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一年戦争で(6)

「みんなー みずぎはちゃんともってきたー?」
 ヒナ先生の呼びかけに「はーい」と返事をする2組の生徒たち。もっとも返事をしたのは女子だけで男子は呆気にとられていた。
「プールびらきはまだ先だけど、ことしから田舎の学校ならでわの特別課外授業がはじまりまーす。というわけできょうは天気もいいし さっそくでかけましょー」
「ちょっと待ってくれよ。それは知ってるけど、なんで”今日”いきなりなんだよ!?」
 イーグルが声を上げた。
「「き い て な い よ ー!」」
 ツバメやハヤブサ、他の男子勢が口々にそんなリアクション芸を披露した。
 かくいう僕も一緒になって「連絡ミスだー」「謝罪会見しろー」などと言うのだった。
「え?」
 ヒナ先生の反応は以上である。
 男子たちは前々から”プール開き”があることは知っていたし”課外授業”があることも知っていたが、それが同時に今日あるなんて初耳なのである。男子たちのきいてないよー!の大合唱が始まった。
 女子たちはそれを冷めた目で見ている。
「はいはーい。なんかわかんないけど、どっかで連絡ミスでもあったのかなー?」
「水着持って来いなんて誰も言ってなかったぞー」
 バードが声を上げる。
「私はちゃんと緊急連絡網で回しましたー」
 イチジクさんが手を上げて発言する。
「はーい、たしかにせんせーは級長さんにつたえましたよー、緊急連絡網でつたえてねーって」
「私のところには連絡きたよ」
「私もー」
 女子たちが次々に連絡をもらったと証言し始めた。
 あれ、雲行きが怪しいな。
「連絡網はあいうえお順だから、女子のさいごはー…」
 ヒナ先生がクラスを見回す。
「はい」とイチゴが手を上げた。続いて自分はちゃんと男子に伝えたと言い放った。
 うん、男子の最初は僕になるのか。
 イチゴが男子の最初である僕に連絡したという。
「ちょっと待てっ連絡なんてもらって……あ」
 僕は昨日襲われる直前になんだかイチゴがそんなことを言っていたような…と思い出していた。
「…」
「…」
「…」
「…」
 僕が あ と詰まったことで連絡ミスの犯人が発覚してしまう。
 お前かよと。
「いやいやいやっ。ちょっと! あんな! あんなわかりにくい連絡じゃわかんねーって! 水着持ってこいとか!」
「ふーん水着もってこいっていわれたのねー? それのなにがわかりにくいのかなー?」
「いゃ、あの… 理由! そうだ、水着持ってくる理由言ってねーよ!」
「きけばよかったんじゃないのー? わからないなら。まあでもみずぎをがっこうに持ってくるってことはたいてーは水泳の授業だとおもうけどねー」
「いゃ、その… 言い方がわかりにくかったんだ!」
「先生ー、私もその場に一緒に居ましたけどー、ちゃんと伝えてたの見てましたー」
「私もー」
 みかんとレモンが補完する。
「ちょくせつ会って、つたえてもらったのに、緊急連絡網まわすのわすれてたのねー?」
「いぇいゃあの… えぇ〜…」
 僕は何も言い返せなくなってしまう。助けてくれよリーダー…。イーグルを見るとなんとも言えない顔をしていた。こいつ本当使えねーなーという顔だ。
「はいはーい。今日はいい天気そうだから今日にしようってきめたのが遅かったからそれはゴメンナサイだけど、緊急連絡網でまわして女子のみんなにはちゃんとつたわってるわけだからー、男子はほっといて女子のみんなであそびにい…課外授業にいきましょうー」
 ヒナ先生は忘れっぽい性格だ。
 今までも伝えるのを忘れてて緊急連絡網で明日の図工にはこれがいるからとか、雑巾を持ってこいとか、中には小テストがあるのを伝え忘れたとかもあったな。
 加えて気分屋だし、独善的なところもある。
 男子はそれもわかっているからこれ以上なにも言えなくなってしまった。
「男子はここでおとなしく自習ねー。あとでノートちぇっくするぞー。ちゃんとやれよー」
「先生、せっかくの課外授業なのに、男子も参加できないんじゃ可哀想だと思います」
 イチジクさんがきれいにピンっと手を上げて発言する。
「あらー? じゃあ級長さんはどうしたらいいとおもうのー? 男子はみずぎがないのよー?」
「パンツ一枚でも泳げると思いまーす」
「あははっ確かにっ」
「それなら男子も一緒に行けるねー」
「良かった良かった」
「水着忘れたバツよね」
「濡れても暑いからすぐに乾くしー」
 女子たちが示し合わせたように、口々に笑い合って発言した。レモンなどはにた〜と僕を見ていた。
 しまった、はめられたんだっ。くそっ。
「ちょっと女子のみんな!!」
 ヒナ先生が珍しく声を張り上げた。ヒナ先生はときどきヒステリックに怒る。とても怖い一面があるんだ。水着を忘れたからってからかうような女子の悪ノリにさすがのヒナ先生も怒ったようだ。静まり返る教室。
