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肝試しで(10) 〜イケメンなのにビビってお漏らししちゃった〜 最終話

 生きているのか?

 希空の笑い声が今もまだ頭の中でこだましている。あれはいったいなんだったんだ? 希空の過去の記憶だったようにも思える。神主の一家が惨殺された事件と関係があるのかも知れない。よく解らないが俺は暗闇の中を歩き回っていた。

 どうやって土葬から脱出できたのか、希空が助けてくれたのかもよく解らないままだ。

 結たちや宮永の姿もなかった。俺は一人でさまよいながら《子ども会》の肝試しのスタート地点である公民館に辿り着いた。

 裸のままペタペタと舗装された道に出る。公民館の裏手側だ。雑木林の中から出てきた俺にたくさんの目が向く。


「きゃっ!? フルチン!」

 赤いスカートにブラウンのサマーセーター姿の由香里。一番最初に目ざとく俺を見つけて大声で叫びやがった。

「やぁあん!? ヘンタイッ!?」

 隣の友歌も振り向いて俺の姿を認め驚く。水色ワンピースの裾がひらりんっと浮き上がってすべすべの太ももが見えた。


 俺は丸出しになっていたおちんちんを両手で急ぎ隠した。そして慌てる。あたふたと隠れられる場所を探す。180度見渡す限り、肝試しを終えた子どもたちと役員の親御さんばかりだ。

 背後の雑木林にまた野人のように飛び込むしかない。

 俺は飛び上がって足をバタバタさせながら草木を掻き分け這入っていった。お尻もおちんちんも丸出しだ。後ろで役員の大人が「待ちなさい君ぃ!」などと叫んでいた。

 まだ女子たちの悲鳴が聞こえる。

「おちんちん丸出しだったわ。あの子っ」

「なんですっぽんぽんなのよ!?」

 困惑ぶりが伝わってくる。

 逆に男子たちは落ち着いていて「ギャハハ」「なんだーあいつー!」などと笑い合っていた。


「コラ! なんでそんな恰好しているの!?」

 役員のおばさんたちに捕まった。

 俺は羞恥で顔や耳を真っ赤に燃え上がらせた。肩を掴まれてふくよかな肉体のおばさんに持ち上げられる。羽交い締めでそのまま再び雑木林の中から出ていった。


「お、また出てきたぞ野人!」

「なんだやっぱり太牙じゃんっ」

 男子たちは爆笑している。歳下のクセに先輩を呼び捨てだと? 舐めやがってぇえ! 怒りに顔を真っ赤に染め上げるが既に羞恥で真っ赤なので特に変わりはなかった。この怒りは伝わらないようだ。


