△ミツル
荒れるな。
充は異変を感じ取っていた。このフルーツバスケットは何かおかしい。
富澤秀吾(とみさわ しゅうご)という男子が『鼻血を出して保健室に運ばれる』役だったはずだ。彼を血糊で流血沙汰にし、担任の先生を保健室へと付き添わす(教室から追い出す)という重要な役目。
先生が居てはパンツ丸出しフルーツバスケットができない。だから最初の鬼、アンコに「青い服」と言わせるように指定したのだ。秀吾は青いラインの入ったシャツを着ていたので、充は遅れて動くフリをして秀吾の足を引っ掛けようとした。
しかしその初動で誰かに妨害されたような気がした。青い服を着ている誰かが秀吾と充の間に入って、その隙きに秀吾は席に着いてしまった。
しかたなく狙いを里見富美加に変えたのだ。
結果として富美加が転び、スカートが捲れてガチの鼻血を出すことになる。さすがに焦ったが充は悪役を演じきるしかなかった。一流のサッカー選手を尊敬する充は、彼らを真似してあからさまなファールでも「触れてないデスヨ!」と潔白をアピールした。
「引っ掛けてねーよ? コイツが勝手に転んだだけだし!」
鬼になったチビ太は連続してイスに座れない『籠目システム』に嵌っていた。
充が急遽、ノリで追加した彼だけの特別ルール、『イスに座れなかったらズボンだけでなく上着やパンツも脱げ』。これによってチビ太はおちんちん丸出しという憂き目に遭っている。
ぶりゅりゅーん
未発達で完全皮被りのおちんちんが女子たちの前で振り回された。
クラスメイトの前で完全脱衣に追い込まれた後、さらにイスに座れなかったチビ太はトカゲダンスを披露する。
ぺたぺたっ
ぺたぺたっ
股間を隠すことなく両手を窓拭きでもするみたいに上下させ、足をガニ股にしてカエルスタイルで飛び跳ねる卑猥なダンスだ。股にぶら下がった金玉袋や小さな肉棒がぺちんぱちん、ぶらぶらと滑稽な動きを見せた。充の仕込んだ恥ずかしいイジメの全裸ダンスはクラスメイトたちを恐怖させた。
「やだ、なんか可哀想」
「充の言うことなんて聞く必要ないよっ」
女子たちから憐れみの言葉をかけられるチビ太。しかし長年『手下』として充に従ってきたチビ太は充が「いい」と言うまで止めないのだ。
嘲笑っているのは充を始めとした仲間の男子だけ。
ぴょこぴょこ!
ぺたっぺたっ
ぶらんぶらん!
ぺちんっ!
ぶりゅん!
いつもの光景とは言え、着衣したクラスメイトに囲まれているという特殊な状況でフリチンチビ太の全裸トカゲダンスは地獄の映像に見えた。ゴクリと生唾を呑む一般の生徒たち。要するに笑えないわけだ。
「もういいでしょ? 早く次のお題言いなよ」
「チッ…。チビ太、次のお題」
女子は男子の全裸ダンスなんかに興味がないらしい。アンコが似非の正義感を出してきたので充はチビ太のダンスを静止させた。
チビ太は背を丸めて「ハァハァ」と息切れしながら股間に右手を当てる。左手はお尻を隠した。悲壮感が漂っている。
「時間もったいない。早くしろっ」
もたもたしているチビ太に命令した。
充は支配者だ。ゲームマスターでなければならない。
実際問題、女子をパンツ丸出しにさせて恥晒しをさせるのは実現しないだろう。充にしてもノーパンなので鬼になるのは避けたい。
落とし所としては籠目システムでいつものヤラれ役、チビ太に犠牲になってもらうのが正解なのだろう。
どんなお題を出されても全員で協力してチビ太の足を引っ掛けるだけだ。自分が鬼になりたくなければそうするしかない。
「き、き、昨日…」チビ太は内股で下を向きながら叫んだ。「お風呂に入ってない人!」
「!?」
一瞬にして全員が視線を交錯させていた。