 女子は怒られるぞ。
「それ名案ねー!!」
「「なにー!?」」
 ざまあとか思ってるとヒナ先生は笑顔で級長の意見を採用するのだった。当然男子たちからは「いやだー」とか「セクハラだー」とか避難の声が上がる。
「だまりなさーい。いまからいくのは自然にかこまれたやまのなか! だれも見てないからだいじょうぶにきまってるでしょ! 自意識過剰!」
 ヒナ先生の方針には誰も逆らえないのだ。
 というわけで、今年から採用された課外授業の制度、一回目は地元の山の清流で川遊びだ。
「なにがというわけでだ!」
 イーグルに怒られた。男子全員から非難轟々だよ。
「どうするんだ?」
 バードが不安そうだ。
「いっそみんなで見学しようぜ」
 ドラゴンが肩をすくめる。
「ヒナちゃんはそういう仮病は絶対許さないタイプだよ」
 タカがメガネのフレームをくいくい上げていた。
「まんまと女子の作戦にはまったね…」
 ファルコンがまるで他人ごとのようにつぶやく。
 確かにもしこれが「男子はパンツを見られたら戦死」などというルールにしていたなら僕らは一網打尽である。もしもイチジクさんが「男子なんかすっぽんぽんで泳げばいいと思いまーす」なんて言ったら、ヒナ先生もすぐにそれ採用!って流れになって、なんと男子は開戦初日でさっそく全滅させられることになる。
 話の流れではヒナ先生の気まぐれでいつそうなってもおかしくなかった。
 女子は労せずに男子全員のパンツを脱がすことに成功するってわけだ。
「危ないところだったねー…」
「お前は他人ごとみたいに言うんじゃねーぞっ。とにかく男子は常に固まっていろ。最低でも二人一組で行動だ。基本背中合わせで警戒だぞ。背後から脱がされないように気をつけるんだ。飛び込みなんかするなよ」
 イーグルが道中みんなにそう伝えるのだった。
 僕たちの学校から歩いて15分ぐらいだろうか。気持ちいい風の中を進むと、山々に囲まれたこの町の北西に、底が透けて見えるほどきれいな清流があった。
 都会の学校にはない利点だ。
 まだ水は冷たいが異常気象なのか真夏のように照りつける陽射しは川遊びに持ってこいである。
 授業じゃなくても毎年遊んでいるわけだが、都会からやってきたヒナ先生はこういうのをとても楽しみにしている。
「あら、あなたたち。水着にお着替えになりませんの?」
 ピーチが一人だけスクール水着ではないオシャレで派手なピンクをあしらった水着を着て登場した。可愛いデザインだと言わざるをえない。
「うるせー向こう行ってろ」
 イーグルが追い払う。
 女子たちはこれまた示し合わせていたのか、大胆にも男子に見せつけるように服を脱ぎだした。恥じらう様子もなく、堂々とほいほい脱いでいって男子は目線を、あうあうっとさまよわせることになった。
 私服の下にはちゃんとスクール水着を着込んでいて、あっという間に泳ぐ準備完了だ。
 それに比べて僕らは誰も服を脱ごうとしなかった。水着と下着ではやはり違う。
 戸惑っているところへ勝ち誇ったようにピーチが現れたというわけだ。
「うふふふっ。ここであなたたちが泣いて降参宣言するならヒナちゃん先生に見学で許してもらうよう頼んであげますわよ?」
「んだと!? 言いたいことはそれだけか」
 イーグルが前に出る。
「確か…ルールでは戦う時間や場所の指定はしなかったですものね。授業中も有効。学校外でも有効。ふふっ。みなさんせいぜいおちんちんが丸出しにさせられないようお気をつけになってねー」
「くっ…」
 女子たちは明らかに僕たちに対していつでも裸にひん剥いてやることができるんだという余裕を持っていた。完全に男子を舐めている。
 ピーチが踵を返して女子たちの元へ帰っていく。縦ロールの髪を揺らし、形の良いお尻をぷりっぷりっとふって、丸みが強調されたそのかわいい水着は僕らの股間を刺激した。
 猫じゃらしに飛びつく猫のように目で追って、僕らはそんなお尻に生唾を飲み込む。
「どうしたんだー お前らー 早く着替えろよー! ハッハッハッ」
 大きな声で向こうからやじるように叫んだのはパインだ。
 すらりと背の高い快活な女子。凡庸なスクール水着も彼女が着ると洗練されたデザインに見える。
 周りの女子たちが同調して笑ったり、パインと同じように挑発する声を上げる。
 パインはこの春からの転校生でクールな見た目の女子だ。男まさりな粗雑な言動。常に自信に満ちた表情。こういうイベントごとや体育の授業ではクールさが一転して熱い掛け声や応援なんかもするんだ。運動が得意で普段はスカートにスパッツ姿が定番。ふわっとした髪質に茶髪がかったベリーショート。日本人離れした顔立ちだ。
