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お楽しみ会で 〜地獄のフルチンフルーツバスケット〜(5)

▽中川鞠鈴(マリリン)


「いやーんっ」

 後藤 雛子(ごとう ひなこ)、通称ヒヨコとマリリンが席を取り合った。


 チビ太の提示したお題、「昨日、お風呂に入ってない人」の枠に入ったわけではない。それに嘘を吐いても構わないはずだ。「入浴した」ことにすればいい。

 だが身体は動いていた。

 理由は後藤 雛子(ごとう ひなこ)、通称ヒヨコが動いてしまったから。バカ正直にも程がある。ヒヨコは根暗なところがあるし、お絵かきや読書に集中すると風呂に入らないということがよくあると日頃から友だちにも話していた。少しトロい子だから、周りからも「風呂くらい入りな」と注意されることが多かった。

 彼女のことなど放っておけばよかったという話だが、しかし持ち前の正義感がそれを許さない。


 ヒヨコの風呂嫌いは男子たちには漏れたことのない秘密だ。バカ正直に自分から動いてバラすこともないだろうに。今度から「醜い鶏の子」などと男子たちに揶揄されるに違いない。

 席を取り合うのはヒヨコと全裸のチビ太、そして丸太トンタのやつと奥平 玄樹(おくひら げんき)。普通に考えれば誰も動かないだろうお題なのに、バカ正直な3人はチビ太の戦略に乗ったわけだ。

 チビ太は目ざとくヒヨコが動いたのを見つけた。おちんちんとお尻を手で隠しながら内股でヒヨコの座っていたイスに向かってくる。男子たちと席を取り合うより楽なのは間違いないだろう。ヒヨコはトンタの座っていたイスに向かう。しかし先に玄樹に取られてしまった。

 チビ太、玄樹は席をゲットできた。

 この時点で『籠目籠目』が崩れたことになる。マリリンは話が違うじゃないかと激高して席を立ったのだ。


 だがタイミングが遅かった。

 マリリンの役目はトンタの妨害だ。残るイスは玄樹の座っていたイス。

 マリリンはそのイスに座って、ヒヨコは自分が座っていたイスに座らせようと思ったのだ。


 だが、抜けているヒヨコはマリリンと同じ方向に走った。

「ああっ、やんっ」

 取り合う形になってマリリンは席をゲットしてしまう。振り向いたときには涙目のヒヨコがコケているではないか。

 トンタはその惨状を見て引き返し、悠々とマリリンのイスをゲットしてしまった。


 マリリンは完全に着席するのを途中で止めた。


「ヒヨコさん、立って。席に座って」

「ふぇ?」

 バカな子だ。バカ正直に席を立たなければいいものを。ヒヨコのことだからブルマなんて穿いていないだろう。マリリンは準備してきたから大丈夫だ。席を譲るしかないじゃないか。

 ヒヨコを救う、そのために席を飛び出したのだ。


「うははっ こりゃいいや。マリリン副委員長、脱げ脱げ!」

 充が有頂天になって嘲笑っていた。


 マリリンはブルマを穿いているからと、躊躇なくストレッチパンツを脱ぐ。学校指定の黒色ブルマが晒された。

 意外に恥ずかしい。

 体育のときに見せているものなのに、どうしてこんなにも顔が赤くなるのだろう?


 一人だけブルマ姿なのは羞恥の極みなのではないか。同性であっても恥ずかしい。ましてや大勢の男子の前で脱衣する行為も気持ちのいいものではなかった。

 彼らの目が見開かれている。モジモジするマリリンのモリマンをチラチラと見ているようだった。


「ふんっ、席を譲るとはな」

 充がニヤニヤとマリリンのお尻を眺めている。マリリンはサマーセーターで腰回りを深々と隠した。

 充のニヤつきは、次の籠目システムのターゲットがマリリンであることを示している。


「よし、ここからチビ太に適用した特別ルールを全員に適用すっぞ!」

「いいねー」

「ぎゃははっ 鬼畜の極みやんっ」


 マリリンは死刑宣告を受けた気分だ。

 協定が結ばれたはずのフルーツバスケットがぐちゃぐちゃになっていくのを充のやつは愉しんでいるようだった。

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