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初恋のあの娘の前で(1)

「きゃぁ」
 強い風が吹いて美里の制服のスカートがふわりと捲れ上がった。
 次の授業は教室を移動しなければならない。その移動中の出来事だった。俺は偶然にも彼女の後ろを歩いていた。だから見てしまったのだ。
 美里の飾り気のない白いのパンツを。
 俺はどぎまぎしてしてしまった。美里は一緒に居た数人の友達と共に俺を睨んでいる。スカートを手で抑えて小声で俺のことを話しているみたいだ。俺は厄介なことになるのは嫌だと思って彼女たちを無視して急ぎ足で渡り廊下を通る。
 彼女は他の女子たちと違ってスカートの裾を短めにしている。美里はクラスでも浮いた存在だった。どちらかと言うと不良っぽい…、いや反体制…、違う…何と表現して良いか解らないが、先生の言うことを真面目に聞かないグループに属していたのだった。
 決して他の真面目な生徒達とは交わらない、社会をちょっと斜から見ているようなイメージ。かといって不真面目かというとそうでもなく授業にだってちゃんと出席する。成績も悪くはないみたいだ。それでもお前らとは違うという明確な意思表示としてスカートの裾を上げたり、少し茶髪にしてきたりして目立っていた。
 俺はそんな美里が好きだ。みんなと違って精一杯の自己主張をする美里。気が強くて、眼の力が強い。相手を射抜くような意志の強さが窺える。
 彼女とは小学生の頃から同じクラスで、美里が他校から転校してきたときは割と仲良くしていたものだ。だが進級するにつれ、今はあの頃ほど仲良くはしていない。
「見たでしょ?」
 美里と同じグループで早希というこれまた気の強い女子が、強い調子で僕に問いかける。美里の親友である。
「何?」
「だから、あんた美里のパンツ見たでしょ、さっき?」
 スポーティなベリーショートの早希。キッと目が釣り上がって俺を睨む。
「…。いや何のこと?」
「今、間があったじゃん。絶対見たな」
「何言ってるんだ。見てないよ、そんなもん」
「しらばっくれるわけ?」
 放課後のことだった。帰宅部である俺は早々と帰る用意をしていた。早希が話しかけてすぐ後に仲間の南と千代という二人の女子が俺の席を囲むように近付いてくる。
「ちょっと演劇部の部室まで来てくれる?」
「何で俺が? 嫌だ」
「人のパンツ見といて何その態度」
 早希は俺の机に手を乗せる。机を叩くような真似はしないが警察の取り調べっぽいイメージで威圧的だ。腕組みする南と蔑んだ目で俺を見る千代。逃がさないという意思が見て取れる。
「俺帰るから」
 俺はカバンを抱いて逃げ出そうと思った。
「用事あるんだけど?」
 彼女は強引に逃げ出そうとした俺の胸ぐらを素早く掴んだ。
「こっち来いよ」
 ぽっちゃり体型の南が俺の腕を掴んだ。こいつは背も高く力が強い。グッと握力で俺の腕が圧迫される。顔は可愛いのになんて力だ。
「いてっ何だよ。離せ」
「いいから一緒に来なって」
 南は強引に俺を引っ張って行く。俺はそのまま彼女たちと教室を出て演劇部の部室がある校舎の最上階へと上がった。
 俺はいつでも逃げ出せると思っていた。だから南に片腕を掴まれて連行されているときも不安は感じていない。いくら力が強いといっても女なんかに負ける筈がないと思っていた。だが演劇部に近づくにつれて早希たちの仲間の真悠子と深衣奈が待ち受けていた。
「おつかれ~」
 深衣奈は明るい調子で手を振ってくる。俺は危機感を募らせる。あの先輩はやばい。嫌な噂ばかりを聞く先輩だ。それに加え女子が徒党を組んだら力負けする可能性もある。これ以上俺を締めようとする仲間が増えるのはまずい。やはり今脱出するべきだ。
 だから俺は南の拘束を振りきっていきなり走りだしていた。
「あっコラ!」
 南が追ってくる。しかし早希のほうが足が早く俺の前に瞬時に躍り出た。
「くっ」
 俺はフェイントを掛けて横をすり抜けてやった。少し離れて後ろを歩いていた千代は突然走りだした俺に対処しきれないようで驚いた顔をしていた。
「あっ」
 小さく悲鳴を上げる千代。構わず俺は彼女を突き飛ばす。黒髪のロングでメガネをかけている千代。この子は成績優秀だが、南と違って腕力はない。彼女は突き飛ばされて尻餅をつく。その際にメガネが飛んで落ちた。
「いたぃっ」
「待て!このやろっ」
 早希が追いかけてくる。すぐに追いつかれ制服を掴まれる。俺は引っ張られてバランスを崩すがこれくらいで倒れはしない。逆に遠心力を使って振り飛ばしてやった。
「あんっ」
 早希はバランスを崩して転ぶ。転んだ拍子にスカートがめくれて柔らかそうな太ももが見えた。
「ふんっ」
 俺は鼻で笑う余裕があった。女なんてこの程度だ。楽々逃げられるぜ。
 急いで階段を降りる。だが俺は気が付いていなかった。いつの間にか真悠子がすぐ背後まで音もなく迫ってきていたのだ。階段の踊場で捕まった。
 真悠子は美里達より一年後輩でなんかの格闘技をやっているらしい。俺は制服の袖を掴まれて進めなくなるが、しょせん女の力なんかすぐに振りきれる。俺は腕を振り回す。くそっ、なかなか振り切れない。俺はやむなくカバンを振り回して真悠子に当てた。
「クッ」
 真悠子の手が離れた。俺は階段を一気に下りる。真悠子は尚も追ってくる。もう少しで階段を下り切ると思ったとき、背中に衝撃が走った。なんと真悠子が飛び蹴りを食らわしてきたのだ。俺は派手に廊下に転んでしまった。
「いってぇ!」
 二階の廊下では何人かの生徒が何事かとこちらを注目していた。少しざわつく。すぐに真悠子がうつ伏せに倒れた俺の背中に乗って腕を取った。
「イテテッ折れるっ!」
 真悠子は無言で俺の腕を締めあげた。後ろから南がやってきて足で俺の頭を踏んだ。
「コノヤロウ!」
 こうして俺は再び拘束された。他の生徒達が見ている前で俺は情けなくも女子に力で抑えこまれて連行されていく。

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