 パインは実際どの派閥なのかというとわからないんだ。どこの派閥の女子とも仲良くやっているようだし、かといって必要以上にいつも誰かと一緒に居るというわけでもない。
 まだ夏前だからこれからどこの派閥に入るのかを決めるのかもしれないな。
「よし、いつまでも脱がないとヒナちゃんが切れるからな。さっさと脱ぐぜ」
 イーグルが意を決してTシャツをがばっと脱ぐ。
 女子たちが注目しているぞ。
 でも仕方ない。躊躇していても終わらないのだ。僕らもイーグルに続けとばかりに服を脱ぎ始めた。
 一瞬ズボンを脱ぐのをためらったが今日はみんなも一緒だ。大勢に紛れれば恥ずかしさも半減だ。
 河原で男子たちはあっという間にパンツ一枚になる。
 なんとほとんどの男子が白いブリーフだった。
 
 トランクスなのはイーグルとドラゴン、それにカラスという髪がぼさぼさの普段まったく目立たない奴くらい。
 ボクサーブリーフが数人、ツバメとハヤブサ。ファルコンとあとはモズというごつい奴と他数名。
 後はだいたいお母さんに買ってもらった白いブリーフである。
 男子の下着事情が一方的に女子に公開されて恥ずかしい限りだ。
 これだけパンツ一枚の男子が並ぶと身体検査でも始まるのかみたいな雰囲気だ。だが実際はいい年してパンツ一枚で川遊びである。情けないやら恥ずかしいやら。
 ヒナ先生もジャージに麦わら帽子という変な格好だったが、下は水着を着込んでいて、みんなに披露する。パーカーを着てはいるが下の水着は刺激の強いセパレートタイプ。おっぱいの大きさも他のガキどもとは一線を画す大きさでしっかり大人であった。まるでビーチバレーの選手のようなスキがない体。
 ちょっと多感な男子には刺激が強すぎるんじゃないかと思う。
「よーしならべー! じゅんびたいそーやるぞー」
 ヒナ先生の号令でしぶしぶ男子と女子が一箇所に集まる。
「男子 女子 男子 女子で交互にならべー」
「えっ」
 僕が驚いていると女子は素直に抵抗なくパンツ一枚の男子の間に割って入っていく。
 僕たちを見てクスクスと笑いを堪えている様子だ。
 体操ができるぐらい広がっていく。
 メロンのふくよかすぎるお尻が目の前に、両隣には大人しいマスカット、びわ、真後ろにはスイカが並ぶ。
 スクール水着越しの女子の体が近くにあってどぎまぎしてしまった。
 偶然の並びなのだろうがマスカットや、びわ、スイカは特に派閥があるわけでもなく影でモブ子ちゃんたち派という悲惨なまとめられ方をしている女子たちだ。
 体も小さいし、基本暗い性格であまり発言のない娘たち。戦争にも興味がない。
 ちなみにスイカだけはメロンより体が大きいよ。というかクラスで一番だろう。
 実は男子側の作戦参謀役であるタカは手始めにこのモブ子ちゃんたちをターゲットにしようと言い出したのだ。ピーチ派の一部でもあるこの一派を速攻で捕虜として確保し、この娘たちを盾にして捕虜交換とピーチ襲撃の材料と考えていた。
 男子がこのパンツ一丁水泳の危機を乗り越えれば、すぐに作戦に移行してくれると思う。モブ子ちゃんたちを捕らえれば、僕が助かる光明も見えてくるだろう。
「ん…」
 体操を続けているとおちんちんの辺りが熱くなる感じがした。ゆっさゆっさと目の前でメロンが弾んで、大きなお尻がぷるんぷるんと揺れるんだ。
 今まではあまり意識してこなかったが、僕はレモンのパンツを見て以来、おちんちんが存在しない女子の股間のつるんとした感じが、最も身近にある大きな謎として僕を悩ませた。
 パンツを脱がせたらどうなっているんだろう。
 どこからオシッコするんだろうなどと次々と疑問が沸いて出てきた。
 神秘を感じる。
 そしていつの間にかおちんちんが勃起し始めるのだ。
 レモンは一番右側にいて、意外にもちゃんと体操しているようだ。レモンのお尻を横目でちら見する。まぶしく輝いた白い太ももからのスクール水着で覆われたお尻。キラキラとして吸い付きたくなる衝動に駆られた。
 おちんちんがみるみる大きくなってしまう。
 下着越しに形がはっきりとわかるぐらいに目立ってきた。どうしよう…。僕は腰を引いてバレないように努めるが、到底ムリだよ。
 隣でびわがドン引きしたようにじりっと少し僕から離れた。
 彼女からしたらブリーフの男たちに囲まれてしまっているのだ。その上に隣でおちんちんを勃起させている奴なんていたらホラー映画でしかないよね。
 僕が女子のお尻をちら見するのと同じようにびわも僕のおちんちんをちら見するんだ。
 目の前でメロンがぴょんぴょん跳んでお尻が激しく揺れだした。僕も同じ体操をしておちんちんが上下に揺さぶれられる。
 永遠に続くと思われた羞恥体操は最後におちんちんを勃起させたまま深呼吸するという矛盾にも似た行為で終局を迎えるのだった。

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