「まっ」とダイニングでお母さんが立ち上がった。
え…。あれぇ…? 紙皿は…? 紙皿は床に落ちていた。俺は頭で理解するよりも早く悲鳴を聞いた瞬間に両手で股間を覆っていた。
「ぎゃっはっは!」笹木が腹を抱えて笑った。
「出ちゃった! 出ちゃったよっ おちんちんっ」渓口がみんなに流布してしていく。手を叩いて爆笑だ。
「やーだーもう!」顔を伏せて両手で顔を覆う中邑。耳が真っ赤になって相変わらず可愛い。
西濃や伊駒なんかも顔を背けて頬を真っ赤に染めた。
渡部妹はさすがにこの失敗は笑えないらしい。どうしていいか解らない様子だった。
「おまっ ちょっ この野郎!」真っ赤な顔で怒っている喜多野。怒っているから真っ赤なわけではなさそうだ。
「どうしたの?」
お母さんが登場だ。それは「はい、もう中止ね」の合図だった。みんなの顔が曇る。俺は一瞬だけ安心した。いつまでも恥ずかしいすっぽんぽんで居たくないしな…。
「大丈夫よ」
静香さんが母を遮る。
「紙皿が落ちちゃったけど。誰も見えてないわ。物凄く早く股間隠したもんね? 草凪くん」
「も…、もちろんですよ!」
やっぱり俺は失敗したまま終われない。もっと拍手を浴びたかった。ぽろりしてないことを主張するんだ。
「みんな見えたって思い込んだだけだから。ね?」
静香さんの説得にみんなは「うん、そうかも…」と納得したようだ。
「紙皿が落ちたから、てっきり出たって思っちゃった」
てへっと明るく柏城がフォローを入れた。
「ちゃんと手で隠してるし。アタシ見えなかった〜」
白々しく言うのは砂藤だった。笑いを噛み殺している。笹木もうんうんと頷いた。
お母さんの圧力に女子たちはほぼ全員が俺擁護に回ったようだ。
俺は早く紙皿を拾いたい。しかし渓口の近くに落ちているので拾い辛い。いつまでも両手でおちんちんを抑えているのは情けない姿で恥ずかしかった。
「そっか。大丈夫だったのね〜」
お母さんは笑顔に戻った。もうお母さんも薄々は解っているみたいだったが、お母さんにも大人としての立場があるからぽろりしたら中止にしなければならない。しかし娘の誕生日だ。野暮な真似はしないだろう。
それが証拠に後は任せたわという感じで静香お姉さんに告げていた。
「じゃあお母さんはちょっとお父さんをお迎えに行ってくるから」
逆に言うとそれまでにこの卑猥な芸は終わらせておけよということだ。俺は燃えた。これでまだやれる。完璧に芸をこなして楽しませるんだ。
「危なかったねー。もう少しでぽろりんしちゃうところだったわね。はいこれ」
静香さんが紙皿をひょいと拾い、俺に差し出した。
しかし右手で竿と亀頭、左手で竿の下と玉を隠しているので、おいそれと手は離せなかった。どうしようか迷っているとお姉さんが手を近づけてぴたっと紙皿を股間に充ててくれた。
細くてキレイな手だ。良い匂いがするぅ…。
さわ… と紙皿が股間を覆って俺は両手を離すことができた。俺は今、お姉さんに紙皿越しにおちんちんを触られているんだ…。ぎゅっと押し付けられて「早く持ちなさい」と言っているみたいだ。俺は幸せな時間をすぐに終わらせる。自分で紙皿を持った。
ふさぁと静香さんの去り際にいいシャンプーの匂いが漂う。おちんちんがビクビクと反応している。ちらと中邑のムスッとした表情が視界に入った。なんでそんな顔をするのだろうか。
「こほんっ」
俺は口を閉じて「続きやりまーす!」と明るく振る舞った。こんなもん、恥ずかしがったら負けだ。楽しい雰囲気でお母さんを送り出さないとな。
「待てー! 変質者!」
俺はその場でかけっこをする。刑事になったつもりで架空の犯人を追いかけた。ジャンプして途中でツイストを踊った。
「いいぞー草凪っ」
「完璧だよー」
笹木や渓口が場を盛り上げる。
「銃を捨てろーい!」
俺は口で「パキューン!カーン!パキューン!カーン!」と撃たれる真似をして股間を突き出した。腰を振るようにして紙皿で銃撃を防いだと見せる芸だ。
女子たちの前ずっとおちんちんは勃起している。紙皿でうまく隠してあるので問題ない。完璧だぜ。お母さんが気を使ったのかお父さんを迎えに行くらしい。準備をして部屋を後にした。
「俺ですかー? 俺は丸腰デカですよー!!」
おどけて笑いを取る。
女子たちの笑い声が子供っぽい笑みから質が変化する。もっと大人っぽくなったというか、逆に子供っぽく悪戯な笑みになったというか…。邪魔な大人が居なくなったよとせいせいしているような感じだ。
俺は真横を向いた。
みんなは俺の側面を見ている。股間から紙皿をカパッと離して女子たちに向けて紙皿の底を向けた。俺は下を向いて自分のそそり勃った肉棒を見下ろす。紙皿の圧迫がなくなったので上に向かって立派に勃起していた。しかしみんなからは見えないように紙皿でしっかりガードしてある。ハァハァと興奮してきた。股間を抑えているときはしっかり隠しているという感覚があったが、今は完全に露出しているのだ。誰かに正面に回られたら一環の終わりだぞ。
「やだぁ〜 あははっ」中邑も楽しそうに笑っている。やっと彼女に笑ってもらえた気がした。走る真似をした後で、俺は元の正面ポジションに戻る。
もっと中邑を楽しませてあげたい。
「あ、草凪っ。外に人がいるよー!」
笹木が何気なく口走った。
「えっ」
俺は振り返る。これが失敗だった。開け放しのベランダの外は誰も居ない。騙されたのだ。もし本当に人が居たらさっきの芸で丸見えだったはずだ。焦ったぜ…。
ぱっと元のようにみんなのほうを向き直る。笹木と砂藤が立ち上がっていた。微妙に一歩近づいている。
「ちょっ」
俺はかなり焦った。この芸は近づかれるとヤバイのだ。一歩近づかれるだけで恐怖指数が上がる。後ずさってしまう。
「おっつ!?」
滑っていた。
すってーん!
自分で脱ぎ散らかしたブリーフに足を滑らせたのだ。
ブリーフがポーンと女子たちの居る観客席に飛んだ。ひらっと落ちてきたブリーフを中邑がキャッチする。キャーッと悲鳴の嵐だ。しかしこの悲鳴はブリーフが飛んできたことによるものではなかったようだ。
「きゃーっぁ!!」
キーが異常に高い悲鳴だ。中邑の声だな。
紙皿を落としていた。
俺は予期しない転倒で焦って受け身を取っていた。床に手をついて紙皿を股間から離してしまったわけだ。
びんよよよーんと肉棒が女子たちの目の前で大きく振れたのだった。