「みんな揃ったし始めよっか」
中邑のお姉ちゃん、静香さんが声を上げる。拍手を一つしてみんなの注目を集めた。
「グラス持って。行き渡ってない人〜?」
「大丈夫。持ってる!」
笹木がオレンジジュースの入ったグラスを掲げた。
「あ、西濃さんがまだ…」
「…っ」
目敏く見つけた山元。隅の方にいた西濃が注目されオロオロとしている。自分だけグラスを持ってないことに焦っているようだ。
「自分から言わないと駄目だよ」
お節介な柏城が即座に動いた。中邑のお母さんからグラスを受け取ってテーブルの上のペットボトルを手に取る。西濃は存在感のない大人しいやつだからな。グラスを渡されるまでモゴモゴとしているだけだった。
「ちょっと邪魔っ」
「っ」
俺は柏城を避けてリビングの端に追いやられた。俺もグラスを持っていなかったので勝手にジュースを注ごうとテーブルに近づいたのだが柏城の邪魔をしてしまったようだ。
「あれ? 草凪もまだじゃん」
柏木が気づく。
「なんで早く言わないの?」
山元が批難してくる。
「いゃ… だって…」
始めっからパーティーに参加するつもりもなく抜け出すタイミングを狙ってたのだ。グラスなんて持ったら積極的に参加するみたいじゃないか。
「もうっ はっきりしないやつね。グズッ」
笹木がイライラとした様子で遠くから口撃してきた。
「このっ…」
「そんなことより早く持ってよ。足並み乱さないでっ」
市河がキリッと割り込みグラスを渡してきた。
「ほらほら」
渓口がグレープフルーツジュースのペットボトルを持ってくる。グラスを差し出せと言うらしい。しかし俺はコーラが飲みたい! 俺は手を引っ込める。
「あーいや…」
「モタモタしてっ 中邑さんを待たせないでよ」
横から小島が文句を付けてくる。優等生的な女子だ。
「男子ってすぐ拒否るよね〜」
「そうそうっ」
「先生が並べって言っても並ばないし。落ち着きがないのよね」
外野から砂藤、守谷、渡部の三人が勝手なことを喋っていた。
「ほんとそうだわ。やるなって言うとやるし。やれって言うとやらないし。男って勝手だわ!」
喜多野がケッと蔑むように俺を見た。何故そこまで言われなきゃいけないのか! ガサツでスポーツバカの喜多野に言われたくない。
「仕方ないのよ。悪戯してみんなの気を引きたいんだね。たぶん」
凛とした伊駒が解ったようなことを言う。クールでお姉さんタイプの彼女はちょっと苦手だ。喜多野と伊駒のコンビは頷き合っていた。
「遠慮してるのかな?」
中邑が主賓席から困った子を見るような目で言い放った。
「足並み乱そうとしてるのよ。きっと」
市河がメガネをクイクイッと上げ上げして したり顔だ。クールぶっているが頭に金色の三角帽子を被ってる。星の柄の入ったノリノリのやつだ。
「男子一人だけだからひょっとして恥ずかしい?」
静香さんがニコニコとフォローするように言ってくれたが、恥ずかしがってるなどとは、そんなことがあるわけがない。
「ぃゃ… ぁ」
「顔赤くなってるもんね」
髭の付いた鼻眼鏡を着用している山元が合いの手を入れてくる。
「モゴモゴして男らしくないね〜」
渡部の妹が見下したような言い方をする。このガキ…。
「あれでもクラスでは威張って態度でかいのよ」
近くの杁山がフフと笑いながら渡部妹に教えていた。あのデブ…。
「へぇ 女子に囲まれてオドオドしてるんだっ」
渡部姉がクスッと小馬鹿にしたように俺を見た。コソコソと外野から口々に言いたい放題…。どいつもこいつも好き勝手言いやがって!
「早くしろよ バカ草凪っ」
イライラした笹木。
「きゃははっ 怒られてやんの。バカだって草凪!」
無理やり渓口がジュースを注いできた。
「くっ… いい加減に…」
「これ被りなよ」
山元がパコッと勝手に変なものを被せてきた。誕生日ケーキの形をした帽子だ。やたらとロウソクが突き刺さりヒサシの付いた派手なデザインだ。これじゃまるでハッピーボーイじゃないか。ノリノリで参加してるみたいで恥ずかしい。
蝶ネクタイにHAPPYとデザインされたメガネを付けられてクラッカーまで持たされた。女子たちはこぞって吹き出して笑顔になった。
中邑のお母さんがダイニングから微笑ましいわねといった様子でこの光景を見ている。
「じゃあ始めるわよ」
静香さんがパンパンッと号令をかける。お笑い芸人ぽくなった俺を見て笑う女子たちを窘めたのだ。
どうして女子が集まるとこんなにも口出しができなくなるのだろうか。数の暴力だ。反論する隙間もない。俺は苦汁を飲んでハッピーボーイになるしかなかった。
*
照明が落とされて、「おめでとー」と中邑を祝う歌が唄われ、火の付いたロウソクを中邑が吹き消される。クラッカーが鳴り響いて拍手される中邑。キラキラと輝いて可愛かった。さすがは俺が目をつけた女だけのことはある。
一連の誕生日儀式が終わってプレゼントを渡す段となった。
「お姉ちゃんからはコレよ」
静香さんが大きな包を持ってきた。
「わぁ、大きい。ありがとうっ」
ぱぁっと中邑は笑顔になる。ずんぐりとしたトロそうなクマのぬいぐるみだ。
粗大ごみになりそうなくらい大きいぜ。さぞ迷惑かと思いきや、中邑は嬉しそうだった。女子ってあんなものがいいのか。
粗大ごみになりそうなくらい大きいぜ。さぞ迷惑かと思いきや、中邑は嬉しそうだった。女子ってあんなものがいいのか。
「何か食べれるものがいいかなと」
市河は持ってきた紙袋を渡していた。
「凄ぉい。手作りのクッキーだー」
中邑だけでなく他の女子たちからも歓声が上がった。チッ 楽しそうにしやがって。その後もプレゼントが続き中邑のそばには大小様々な物で満たされていった。
「これでみんな渡し終わったかな?」
静香さんが周囲を見回して確認する。一斉に女子たちの目が俺に向いた。俺は一人隅の方でちびちびとジュースを呑んでいる。
プレゼントだと? 持ってこなかった。元々は男子たちが共同で金を出し合って何か買うとサトシが言っていたのだ。サトシたちに任せていたのだから俺が持ってくる道理がない。サトシたちに騙されていたとしても、俺に非はないはずだ。
しかしそんな事情は知ったことではない女子たちはシラーッとした目で俺を見る。
「な… なんだよ…」
俺は目を逸らして知らん振りした。
それまでの和気あいあいとした雰囲気に水を差した形だ。だが知ったことではない。男の俺には関係ないね。
とりあえず俺がプレゼントを渡していないことは不問にされて誕生日イベントは続行する。次はゲームをするようだ。静香さんの司会でリビングにスペースを作っていった。
用意されたのは赤・青・黄・緑のマルが並んだ4×6マスのシート。ツイスターゲームだ。こんな子供騙しのお遊びに俺が付き合うわけない。
しかしまさかこれを全裸で行う日が来るとは誰が思うだろうか!
コメント
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きっかり6:00に更新してくれるのはありがたい!
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> きっかり6:00に更新してくれるのはありがたい!
こちらこそ読んでいただいてありがとうございます!
予約投稿してますのできっかりなのです。