それは他愛のない遊びだった。
「早川、大丈夫?」
僕は泣きそうな顔になっている早川を気遣う。
それはせめてもの罪滅ぼしだ。こんな安い言葉じゃなくて本当は麓まで連れて行くことができたらいいのに。
湿り気を帯びた落ち葉が音を立てる。わさわさと生い茂った背の高い草が風に揺れた。山の獣道を僕たちは歩く。
「都築のほうこそ…」
早川琉夏(はやかわ るか)は落ち着かなそうな素振りで僕から顔を背けた。気の強そうな眉と吸い込まれそうな群青の瞳。小さな鼻に尖らせた唇。彼女なりに強がっているのだろう。こうなってしまったのはすべて僕たち男子のせいだ。
男子はどうしようもなくバカな生き物だから女子に迷惑ばかりかける。巻き込んでしまって申し訳がない。
「寒くない?」
「蒸し暑いよ…」
早川は何か言いたそうにしていたが、まだ距離は縮まっていないようだ。同じクラスなのにこんなに長く口を聞いたのは初めてかもしれない。
「まっすぐに進めば、そんなに広い山じゃないんだから必ず降りられるよ。がんばろう」
「…」
心細いのだろう。僕が頼りないのは認める。体力も筋肉もないし、顔だって冴えない。早川でなくても心配になるだろう。
早川は両腕で自分の身体を抱くようにして身を固めていた。
水着姿だから、なおさら不安になるのかも知れない。
早川は白と黄緑のストライプの水着姿だ。この場に似つかわしくないおしゃれ水着。大雨の降った後のジャングルみたいな山の中では浮いている。大自然の中を、より裸に近い恰好で歩いているのだから現代人としては不安になるのも頷ける。
ましてや人前だから、早川は恥ずかしいのかも知れない。
足元は明るい水色のサンダルで、シャギーがかった髪を留めるピンは蛍光ピンクだ。真夏の太陽の下なら、そう例えば市民プールでなら最も似合う恰好だった。
「夏前の冷たい雨が降ったからね。濡れちゃって風邪引かないかって心配でさ」
「あんたより、マシだわ」
ずっと顔を横向けたまま隣を歩く早川。
「都築のほうが風邪ひきそう。丸出しなんだから…」
ふとした一言が僕を現実に引き戻して赤面させる。
僕は全裸の上に葉っぱを一枚、股間に重ねているだけなのだ。
「あ… いやぁ… その…」
僕のほうが早川より薄着だった。
反論の余地もない。
C学1年の春に初めて同じクラスになって、早川のことは何となく意識していた。足が速くて明るくて、成績も悪くないし、みんなを引っ張っていく強さもある。僕にはないものを兼ね備えた異性だ。男として何もない僕なんかは羨望の眼差ししかない。
だからこうして話ができることは衝撃的な感動があった。
C学校の1年は夏の前にオリエンテーションと言って合宿を行うことになっている。二泊三日のキャンプで、文明の利器が通用しない山の中で毎年やっていることだ。二日目の自由時間になって、男子の悪友たちと女子の仲良しグループが合同である遊びを始めたことが遭難の原因だった。
「早川、その… 蒸し暑いっていうか熱いっていうか…」
「は?」
早川はウジウジとしている僕を振り返った。
僕はハッと目を逸らす。
気付かれたかな…。
早川が向こうを向いているのをいいことに、お尻の形や鋭角的な水着のラインを眺めていたのだ。普段は拝むことのできない丸出しの背中や、細~い細い紐で簡単にちょうちょ結びをしているだけの水着。
胸のドキドキが止まらなかった。
あれをちょっと引っ張っただけで早川は水着が取れておっぱいが見えちゃうんだ。決して大人ではない慎ましい胸だけど、緩やかな曲線と薄っすらとつくられた谷間が、確かに女子であることを雄弁に語っていた。
健康的な肌色、水を弾く若々しさ。
僕はずっと見惚れていたのだ。
「あ、やだ…」
早川は視線を落として頬を染めた。ぷいっとまたそっぽを向いてしまう。
なんだろうと思って下を見ると、いつの間にか僕のおちんちんは元気に上を向いていたのだった。
蔓で括り付けた葉っぱは、硬くなった陰茎に押し上げられてパカッと退けられている。ポストのフタを上げるみたいに、いとも簡単におちんちんが露出していた。
「ぁ」
僕は内股気味になって両手でおちんちんを押さえた。いつの間にかカッチカチに勃起してしまったことを恥じた。女子の目の前で、しかも早川の目の前で水着姿に興奮して勃起していたことに激しい羞恥を覚えた。
「…」
早川は後ろ姿だけど耳が真っ赤になっているのが解った。僕のほうが真っ赤だけど、早川もしっかりと異性を感じて恥ずかしいんだ。
可愛いな。
僕はぼぅっと早川のお尻に見惚れていた。
おちんちんが、あまりにも張り詰めすぎて痛いくらいだ。なんで女の子のお尻を見たくらいでこんなに興奮なんてするのだろう。鼻息が荒くなっている。
あいつが、みんなでヌーディストになろうと言い出さなければ… こんなことにならなかったのに…。