしろいぜー」
「あうっ」
 僕はできるだけ前屈みになって防御の姿勢をとる。でもこのままエスカレートしていくだろう。解っていたけど抵抗はできるだけしなければ。
 さすがに女子たちは積極的には見に来なかった。でも教室を出て行かない娘ばかりだ。何を期待しているというんだ。でも一人だけ出て行くのをチラリと見逃さなかった。
「勃ってんだろ?」
「ちが…」
「確かめてやろうぜっ」
「ゃ…っめてぇ」
 仕組まれている。全部海太が描く絵図通りなんだ。
「おーいお前らも確かめてやってくれよー」
 粗暴な男子が女子のグループに声を掛ける。
「俺たちじゃ判断つかねえからなー。勃ってるか、勃ってないのか女子の目で判定してやってくれよー」
 女子たちの反応は「いやだー」「ふけつぅ」「かわいそー」と聞こえてきたが、でも帰ろうという気配はない。誰かの手が僕のベルトにかかる。ネクタイが解かれて取られた。シャツを捲りあげられてバンザイする格好になり、上の方でシャツの裾ごとキュッと結ばれた。ネクタイを使ったようだ。目の前がホワイトアウトして、人々が嘲笑う表情が薄ぼんやりとだけ見えた。
 男子版の茶巾とでもいうのか、僕は自由を奪われて、目隠しされ、乳首が露出してしまった。
「あぁあぁ!」
 僕は全力で暴れて抵抗した。このままじゃまた全裸だ。この前は下半身だけだったけど、今度こそ全裸にさせられる…。椅子から転げ落ちて机の角に腰を打ち付けて、でも何とか立ち上がる。逃げなきゃと焦燥感だけが募る。女子の悲鳴が聞こえた。亡者のようにいろいろなところから手が伸びてきて僕の動きを止めようとしてきた。
「ひひ」
ズボンがズルりと下ろされた。白いパンツが露出する。
 いやだ。助けて。もうこんな惨めな思いはしたくない。僕の脳裏に何故か深藍の憎たらしい顔が浮かんだ。いつも僕に対して意地悪なことをしてくる幼馴染み。「コイツをいじめることが出来るのは私だけだ」と僕がいじめられているときにはいつも助けてくれた。無茶苦茶な理由だが、昔、学級委員長だったあいつは何度も僕を助けてくれた。
 でも今は状況が違う。同じ学校に進学はしたけど今までのようにクラスは同じじゃない。自分で何とかしなければ…。でもどうしたら…。
 そのとき、教室のドアが…
 静かに開いたらいいのになと思った。
 ズルッ
 僕のパンツは無情にも脱がされて、おちんちんが再びクラスメイトたちの前に踊り出た。パンツを脱がされた反動でおちんちんがびよよ~んとバネ仕掛けの玩具のように上下に揺れた。本当にそんな情けない効果音でも付けたら似合いそうなくらいの勢いだった。下半身が空気に触れてスースーする。
「いやぁん!」
 叫んだのは僕だけで、甲高い女子の悲鳴はもう上がらなかった。失笑の方が多い。僕はしゃがみ込んで最期の抵抗をする。が、足首を持ち上げられて、ゴロンとひっくり返され、両足をガバっと広げられる。僕はミミズみたいに身体を捻ってうつ伏せになろうと試みる。側の机や椅子に身体をぶつけながら逃れようとみっともなく足掻いた。ジタバタと。僕が男である為に持てる力のすべてを使って暴れるのだ。プライドを取り戻すために…。だけど複数人による拘束は解けなかった。
「ハハッ見てみろよ勃ってるよな?これ?」
「えー?」
「さぁ…?」

「小さすぎて解んねぇんじゃね?」
 僕の周りに人が集まっている。女子たちが僕のおちんちんをひと目見ようと立ち位置を移動しているのが解る。冷静に観察して勃起しているかどうかの判定をしているようだ。そんな判定しなくたって充分勃ってるだろ。こんなにみんなに見られて、何故かおちんちんはさらに硬度を増していった。痛いくらいに張っている。
「いい加減にしておけよ。先生が来ちまうだろ?」
 海太が司令を出す。彼自身は手を汚さずに、ニヤニヤと笑っているのだろう。海太の合図で両足首が解放されて、僕うつ伏せになってから動かない頭と腕を床に固定してやっと立ち上がった。僕はまたパニクっていた。逃げなければと、茶巾された格好でよろよろと走った。
「いゃ!!」
 ドンッ
 僕は女子グループに向かって走っていったらしい。僕は女子に突き飛ばされて、バランスを崩しまた床にゴロォンと転がった。あまりに滑稽な醜態をみんなが笑っていた。女子たちの前で勃起させたおちんちんを晒したまま、情けない格好で笑われて、僕はこの先どうやって生きていったらいいんだろう。悔しくても反撃の糸口も掴めない。
 バァンッ!!!!
 そのとき、教室のドアが大きな音を立てて開かれた。反動で引き戸が一度閉まったぐらいだ。
 ガラッと引き戸を静かに開け直して誰かが入ってくる。
「おぉ、ちょっと遅かったか!」
 タイミングの悪い深藍の声だった。

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