「や~ん。見てアレ。皮がものすごいいっぱい余ってる~」

「ほんとだー。だっさーぃ」

 ませた女子たちが俺の股間を指差して笑っていた。

「確かC3だよね? あの人?」S6と思われる女子が友だちにヒソヒソと喋っていた。「どうして毛が生えてないのかな? ふつー生えてるよね?」

「成長が遅いのよ、きっと。背も小さいし童顔でしょ。おちんちんも豆粒みたいだし」

「確かに。アレじゃ、あたしの弟と変わんないもんなー」

「参加してる人で最年長なのに一番お子ちゃまだねー クスクスッ」


 男子も女子もこの珍しい生き物をもっと近くで見ようとふくよかなおばさんの周りに集まってくる。しかし俺は足をばたつかせているので半径1メートル以内には入れない。

 たくさんの目がジロジロと俺を見つめる。口々に好き勝手なことを言ってS5の頃から成長の見られない俺のアソコを笑っていた。

「やめろっおろせっ見るな!」

「ほんとにどこの子かしら?」

 迷子の仔豚でも捕獲したったみたいな感覚で俺を持ち上げるおばさん。俺は股間を隠せないままフニャフニャの肉棒を振り乱した。内股でジタバタ暴れるみっともない姿だった。


「一人でナニしてたんですかー? お兄さん」

 由香里がにまにまと小馬鹿にした感じで訊いてきた。

「やめなよっ。可哀想でしょー」

 友歌が歳上の俺に向かって弱者扱いだ。かばっているフリをしてうふふクスクスと笑い、股間に注目しつつ安い同情を買う。

「くっそ! 離せったら放せ!」


「ヘンタイ! ヘンタイ!」

 男子の誰かが音頭を取り始めて踊った。

 いくら歳上でも自分たちより子どもなモノを持ち合わせているやつは格下だ。誰かが手拍子を始めて囃し立てられた。

 おばさんに羽交い締めで持ち上げられているのでちょうど子どもたちの目の高さに俺の股間がくる。いい見世物になった。


「ちょっと退きなさい。あなたたち」

 やっと大人が出てきて俺を公民館の中に連行していった。しかし当然 わらわらと子どもたちも付いてくる。

「!?」

 俺は摩耶花と目が合った。

 地味な服装にパッとしない顔の少女。空いているパイプ椅子に腰掛けて紙コップでお茶を飲んでいた。ずいぶんと大人になったな。足を組んで落ち着いた様子だ。近所に住む昔から面倒を見ていた可愛い子だったのに。今では俺のほうが子どもっぽい。素っ裸で捕獲された俺の姿はいつも優しくしてくれた近所のお兄ちゃん像とはかけ離れている。

「………」

 摩耶花も俺のことを見て笑っているみたいだった。

 あの冷めた目が存分に物語っている。


 いや、緊張を孕んでいるのか。よく見れば強張っているようだ。俺の後ろを気にしているっぽい。なんだか背筋が寒くなった。

 おちんちんが必要以上に縮こまる。


 ふくよかなおばさんにやっと降ろしてもらえて、大人たちがタオルだなんだと忙しく動き回っているところで突然の暗転…。

「キャー!!」

 女子たち全員が一斉に悲鳴を上げた。


 停電だ。


 公民館の中が真っ暗になった。電気の使いすぎなわけでもないし天気も悪くない。なぜ、突然? よく解らないが不可解な停電だ。チカチカ… パッパッと点いたり消えたり…。明滅を繰り返して暗闇の時間が3秒間続いた。


「よかった。みんなと合流できて」

 血まみれの結が立っていた。


「ぇうえ!!?」

 心臓を鷲掴みされたみたいにビクついて仰け反った。今日イチで驚いて腰が抜ける。

 その場で尻もちをついて鼻水を盛大に吹き出した。


 結、愛流、美由紀の3人が白装束のオバケメイクのまま突然 現れたのだ。なんだかモヤッとしていて、暗闇に浮かんでいる。

 またチカチカと明滅してパッと照明が元に戻る。大人も子どもたちもパニックだ。ザワザワとざわつく。明るくなると結たちの姿がなかった。どこにもない。


 ぷしゃー…

 じょぼぼぼ~


 股間が熱かった。黄色い生温かな水溜りが生成されていく。


「キャー!!!!!」

 女子たちが停電のときより大きな悲鳴を上げた。

「やだお漏らししてるっ!」

「きったなーい!」


 オバケなんて存在するはずがない。

 精神の弱いやつらの世迷い言だと思っていた。俺の精神が参っていたのか、本当に存在していたのかよく解らないが射精させられたのは間違いないんだけどな。


 じょぼぼぼ~

「やだー! いっぱい出てる~」

「くっさーい!」


 後に聞いた話によると近くで林間学校に来ている生徒たちなどいないそうだ。10年前に謎の交通事故でバスが崖から転落…。今も彼、彼女らは永遠に終わらない林間学校を過ごしているのだろうか。


 ブクブク~

 俺は泡を吹いて最高に情けない姿を晒しながら、黄色い水溜りにどちゃっと大の字に倒れたのだった。


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