急ぎ気味に大浴場を出て玄関ホールに辿り着いた。俺と同じ組の男子に追いついて、そいつらは俺がすっぽんぽんなのを面白がってニヤニヤと笑っていた。
「お前ホントに全裸で帰る気かよっ?」
「女子に見られてやんのっ」
「サトシんとこ先に行って服 取ってきてやってもいいぜ?」
「ぉう… …いいや、大丈夫だ。男がこんなもん恥ずかしがるもんじゃねぇ!」
俺は友だちに強がって答える。恥ずかしがるから笑われるんだ。男なんだから堂々としていればいい。そうすれば誰も変に思わないだろう。
スリッパからサンダルに履き替えて俺は玄関を出た。
夜の空気が心地良いぜ。
「居たっ。居たよっ」
「やべー…。あいつホントに裸で戻るつもりなんだ…」
笹木と渓口の声だ。
引き離したと思ったのに、俺と同じ入浴時間帯の女子たちが追いついて来やがった。なんだか心なしか声が弾んでいるようだ。嫌な予感がして俺は足早に他の男子連中と歩き出す。
俺たちが泊まっているのは温泉街でも高原の一等地でもない。普通の町中だ。近代的な安いビジネスホテルみたいなところで、風流もなにもあったもんじゃないが、予算の都合とかで仕方ないのだろう。ビルが立ち並ぶ歓楽街と閑静な住宅街の間にある感じの町だ。
全裸で歩く俺の後ろからクスクスと女子の笑い声が聞こえてきた。
「チッ」
俺は舌打ちする。笹木はギャルっぽいノリだし、渓口はバカだから何か企んでいそうだ。
道路はクルマが2台ギリギリですれ違うくらいしかできない狭さである。白線を引いた歩道しかなく、別館に戻るにはこの道をまっすぐ行くしかない。女子たちがスピードを上げてきた。サンダルと運動靴の音が徐々に近づいてくる。
「ねえ草凪ぃ。すっぽんぽんになる趣味でもあるの?」
嬉しそうに回り込んでくるのは笹木だ。サイドに髪を結って、ぱっちりとした目が特徴的な女子なんだ。こいつは色黒かつ陽気なやつで、よく悪戯っぽい笑みをする。
タンクトップの重ね着に腰の形が浮き出るようなパツパツのショートパンツが目に飛び込んできた。普段は学校に着てこないようなラフスタイルである。
「うぅるせー」
「服持ってかれたってホント?」
渓口は笹木の後ろから顔を出して犬みたいに喜んでいやがる。かなり短いショートカットだが、ゴムを使い右っ側の髪を縛っていた。どこか少年の雰囲気もある。ちんことかうんこって言うだけで笑うくらい幼いやつだ。Tシャツに短パンというセンスのかけらもない恰好をしている。
「知らねえよっ」
「よく裸ん坊で歩けるよねぇ」
「きっと羞恥心がないんだよ、男子って」
俺のすぐ背後にまで迫っていた中邑と市河の声だ。
中邑は俺のクラスでは美少女として通っている。いつもはポニーテールにしている髪を風呂上がりだからか下ろしていて、いつもと違う髪型に俺はドキドキしていた。正直、可愛いぜ…。長くて艶のある柔らかそうな髪。清潔なポロシャツにプリーツのスカート。風呂上がりでも普段と変わりない服装だ。
俺は家ではいつも裸でウロウロしていたくらい自分の裸体を何とも思わない。しかし人生で初めて味わう感覚だ。女の子の前でおちんちん丸出しが恥ずかしいことだと思えて、顔がどんどん熱くなってきた。
隣の市河は眼鏡がないとどこにもいけないキャラで、ショートボブの大人っぽい奴だ。頭脳派っぽくニヒルな感じで澄ましているが、勉強が得意というわけでもない。むしろバカだ。性に対しては潔癖な感じで、学級委員長タイプなんだ。恰好はダサくて味気ないジャージ姿。しかし4人の中では胸は一番でかい。
「うるせえっ 退けっ」
俺は笹木と渓口に行く手を遮られる形で歩くスピードが鈍っていた。4人のフォーメーションはいつの間にか俺を四方から取り囲む形になっている。
「邪魔だっつーの!」
「住宅街なんだから静かにしなよ」
市河が大人っぽく諭す。
「裸で歩いてたら警察に捕まるかも」
