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修学旅行で(4)

「んゥッ …はぅっ…」

「右手側からオバサンが来てる。のろいわ。ゆっくり歩いてる。左手側からは真面目そうなサラリーマンのオジサンよ」

 市河が状況を報告してくれた。

「ハッ」

 俺はまたドキッとする。

 少しはだけたジャージの下、白いTシャツから透けて見えるブラジャーが目に飛び込んできたのだ。小さいTシャツでパッツンパッツンにおっぱいが張っているのが解る。メロンでも隠しているのかと思うくらいでかい乳だ。俺の身近にこんなに大人みたいな乳のやつが居るなんて…。発育の良い胸がさらに近寄ってきて密着してくる。

 4人の女子はお互いに身体をくっつけ合って俺を覆った。サッカーのゴール前に選手たちが壁を作るみたいに、女子たちは密着して世間から俺を隠す。

「らっせーらーらっせーらー 昇竜拳!」

「おりゃー」

「うぇーい」

 他の3人の男子たちが離れたところでふざけて踊ったり、1人をボールに見立ててキャッチボールなんかしてみたり…。少しでも注目を集めて俺に目が向かないようにしてくれていた。

 みんな素晴らしいチームワークじゃないか。

 ツカツカとサラリーマンが近づいてくる。

「ねぇねぇ昨日のプリキュン見た?」

「きゃっきゃっ」

「うふふ」

 俺の至近距離で女子トークを始める4人。吐息が俺にかかって熱い。

 全裸男子の存在がバレてはいけないと中邑は俺の腕をギュッと抱きしめるようにして密着してきた。こいつ根がマジメだからな。修学旅行で一般の方に迷惑をかけてはいけないと指導されているし、通報でもされたら大ごとだと心配してくれているんだ。

 渓口は背伸びして少しでも高い壁を作ろうとしてるし、市河はなるべく隙間がないように中邑と笹木を抱き寄せる感じで密着してくれた。

「はふっはふっ」

 女子たちの熱に、なぜか俺は顔が真っ赤になっていた。

 市河のおっぱいが触れるか触れないくらいの距離で揺れている。

 もぎゅっと温かい笹木の手がおちんちんを握ってきて微動してるんだ。芋虫をティッシュで摘むみたいに、彼女の左手は竿をタオル越しに摘んでいた。おちんちんだけは何としても露出させてはいけないと思ってのことなんだろう。

 ツカツカとサラリーマンが横を通り過ぎていく。

 サラリーマンは怪訝な顔で俺たちを見た。

 ギラッと社会正義の目が光る。怪訝に思われているようだ。

 女子たちは『あたしたち井戸端会議中ですよ』の猿芝居で普段、教室で話すようなことを普段のテンションを装って話していた。昨日見たテレビの話しにアイドルの誰それが好きだとか。

 もぎゅっ

 もぎゅっ…

 ぴくっ

 俺はハァハァと息を荒くしていく。おちんちんを握られているとワケも解らずテンションが上ってくる。なんだ、この感覚…。

 風呂上がりの女子の匂いが甘くて温かい。渓口の笑うときの吐息が漏れて俺の頬にかかる。

 おちんちんがムクッと少し大きくなってきた。

 俊敏にそれを感じ取った笹木は「ん?」という顔で一瞬だけ俺を見るが、すぐに「飴トーークおもれー」とか世間話に戻った。

 サラリーマンは去っていく。何とかクリアしたようだ。だが、まだオバサンが残っている。ゆっくりと夜の町を歩いてきやがるぜ。

 俺は腰を引いて耐え忍んだ。永遠にも似た時間の進み方だった。

 熱は帯びてさらにヒートアップしていく。大量のミツバチが一匹のスズメバチを取り囲んで熱で殺してしまうのと同じで、俺はまさに死に直面して恍惚の表情を浮かべるのだ。

「ちょ、ちょっと… まだかよ?」

「ん? まだ横通り過ぎてくとこ」

 小声で笹木が俺の声に答えた。

「きゃっきゃ」

「うふふ」

 永遠とも思える時間が流れる。

「行ったかな?」

「まだこっち見てる」

 中邑と市河が小声で話した。

 3馬鹿男子は誰が一番ぴょんぴょんジャンプし続けられるかという実験をしていた。

 一応は社会に迷惑をかけていないレベルでのおふざけだからオバサンも見逃してくれるだろう。ワンワンと犬の鳴き声が聞こえた。オバサンは犬の散歩をしていたようだ。

 てくてくと通り過ぎていってやっと角を曲がる。

 地方都市の住宅街は日が落ちると歩いている人も少ないからな。道は元通り人が居なくなった。周りにマンションや民家もあるんだからこれ以上 騒がないほうがいい。

「ふぅっ… 行ったね」

 笹木が額を拭う。女子たちは離れていった。雑居ビルの外壁に張り付いたような俺が一人残される。両手両足を開けっ広げにした俺。甘い匂いが遠ざかってハッと両手で股間を隠す。

「あたしらに感謝しなよ。見つかったら先生に言いつけられたかもね!」

 渓口は得意気に上から物を言ってきやがった。

「うるせーよ… 頼んでねーんだよっ」

 俺は口を尖らせて憎まれ口を叩いた。

「むっ」

 渓口はムッとした顔を向けてくる。

「ありがとうも言えないのー? 素直じゃないな」

「おれら先に行ってサトシから服、取り返してきてやるよ」

 3馬鹿男子が提案する。

「おうっ 頼むわ!」

 俺はそれに甘えることにした。服を持ってきてもらえるなら助かるぜ。まっすぐ歩いていけば途中で合流できるだろう。別館に戻るまでもなく服を入手できるぞ。

 「任せとけっ」と義憤に駆られた男子たちが走って別館に向かっていった。

「よかったね」

 笹木が腕を腰にやって小馬鹿にしたような感じで言う。

「あの3人にもお礼言えっての。何で男子ってありがとうが言えないんだろ?」

 渓口は呆れた様子でエセ正義を振りかざす。良いんだよ! 男同士の友情に言葉なんか要らねえっての! 女ごときが男の会話に口出すなってんだ!!

 と心の中で思った。

「私たちが見張ってあげるから行こうよ」

「おう…」

 中邑に促されてまた全裸歩行が始まる。女子たちは俺を囲むフォーメーションでついて来た。これじゃ俺は裸の王様だ。侍女たちが裸の俺をエスコートして歩く。

「あっ タオル返せよっ」

 忘れていた。笹木のやつずっと俺のハンドタオル持ったままだ。

「んー? あごめん」

 ひょいとタオルを俺の前にチラつかせた。デジャブを覚える…。今度こそウルトラ超神速で取り返すぞ…。

 右手を素早く発動させてシュパッとタオルを掴んだ。

 呆気なくタオルは戻ってくる。

 笹木は始めから普通に返すつもりだったようだ。

「もういじわるしないって」

「嘘つけ! 信用できるかっ クソバカうんこ性悪オンナめ」

「…む」

 笹木は眉根を寄せてムッとする。

 笹木と渓口が俺の裸に飽きて、もういじるのを許してやるかって空気になってきたところだったのに、彼女たちの心に灯って鎮火しかけた小さな火をまた煽ってしまったらしい。

 俺は気にせず…、いや気付かずタオルで股間を隠し、悠々と歩き出すのだった。


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