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水泳部の合宿で(2)

 カズは女子更衣室に忍び込んでいた。そして夏子のものと思われる白いパンティをポケットに入れたところだ。これは出来心である。本来ならこんなことするつもりはなかった。盗撮だけで済ませるところだったのに、彼は望まぬ形でホテルに侵入するはめになったのだ。あの金髪の美少女を追いかけて息を切らせて走ったのだが完全に姿を見失った。ホテルの近くをぐるりと回ってみたが人気はなかった。一度諦めて屋上に戻ってみると、なんと盗撮用カメラまで失くなっていた。カズは焦った。気が動転して転げ落ちるように階段を降りて少女の姿を再び捜した。金髪の美少女が持っていったに違いない。あのくらいの年齢の少女でもカズが何をやっていたのかを既に理解しているのだ。カメラと顔及び陰茎を晒した写メを証拠に大人に報告するのだろう。カズはとにかくカメラを取り返さねばと後先考えずに少女を捜した。
 偶然はすぐに訪れ、ホテルに入っていく金髪の少女を発見。少女が水泳部の関係者なら水泳部が泊まっているホテルの出入り口を見張っていればいずれ通るのではないかと踏んだのだ。カズは客でもないのに正面から入っていくのは拙いと開けっ放しになっていた窓から侵入。そして女子更衣室を見つけた。カズは「これはカメラ捜索のためだ」と鼻息を荒くしてドアを開け放ったのだった。
「はっ。そうだ…カメラ…」
 そして本来の目的を思い出した。白いパンティの匂いや感触を充分確かめてポケットに入れた後で我に返る。これじゃただの変態だ。水泳部の連中はまだ戻ってこない筈だがこんなところをまた金髪の美少女に見られたらと思うと、カズはゾクゾクするものを感じた。
 ガチャリ。
 ふとドアを開ける音が背後で聞こえた。突然すぎてカズは隠れることもできなかった。そして間抜けにも振り返ってドアの方を見てしまう。
 小さく「ヒッ」と悲鳴を上げる夏子の姿がそこにあった。バスタオルを肩に掛け、まだ完全に乾いていない身体のまま。先ほどまでカズがファインダー越しに覗いていた競泳水着が眩しい。夏子は廊下に出てドアを締めようとした。
「待ってくれ! ただいま掃除中でして!」
 夏子の手がぴくりと止まり、彼女の童顔が怯える目でカズを捉える。
「あー、ボクはアルバイトの従業員でーそのーハハッ… 皆さんが練習中の間に館内の掃除をば…」
 夏子は疑わしいという目でカズを睨んだ。カズは嗚呼ダメだと覚悟した。こんなにリスクを背負うなんて、いつもの自分ならする筈ないのにと愛想笑いを続ける。
「成実ちゃん、こっち。早く来て!」
 夏子は顔を背けて誰かに声をかける。夏子だけじゃない。他にも誰か居るなら、カズはますます窮地に追い込まれたことになる。夏子もカズが従業員だなんて信用していないみたいだ。窓から逃げるか。ふとカーテンの閉まった窓に目を向けると金髪の美少女が顔を覗かせていた。
「うお…」
 カズは驚いた。窓は開いていたのか? ずっと見られていたのだろうか? どこから見ている? 咄嗟にポケットのパンティに手をやる。少女は無邪気ににんまぁーりと微笑む。そしてひょいと窓から離れ姿を消した。
 唖然とするカズ。ペタペタと背後で近づく音。カズが振り向くといきなり胸ぐらを掴まれた。
「おい、あんた! 従業員とか嘘だろ! そんなきったない、ヨレヨレの服で!」
 筋肉が程よくついた腕。浅黒い肌の少女が至近距離に立っていた。正義感の強そうなつり上がった目でカズを睨む。
「あ、え? 従業員ですよ? あの他の部屋の掃除も残ってますのでー…そろそろ」
 カズは相手の目を見ずにしどろもどろになりながら答えた。目を逸らした先には夏子の足元があり、すべすべのきれいな足だなと見つめる。
「あからさまに怪しいんだよ! だいたい掃除道具なんてないし!」
 カズはガクガクと揺らさされる。
「成実ちゃん、そいつのポケット…」
 夏子がカズのポケットを指さす。カズは反射的に両手でポケットを覆った。
「何か隠したなっ!」
「きっと下着よっ」
「いや、あの…」
 カズは何か言い訳をと回らない頭を高速回転させた。しかし言い分を聞いて貰う前に視界が一転した。
 パシィィィン!!
 肉の弾ける強烈な音が響く。成実の鋭いスイングが飛んできた。首が吹っ飛ぶかと思うほどに曲がり、遅れて痛みが増幅してきた。
「…いぎぃ」
 カズは声を漏らして首の位置を正面に戻す。成実の表情は燃え盛る炎のようにギラギラとしていた。
「変質者め! 覚悟しな!!」
 カズは恐怖に慄き、オシッコを漏らしそうになっていた。

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