中邑が後ろでぼそっと刺してきた。
「こっ こんなもんで捕まるかよバーカ」
「一応大事なとこ、隠れてるもんね? 大丈夫じゃん?」
渓口がよく考えもせずに喋っていた。
「じゃ、これ取り上げたらどうなるのかなぁ?」
笹木が、ぅひひっと手を伸ばしてきた。俺の前を隠してるハンドタオルをむんずと掴むのだ。
「な… あっ!? やめろっ」
俺は身体を丸めて防衛した。
右手でハンドタオル、左手でお尻の割れ目を押さえていた俺は、笹木に急襲されて立ち止まる。伸ばされた手がハンドタオルを奪おうと引っ張ってきた。
「ちょっ おっ あおっ!?」
始めはおちんちんに直付けで密着していたハンドタオルだが、掴まれて引っ張られると弱い。上から押さえていたのではすぐに持っていかれてしまいそうだ。
俺もハンドタオルの端を握り、防衛する必要があった。この判断が早くて、俺に唯一残された布を持っていかれずに済んだ。
「えへへっ ほれっ。それっ」
笹木は確信的に俺を辱めようとハンドタオルを奪いに来ている。「これを失ったら女子の前でおちんちん丸出しだねっ。わぁー恥っずかしー」て顔に書いてあるぜ。
ニヤニヤと優位に立った者の笑みで、さらに引っ張ってくる。なんと両手持ちだ。
女子4人と俺は立ち止まって攻防を繰り返した。
いかに単純な力が勝っていようとも俺の片手と女子の両手では分が悪い。グイッと引っ張られてタオルが肌から離れた。俺はまずいと思って、お尻の割れ目を隠していた左手を援軍に送る。
両手対両手。
これで俺の勝ちだ。
「きゃっ」
後ろで可愛らしい中邑の小さな悲鳴。
「うわ…」
汚いものを見たと言わんばかりの市河の声。
「あはっ♪ みーえたっ」
子どもっぽい渓口の笑いを含んだ声が俺を混乱させた。
おちんちんが丸出しになっている。夜の外気に触れていた。俺を取り囲む女子たちの前で、俺は恥ずかしいところを丸出しにしているんだ。
今までこんなにチンコごとき、他人に見せることが恥ずかしいと思ったことはなかった。風呂上がりの女子たちは火照って肌ツヤがいい。髪から流れてくるシャンプーの匂いと笑い声の温度が俺を包む。
今日の夕方までは普通のクラスメイトだったのに。なぜか俺は同級生という権利を失った気持ちになる。もっと下の存在だ。
「ほらっ こっちに寄越しなさいよー」
笹木は仲間の女子が笑うのを見て気を良くしたのか、もっと大胆にアクションする。後ろに飛ぶように下がって引っ張るのだ。綱引き状態で俺は下半身丸出しのまま引き込まれていた。
ぶらぶらんとおちんちんが揺れた。
「ぷっ」
「くす」
後ろで笑われているのが解った。
「おらおらー」
笹木は調子に乗って腕を振り回し、大縄跳びでも回すかのようにハンドタオルを奪おうとしてきた。必然的に俺も腕を振り回すことになる。
ぶっらーんぶっらーんとおちんちんも女子たちの前で振り回される。
ひょうきんな動きに笑い声が大きくなった。
女子ばかりか仲間の男子たちも笑っているのだ。仲間がピンチでもあいつらはこれをピンチと思ってないらしい。女子と一緒になって笑ってやがる。
ぺちっ
ぶらーん
太ももに、お腹に、ふにゃチンが当たって彼女たちを喜ばせた。笹木は尚も大うちわを仰ぐがごとくハンドタオルを振り回すのだ。
「やぁだー もう恥ずかしいー」
「あははっ おもしろーい」
笹木と渓口が俺の前でとても楽しそうだ。
「やめてあげなよー」
中邑は俺に同情をしながらも笑っている。
「男子って不潔だわ…」
ぶつくさと市河は低能な光景に文句を言っているがガン見はやめてくれないし、痴態を止めようとしないのだ。
「やめりょっ」
俺は鼻水を垂らしながら抗議して抵抗して懇願した。
しかし、ついにハンドタオルは俺の手を離れてしまう。終わってみれば一方的に奪われただけの戦いだった。
ぶっらーんとおちんちんが踊って、俺は生まれたままの姿で、躓いて転んでしまった。