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スイミングスクールウォーズⅢ(1)

「こいつシミついてんぞー!」
 またしても忌々しい歳下3人組の男子が功(いさお)の前に立ちはだかった。彼らは歳下の癖に、完全に功のことを格下なのだと認識しているようだ。
 
「ひそひそ…」
 着替えを終えてロッカールームから出てきた生徒たちがゾロゾロと出て来る。授業前の緊張感のあるひと時だ。力のある男子の大声で、みんなが功の股間を注目していた。
 
「やだー…。汚〜い」
 ひそ…。
「拭かないんだ…」
 ひそ…。
 桃(もも)と寧々(ねね)の二人は身を寄せ合って功に軽蔑の目を向ける。気持ちの悪い虫を見るときの目だ。彼女たちは功の後輩でスイミングスクールに入校してきた頃は「優しいお兄さん」と慕ってくれたものだが、今では見向きもされない。
 
「うるせー!」
 功は自分の競泳水着の前をみんなから見えないように背中を向けて壁を見ながら廊下を歩いた。鋭角的な緑のパンツの先っちょは小さな丸いシミが付いているのだ。トイレに行くんじゃなかった… と思う。
 しかし例の3人組がこの格好のおもちゃを見逃すはずがない。強引に肩を掴んで功を振り向かせる。後ろから羽交い締めにされ、強制的に振り向かされた。
「おぃい!? なんだ、やめろお前ら!」
 身体の小さな功は大樹に軽々と抱え上げられた。足が床から離れる。歳下の癖に身体の大きな大樹だ。坊主頭で体脂肪率の高い身体だ。傍から見れば功のほうが歳下のようである。
「だっせー。シミ付きヤロー! へへへっ」
 3人組のリーダー格・大樹は功の身体をわざわざ女子のほうへと差し向けた。競泳水着の股間に丸くつくられたシミをわざわざみんなに見せるためだ。みんなに股間を注目される。
 
「きゃっ やだ!」
「うわー」
 上級クラスのお姉さんや最年少クラスの女子もドン引きだ。赤い競泳水着の女子たちは総勢15名揃っていた。功はもじもじと内股になって股間を隠した。
 
「さいてー」
 ショートカットの髪を後ろで2つに結んだ、ぷっくりと丸顔の少女・桃だ。勇気を出して一歩前に出て功の股間を覗き込む。顔をしかめてはいるが好奇心だけは旺盛なのだ。小さな生き物や爬虫類なども好きで、どんなシミが付いているのかを知りたいようだ。水泳帽を肩紐に挟み込んでいる。
「やめなよ桃ちゃん!」
「汚いよー」
 周りの友だちに止められても、「うわー、男子って不潔ぅ」と言いながら見つめていた。天然で変わった娘である。
 
「おらおらー」
 大樹が犬の糞を扱うようにして女子に功を近づけ、もて遊んだ。功は足をジタバタさせて暴れるが、いいように為されるがままである。
 
「桃ちん危ないよう」
 おっとり寧々が桃の腕を引っ張って心配していた。さらさらの長い髪をしっかりと水泳帽の中に収めている。細面の美人顔。泣きぼくろにゆっくりとした口調が特徴的だ。
 
「ほら! もっとちゃんと見せてやれやっ」
 3人組の右翼、隆史が功の右足を抱き込んだ。
「ふへへっ」
 3人組の左翼、一太も左側から功の左足を掴んで抱えてきた。
 
 がばっと股が開いてしまう。
「わっしょいわっしょい!」
 3人組が神輿のように功の身体を祭り上げて女子に見せつける。
 女子たちは「やーもう! 可哀想だよ!」「クスッ男子ってバカばっか」「やめてあげなよー」と様々な反応を示した。授業前なのでスタスタとプールへ歩いて行くマジメな娘や足を止めて面白がる娘たち。露骨に嫌そうな顔をして顔を赤くしている娘もいる。
 
 功は恥辱と屈辱に顔が真っ赤になり「やめろ!」と叫び続けるしか手がない。スクール最年長の威厳など一つもなかった。トイレに行っておちんちんを振り切らなかったばっかりに、大失態だ。男子にとって水泳のときは要注意の項目なのに、怠ってしまったのだ。
 恥ずかしいシミがことさらに見せびらかされてしまう。
 股間にシミをつくっているのを女子に見られるのは水泳男子の最大の屈辱である。
 
「なんかイヤだよね。一緒に泳ぐの…」
「確かにプールに入って欲しくないねぇ〜」
 桃と寧々はクスクスと笑いあった。
「臭そう…」
「男子って不潔ぅ」
 
「誰か消毒してやってくれよー」
 大樹が冗談めかして叫ぶ。
「ぎゃはは」
「うぇーい」
 
 上級生に向かってこの態度は許せない。功は「うるぉおらー!」とジタバタ暴れる。しかし大樹の力の前にひょろひょろの功では歯が立たない。
「ほら! 誰かお願いしまーす。消毒してくださーい」
 隆史が功の水着をグイッとずらしてきた。裾に手を突っ込んでおちんちんを露出させてしまった。紐で結んでいるので脱がすことはできないが、足を入れる穴をずらして横チン(横からチンコが見える状態)にさせたのだ。金玉袋まで完全露出である。
 
 ぽろんっ
「きゃー!」
「やぁだあ! もうー!」
 一斉に女子たちが悲鳴を上げる。目線を逸らしたり顔を覆ったり。桃と寧々も「いやっ」と顔を背ける。
「ちょっ お前ら!? くそっ なにやってんだぃ!!」
「わっしょいわっしょい!」
「ひゃっは!」
 大樹たちはそのまま功を担いでプールに向かっていった。女子たちはゆっくりと歩を進めて後を付いていく。
 ぴょこっ! ぴょこっ!とおちんちんが舞い踊って、いい恥さらしだ。
 女子たちは見ないようにしながらもしっかりと見ていた。顔を覆っても指の隙間から、目線を逸らしても横目でチェックしている。全員がちゃっかりと異性の性器を観察する。
 
「小さかったねー」
「赤ちゃんみたいだったなー」
 桃と寧々はうふふクスクスと笑う。小走りに功の後を追うのだった。

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