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掃除当番で(9)

「あれ…」
 佳苗はけんじのおちんちんにある変化を認める。もっと屈んで下から覗き込むように観察する。なんと小さいと思っていたおちんちんがむくむくっと大きくなっていくではないか。下を向いていたのに上向きに反り返っていく。クーちゃんとテリオにも目を向けてみるが彼らに変化はない。
「勃起してる」
 佳苗の横でしゃがんで見ていた麻耶が指摘する。
「え?」
 良奈が麻耶の言葉に反応した。もう一度屈んでけんじのおちんちんを覗き込む。
「あー!」
 けんじは土下座をやめて両手で手早くおちんちんを隠した。隣で麻耶が立ち上がってトイレの入口に歩いて行く。
 勃起とは何か。知らないわけではなかったが佳苗はそんなものを初めて見た。もっとよく観察したいと思った。
「なに大きくしちゃってんのぉ!?」
 クーちゃんとテリオも頭を上げてけんじを見る。けんじは顔を真っ赤にさせて俯いていた。両隣の2人にしらーっとした様子が窺える。リーダーと認めていた男が恥を上塗るように勃起してしまっているのだ。
「これはだめだよね? 隣の2人はいいや。もう許してあげるけどあんたは駄目」
「なっ…」
 何でなんだと抗議したいのだろう。けんじは顔を上げて良奈を見る。
「勃起するなんて反省してない証拠じゃん。ふざけてんの?」
「ちげーよ!」
「何が違うっての?」
「これは… 何にもなくても勝手にこうなるときもあんだよ!くそっ」
 けんじは下を向いて真っ赤な顔を隠す。
「信じらんない。何にもないのに勃起するわけないでしょ!?」
「見られて興奮したんだろ」
 亜美が口を挟む。
「それって… 変態ってこと?」
「さぁ?」
「違う!」
「人に謝るときにちんちん勃起させるなんて、わざとそうやって私たちのことコケにしてるか変態かのどっちかなんでしょ?」
 見られて屈辱な筈なのに勃起するというのは佳苗にはよく解らないが、確かにおちんちんを上向かせて頭を下げても、謝る態度としてどうなのかと思う。わざと勃起させてるのだとしたら許せない。
「これ使いな」
 麻耶が戻ってくる。しゃがんでずっーーとおちんちんを観察していた佳苗に箒を手渡す。佳苗たちが持ってきていた箒だ。麻耶は相変わらず視線は合わせてくれないが少しほくそ笑んでいるように見えた。
 箒を持って立ち上がる。もう、それをどうすればいいのか佳苗には解っていた。
「ん、朝倉さん… それどうするの?」
「お尻叩き…」
 怒っていた良奈の顔が笑顔に変わる。
「ふははっ。いいじゃん、やっちゃえ」
 けんじが怯えた顔で振り返って佳苗を見る。佳苗は既にバットを持つようにして箒を構えていた。
「10発耐えたら許してあげる。それまでにあそこ元に戻さなかったらもう10発よ」
「う…くっ…」
 けんじはそれに納得したのか佳苗から視線を外し元の体勢に戻る。佳苗はけんじがお尻叩きに耐える覚悟ができたのだと了解した。佳苗は箒をバックスイングさせる。ゴルフのスイングに近い形になるだろうか。けんじのお尻をロックオンする。
「いくよっ」
 ヒュンッと風をきる音。
 バシッ!!
「ふグっ!」
 佳苗の振り切った箒がけんじのお尻に当たる。水しぶきが少し飛んだ。あまり痛がっているようには見えない。箒はお尻を叩くための道具ではないのだから痛くはないのかも知れないと佳苗は思った。しかし掃除道具でお仕置きされるというのはある意味で屈辱的なことだろう。むしろ目的はそっちかも知れない。掃除をサボったのだから掃除道具でお仕置きなのだ。
 佳苗は段々と自分の頭がショートしていくのを自覚する。けれどそれは愉しかった。
 バシッ!! バシッ!! バシッ!!
 一度目と同じ動作で二、三、四発目をスイングする。けんじは小さく「うっ!」とか「くっ!」と呻いた。
 箒でお尻を叩かれるけんじを皆が見守る。クーちゃんとテリオはおちんちんを手で隠しながら哀れみの目で見ている。もう、箒でお尻を叩かれるようなこんな情けないリーダーには誰も付いて行かないだろう。
 バシッ!! バシッ!! バシッ!! バシッ!! バシッ!! バシッ!!
 続けざまに佳苗は箒を振り回した。けんじのお尻を見ると若干赤くなっているのが解った。うっすら線状に箒の形が見える。
「どう? 小さくなった? 手、離してみんなに見せてみなよ」
 けんじはしかし手をどかさなかった。まだ勃起しているのかも知れない。
「見せろって。まだ勃起してるって見做してお尻叩き続けるよ?」
 けんじは観念してそっと両手をどかした。女子みんなで屈んで覗き込む。
「あ~駄目だねー。まだだ」
「…」
 深智は引いてるように見えた。
「あと何10発やったら小さくなるんだろうね?」
 良奈がやれやれといった具合に呆れて笑った。
 亜美がつかつかと佳苗の方に回った。手を差し出して箒を要求している。佳苗は従った。
「面倒だから、これが最後の一発でいい」
 亜美は箒を構える。佳苗は邪魔にならないように後ろへ下がった。亜美は軽く練習で二度スイングした。ビュンと佳苗のスイングより鋭い音がする。けんじはまた両手でおちんちんを隠して素直にお尻をクンッと突き出す。箒で叩かれるぐらい痛くもなんともないと思っているのだろう。
 亜美が静かにけんじが跪く後ろに立った。すっと箒をけんじのお尻に当てる。そこからゆっくりバックスイング。皆が息を呑む。次の瞬間、箒がしなった。
 ビュンッッ!!
 練習の比ではないほどの空を切る鋭い音。
 バキィン!!!
「へギャァーっ!!」
 けんじは両手をお尻に回して飛び上がるように仰け反った。柄に近い部分が当たったのか箒は真っ二つに折れていた。折れた片方は天井まで飛んで激突して落ちてきた。
 けんじはもんどり打って女子トイレの床を転がる。水浸しの床を全裸で転げまわっていた。強烈なフルスイングをした亜美は柄を放り投げる。
「ふんっ」
 女子トイレでの攻防は終わった。けんじの勃起はまだ収まっていなかったけれど、もうそんなことはどうでも良かった。男子をこてんぱんにやっつけることができてそれだけで充分だ。ただ佳苗は心の中で「備品壊しちゃった」と呟くのだった。
〈終〉

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