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ハンバーガーショップで(2)

 何が起こっている? わけが解らないまま俺は恐る恐る席に近づく。彼女たちは俺のことなど目に入ってない様子で話し続ける。諦めて別の席に移動してもいいのだがノートパソコンや他の荷物も置きっぱなしだ。それは取り返さないと…。
「お、おいお前ら。そこは俺が座ってた場所だろ…」
 恐る恐る、いや上からモノを言うようにして主張してみる。しかし彼女たちは会話を止めずにガン無視していた。その内の一人は俺のノートパソコンを弄っている。
「おいって! それは俺んだ。触んな。どけお前ら!」
「なにこのオヤジ?」
 ノートパソコンを弄っていた娘が仲間に同意を求めるような言い方で注意を惹く。他の女子高生たちは会話を中断して席の前に立つ俺をじろりと見てくる。
「キモっ」
「おいふざけんな。どけっ。ここは俺が座ってたんだ」
「ハァ?」
「ウチらもずっと座ってましたけど」
「帰れよハゲ…」
 俺は段々と苛立ってきた。まず俺は25歳であってオヤジ顔ではないし、どこも禿げてはいない! それにちゃんとスーツを着ているんだからキモい要素だってない筈だ。
「ここに俺の荷物が置いてあっただろ! そのノートも俺んだ! 勝手に座るな!」
「そんなのなかったよね?」
「このパソコンさっき拾ったもんだし」
「なわけないだろ!」
 返せっと俺はノートパソコンを弄り続ける娘の腕を掴んだ。
「いやっ!!」
 娘は思いの外、甲高い声で拒否反応を示し俺の手を振り払った。
「うゎ」
「なにコイツさいてー」
「どエロ!」
「ちょっとケーサツ通報したほうが良くない?」
「ムカつくー」
 女子高生たちは口々に俺のことを罵り始めた。拙い。騒ぎが大きくなり始めてきた。周りの席をちらりと見るとやはり他の女子高生たちが怪訝な目で俺のことを見ていた。
「チッ おい… 悪かったって。もう帰るからノートとカバン返せっ」
「うざい」
「喋り方が特にウザい」
「偉そうだしキモい」
 一つ言えば3つ4つ返ってくる。早く荷物を取り返さないと。
「懲らしめてやろうよ」
「そうだね。ウチらでクズ社会人を矯正させてやろっ」
「ちょ、おまぁ、座れ」
 手前に座る女子高生が席を立った。奥の席の女子高生がさらに奥へと席を詰める。俺は腕を引っ張られ席に座らされた。席を立った女子高生は逃げ道を塞ぐようにまた着席して、瞬く間に俺は二人がけの席の真ん中に女子高生二人に挟まれて座る形となった。
「な、な、…なん、なんのつもりだ!?」
「最近さぁ常識のない社会人多いからね」
「こーゆーDQNおじさんが元凶なんだって」
「クズは矯正!」
「いっこいっこ潰していかないと」
 女子高生たちは口でそう言いながらも顔は笑っていた。先程まで怒っていたのではないのか? 俺は両サイドから腕を絡めとられてしまった。抵抗するしないという以前にコイツらに何かされてもすぐに脱出できる。そう無意識に考えが働いたからだろう。気づけば両足も絡められている。左側の女子高生は右足を、右側の女子高生は左足を俺の太ももの上に乗せて、膝を巻き込むようにしてロックしていた。
「ゆみちゃんに謝れっ」
 向かいの奥に座っていた女子高生が身を乗り出して俺のネクタイを掴んで引っ張る。
「うっぐぐっ」
「ちゃんと謝ったら許したげる」
 歳上で大人である俺の立派な社会人である証のネクタイを!
「やめろ! 引っ張んな!」
 ガキの癖に生意気な!
 ネクタイを引っ張っている女子高生が俺の頬をペチペチとはたく。屈辱的な音だった。
「ほれ、早く謝れ」
「くっ誰が! お前らこそ悪いことしてるって思わんのか!」
「ちょーし乗っとんねコイツ」
「痛い目見ないとわからんのじゃない?」
 やいのやいの騒ぐ女子高生たちにまったく交渉どころか会話も通じず、俺の怒りが頂点に達しようとしていた。
「っざけんな!」
 俺は力があるところを見せてやろうと少し大きめの声で女子高生たちを制した。ここから抜け出すべく俺は絡まった手足を力ずくで振りほどく。ここはガツンと大人の威厳を魅せつけてやろうじゃないか。大人の男を怒らせたらどうなるかを教えてやる。振りほど…。まずはこの拘束を振りほどい… あれ…?
「なに?コイツどしたの?急に大きい声出して」
「急に怒鳴るヤツってぇ、他の人の迷惑考えないヤツだよね?」
「ほんとそー。怒鳴れば言うこと聞くと思ってんじゃない?」
「最悪~」
「なんか暴れてんだけど…」
「何がしたいの?」
 俺は本気を出して身体を左右に振って腕に力を込める。
「静まれって」
 ネクタイを掴んでいた女子高生が再びネクタイをグイッと引っ張る。今度は強めに持ち上げられて首が締まる形となった。
「うぇっ」
「ははっ。やっと大人しくなった」

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