△リュウシン
「トイレに行った後、手を洗う人!」
鬼の提示したそのお題に女子たち全員が動いた。中には手を洗わなかった人も居るのかも知れないが男子たちの目がある中でカミングアウトすることはできないだろう。反対に男子の一部はなんと思われても構わないという連中も居る。トンタや夏男、冬彦などは動かなかった。
竜心はブリーフ姿で走る。
後藤雛子が座ろうとした席にタッチをした。絶望の表情を浮かべる雛子に竜心は容赦なく席を奪うことを決断した。
「動かなきゃよかったのにね?」
「ひーん」
雛子のような面倒くさがりは手を洗わないのではないかという偏見だ。竜心の小声の呟きは雛子の足を竦ませた。
「このっ」
「!?」
奈々が低空タックルを仕掛けていた。
「てやー!」靖奈が竜心のシャツを掴んで引き倒す。「ヒナっ。今のうちに座りな」
「くっ…」
竜心は死角からの攻撃に這いつくばる。奈々はヒットアンドアウェイでスカートをひるがえして逃げていった。竜心が立ち上がる頃には席が埋まってしまう。
「卑劣な…」
まさか学級委員長の自分に卑劣な行為をされるとは思ってもみなかった。なんだ、この女子たちの連携は…。まるで竜心を籠目システムに嵌めようとしているかのようじゃないか。
竜心はハッと気づく。
「狙われていたのか」
「委員長。残念だけどルールだよ」
マリリンが哀しそうな顔で告げると他のバカ男子たちはヤンヤヤンヤと「脱げ脱げ」コールだ。連続して鬼になった者はシャツも脱がなければならない。
竜心はごねても仕方ないとシャツを脱いだ。パンツ一丁になる。
「クスッ。委員長がこんな恰好になるの初めてじゃない?」
奈々が足をブラブラとさせながら周りの友だちに大声で話し、羞恥を煽る。
「やだよ。まともに見れないっ」
雛子などは恥ずかしがって顔を背け、これもまた羞恥を煽られた。
竜心は狙われるようなキャラじゃない。イジメられる側になったことはないし、弄られて笑いを提供するようなキャラではないのだ。それなのに、この女子の結束はなんだ?
このままではまずい。
「今日、体育の授業受けた人!」
ノーマルなお題だ。これなら男子も大半が動く。竜心は狙う席を女子と争わないように心がけた。男同士なら嵌められるような真似はされないだろう。
しかし、誰かの足が引っかかる。
「うあっ!?」
片足でバランスを取りながら転けるのを避けた。ブリーフ一枚で千両役者のようにコート内を立ち回る。
竜心は見た。
足を引っ掛けたのは下平瑠璃香(しもひら るりか)、通称ラリ子だ。
偶然のバッティングを装い近づいてきたようで彼女も転けている。だが空いている席が目の前にあったのでラリ子は席を奪取していた。計算されていたということか?
竜心はまたしても鬼となってしまう。
「おぉい、委員長! まさかの3連続鬼かよ! しゃーねーな。とっとと脱げよ」
「いや… ちょっと待ってくれ。今のは足を引っ掛けられてだね…」
マリリンが興奮したように充と竜心の間に入ってくる。
「イイワケは委員長らしくないよ! 前田さんだって脱いだんだからね!」
「そうよそうよ」
「男なら潔く脱ぎなさいっ」
女子たちから総攻撃に遭い、竜心の言い逃れの道は塞がれた。
「だけどフェアじゃない。足を引っ掛けられて。さっきだって…」
だが、なおも竜心は粘る。だって、みんなの前でパンツを脱ぎたくない!
「まだイイワケしてるのね。見損なった、委員長。時間がないんだから、みんなで協力して脱がしてあげましょうっ」
「よしきた!」
マリリンと奈々が先導をきって竜心に駆け寄った。パンツを脱がそうという気がマンマンの目だ。
他の女子たちもルールに従わない竜心に襲いかかる。
竜心はラリ子の二マァという表情を見逃さない。彼女は確実に狙っていた。充のパンツを盗んだのもきっとアイツだ。
「手離しなさいっ」
「往生際の悪い委員長ね!」
「男子の癖に何を恥ずかしがってんのっ?」
「おちんちんなんて見せたって減るもんじゃないでしょ!」
「ちょ、ちょっとやめてっ」
ずりっぶりんっ
必死の両手のガードも虚しく、女子たちにパンツを引き下ろされてしまう。縮こまった陰茎がぶららりーん! と女子たちの目の前で踊った。
「うわっ」
竜心はパンツを膝まで下ろされて立っていられなくなり転んでしまった。
おちんちんがぴょこ! と跳ね上がる。
両手を後ろに付き、尻もちをついた竜心。女子たちがキャー! と歓喜の悲鳴を上げた。ブリーフはしゅるしゅるっと足首から抜けて、完全に奪われてしまった。
「はっ!? 見るなっ」
「へえ委員長でも半分被ってんだ?」
奈々は逆襲するようにみんなに聞こえる声で話す。
「うふふ」
「くすくす」
身包みを剥がされたクラスの代表たる優秀な竜心が女子に囲まれて素っ裸を晒す。竜心は両手で股間を覆って女の子座りとなり、背を丸めて赤面した。