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妹の前で(1)

 俺の着替えがない。
 どこにもない。洗濯カゴはもちろん棚の中や後ろも探したけれど見つからない。バスタオルで身体を拭いて、拭いて、拭いていたが、そんなことをしていても出てくるはずもない。これは本格的にない。
「ない」
 つぶやいてみる。でもないものはない。もう一度最初から考えてみよう。着替えを持って脱衣所で今まで着ていた服を脱ぐ。部活で汚れた汚っい奴。そして風呂に入る。で上がってみたら着替えも着ていた服もなくなっていた。バスタオルを腰に巻いてさらに考える。誰かが持っていった? 何のためにさ。
「かーちゃん!おーい」
 俺は母親に着替えの服を持ってきてもらおうと脱衣所のドアから顔だけだして呼んでみる。
「俺の着替え持ってきてくれー!」
 こうなったら誰かに頼むしかない。裸で廊下を歩くほどはしたないものはないからな。しかし母親からは「お前アホかー」としか返事がなかった。代わりにとたとたと廊下を走る足音。
「おいッお前何だ! 来るな!」
「着替えでしょー持ってきたげるー」
 妹の寛子だ。年頃のお前なんかに頼めるか!
「お前向こう行ってろ!」
「お母さんが寛子行ってきてって」
「駄目だっ。お前には刺激が強すぎる!」
「どうしたの? 着替え忘れたの?」
「話し聞け! 向こう行ってテレビでも見とれ!」
「きゃんきゃん煩いなー。棚の後ろとかに落ちたんじゃないの?」
 寛子はそう言って脱衣所に入ってこようとしやがった。
「馬鹿かコラっ」
 俺は頭を引っ込めて脱衣所の扉を閉める。
「もうお前でいいから早く着替え持って来い!」
 中から怒鳴ってやる。
「ちぇっ、うっぜー、ばーか。」
 とたたっと扉の向こうで足音が遠ざかる。
「ちっバカ」
 このとき俺の顔はすでに湯上りのように赤かった。
 しばらく待っていると脱衣所の扉がガラガラっと開いた。
「なっ!?」
 妹が突然入ってこないように鍵でも閉めておかなければと俺は思っていた所だった。そこにタイミングよくというか悪いというか断りもなしに寛子の奴が入ってきやがった。
「お前なに急に入ってきてんだ!」
「はー? なに言ってんの? それより服なかったよー」
「ん? お前こそ、なに言ってる! ないわけないだろっ!そんなことよりお前出ろよっ」
 俺は寛子の背中を押しやって外に出そうと思った。
「いーやー! えっちー」
「バッバカ!馬鹿、アホ!」
 変に騒ぐんじゃねえ。
「おーかーさーれーるー」
「てめーこの! どこで覚えてくんだ、そんな言葉!」
「へへへ」
 俺はムカッときてしまって寛子の頭を殴った。
「いったー! いたーーい!お母さーん!兄ちゃん殴ったー」
「馬鹿か!お前!」
 寛子の口を塞ごうと襲いかかるが笑いながら躱されてしまった。チビだから身のこなしが素早いのだ。そんなことよりも妹をいじめる悪い兄とか変な印象つけるな!
 しばらくアホな言い争いが行われたが、やっぱり俺の服がないということが段々とハッキリしてきた。俺の部屋にも廊下にも妹の部屋にもない。
「あたしのパンツ履いとくぅ~?」
「お前いいからどっか行け!」
「でも何でないんだろうね~兄ちゃんの服」
「…。お前、さてはお前か?」
「えー違うよ! ばっかじゃないの?」
 こうしていても仕方ない。俺は自ら服を探す旅に出ることにする。廊下に出て2階に上がる。俺の部屋に入った。んー、ひと目で解るほど俺の服はここにはないということがハッキリした。
「ってーかお前なんで俺の後付けてくんだ!」
「えー? 一緒に探したげる」
「ってーか俺の部屋入って荒らしやがったな!お前!」
「えー? だってタンス開けないと入ってるかどうか解んないし」
 バスタオル一枚じゃ心もとない。妹の前で情けない格好だ。
「えいっ」
「うおっ!」
「あー、ちんちんみーえたっ!」
 寛子が俺の股間を覗きこんだ。
 俺は両手で視界を遮る。寛子が何を思ったのか俺のバスタオルを剥ぎ取りやがった。


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